第286話 霊薬
「マジか。だったら勝てる、か?」
などと簡単に行く訳ないか。問題となるのはドミニクの『天狗』と言うスキルがどんなものかだな。それ次第では苦戦する事になりそうだ。いや、『信仰』もあったんだ、他にもスキルを保有している可能性も考慮しておこう。
「って言うか、ぶっちゃけ皆さんのレベルってどれくらいなんですか? 俺、『鑑定』のスキル持っていないから、分からないんですけど」
俺の質問に、一際大きな溜息を漏らしたのは武田さんだ。まあ、武田さんからしたら、レベルは分かっていて当然なのだろうけど。
「工藤は自分のレベルは分かっているのか?」
と逆に武田さんから質問された。
「四十手前ですよね?」
「なんだ、分かっているんじゃないか。三十九な」
ほうほう。三十九か。中々良いんじゃないかな。
「ちなみに、俺を除いてこの中で一番低いのが工藤だ」
全然大した事なかった。
「ええ!? 本当に!?」
驚く俺に首肯で返す武田さん。
「勇者パーティは四十代前半で、バヨネッタとリットーは四十代後半だ」
マジか。そんなに差があったのか。でも勇者パーティとはそんなにレベル差を感じないんだけど?
「工藤が強いのは、体内にいる化神族のお陰だ。でなければ、工藤はここまで来れていない」
ああ、そうですよねえ。最近同化の一途をたどるアニンくんですね。いつもありがとうございます。
『ふむ。感謝の言葉を聞いたのは初めてだな』
などと、最近にしては珍しくアニンが返答してくれた。また、体内で何か画策しているのだろうと思っていたけど、そうでもない?
『あのなあ、この際だから言わせて貰うが、最近のハルアキは忙し過ぎだ。お主の体調管理を、誰がしてやっていると思っているんだ。私がいなければ、ハルアキはもっと前にダウンしていたぞ』
あはは。そうでございましたか。それはそれは、本当にありがとうございます! 確かになあ、高校生がやって良い規模の行動じゃないんだよなあ。それを言ったらシンヤもそうだから、これは口に出さないでおこう。そして話を戻そう。
「武田さん、それじゃあゼラン仙者はレベルいくつなんですか?」
先程の武田さんの説明に、ゼラン仙者の名は出ていなかった。シンヤたちが教えを請うくらいだから、低いって事はないだろう。もしかしたらレベル上限の五十の可能性もあるな。
「五十八だ」
「…………はあ!?」
素っ頓狂な声を上げてしまったが、それも仕方ないだろう。さっきレベル五十が上限だって教えられたのに、直ぐ様それを覆されたのだ。変な声だって出るよ。
「どう言う事か、説明はして貰えるんですよね?」
今度は俺が白い目で武田さんを見る番である。
「どう言う事も何も、仙者だからな」
成程ねえ。
「いや、説明になってねえよ!」
「はあ」
嘆息された。何? 俺が察しが悪いって言いたいの? そっちの説明不足でしょ!?
「こっちの世界にも仙人の伝説ってあるだろう?」
「はあ、ありますねえ」
「あの仙人と同じようなもので、仙者って言うのは生命としての限界、レベル上限の五十を超えた者に与えられる称号なんだよ」
「へえ、そうなんですね。それならそうと言ってください」
「はあ」
また嘆息された。そしてトゥインクルステッキに乗るバヨネッタさんをジト目で見遣る。説明しておけよ。って顔だな。まあ、説明されなくてもなんだかんだここまで来れているしなあ。
「だったら、ゼラン仙者だけでドミニク倒せちゃったりするんじゃないですか?」
「ハルアキには私が戦闘型に見えるのか?」
「すみません。見えません」
見た目からして子供だしな。スキルなんかも戦闘型ではないのかも知れないな。言っても戦闘型のスキルって何だ? 俺のも戦闘型じゃないし。バヨネッタさんも武田さんも違う。リットーさんは『回旋』って言う変化球だ。シンヤの『加速』や『怪力』は戦闘型かな? 勇者パーティのは知らないなあ。スキルは皆あまり口にしないんだよなあ。そう言うところも個人主義だな。
「でもゼラン仙者がそれだと、ドミニクが上限を超えている可能性もあるんじゃないんですか?」
「だから『ほぼ』確定だと言ったでしょう」
バヨネッタさんに呆れた声でもう一度言われた。あれは五十に達していない。ではなく、五十を超えているかも知れない。って話だったのか。
「まあ、レベル五十を超えるには、金丹が必要になってくるからな。それを入手出来ているかどうかで、そのドミニクとやらのレベルが変わってくるだろうな」
とはゼラン仙者。
「金丹、ですか?」
「エリクサーの事よ」
エリクサー! 首を傾げる俺に、バヨネッタさんが教えてくれた。成程、エリクサーか。確か賢者の石と同一とも、そこから作られた霊薬とも言われているあれだろ? 不老不死になるとか、どんな傷や病も治す万能薬とか、そう言う伝説に出てくる代物だ。
「成程、いくらドミニクでも、伝説の霊薬を手に入れているとは考え難いですね」
俺がそう口にすると、全員から白い目で見られた。何かな?
「ハルアキが今それを言うと、それがフラグになってドミニクが持っていそうだよ」
シンヤの言葉に、一同揃って首肯するのだった。
「それはつまり、ドミニクがレベル五十を超えている前提で行動しようって事だな!」
明るく返す俺に、しかし皆の白い目が痛かった。
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