第285話 50/50

「もう少しだ! 皆頑張れ!」


「…………」


「……おう」


 武田さんの励ましに、ぐるぐる棒回し係は無口で応えるので、俺が一応反応してあげた。だって延々とぐるぐる棒を回し続けるとか、普通に拷問なんだもん。流石は後世へと脈々と語り継がれる謎の拷問機だ。肉体と精神、両方にくるものがある。


 ぐるぐる棒を回していき、祭壇が天井に触れようかと言うところで、天井が祭壇の分だけ開いた。そして更にぐるぐる棒を回していくと、ガチャンと何かが嵌まる感触を得て、それ以上ぐるぐる棒が動かなくなる。


「ふええ、やっとこの拷問ともおサラバ出来ますね」


 俺が額の汗を拭いながら口にすると、皆から白い目で見られた。どうかしましたか?


「ハルアキ、そう言う台詞を言うと、この後の階でも同じ事をするフラグになりそうだからやめてくれ」


 とシンヤに釘を刺されてしまった。すみません。


「かーっはっはっはっ! まあ、良いではないか! それよりも時間が惜しい! 先に進もう!」


 未だに元気なリットーさん。その前に。


「通信機のチャンネル合ってます?」


 俺は自分の耳に付けられた、オルさん謹製の翻訳機兼通信機を触る。


「チャンネル違うんですかね? 何かリットーさんとかシンヤとか、さっきから通信出来なかったんですけど」


「それな。俺も思った」


「僕も。故障かとも思ったけど、ラズゥたちとは連絡出来ていたから、やっぱりチャンネルが違っていたんじゃないかな?」


 武田さんとシンヤが深く頷く。逆にリットーさんやシンヤ以外の勇者パーティやゼラン仙者はそれ程気にした様子もなかった。


「何で? 向こうの世界でも、戦場での連絡手段は大事だろ?」


「個人の能力に差があり過ぎるから、最初に方向性を決めておいて、実戦では個人や少数で動いた方が良くないか?」


 とはヤスさんの意見。う〜ん。それだと上手くいく時といかない時の差が凄そうな気がするが、前提条件として能力差があるからって言うのは納得出来る。戦場では各々行動範囲があまり被らないように行動するものなのか。それで各人で対処する。勇者パーティは少数精鋭。戦争になっても一人一人距離をとって行動するのかも知れない。まあ、スキルとかあると、周りに味方がいるのが、逆に縛りになったりするのかもなあ。


「ここにいる面子は皆、共感覚やら気配察知が出来るからな! そこら辺察する事が出来るから、然程連絡手段に困っていないのだ!」


 とはリットーさんの言。まあ確かに。外の街での戦いでも、そこら辺を察して上手く立ち回っていたように見えた。全員魔物たちとの戦闘に慣れているのもあって、戦闘巧者っぷりが発揮されていた。


「それは分かりました。でも、とりあえず、バラバラにされた時に落ち合う場所を決める為にも、チャンネル合わせだけはしておきましょう」


 と俺は強引に皆に言い含めて、その場で通信機のチャンネルを合わせる。



 俺たちはなんとなく律儀に階段を上っていた。まあ、シンヤたち勇者パーティと武田さん以外は空を飛べるからあまり意味はないのだけど、お前らだけ階段で後から来い。と言うのもなんか違う気がして、俺も階段を一段一段上っていく。もちろん走っているけど。武田さん頑張れ。


「こう言うのってあれだよねえ。階段を最後まで上りきったと思ったら、最後の最後で、ガタンッ! って階段が滑り台に変わって、あ〜れ〜、って最初の位置まで戻されたりするんだよねえ」


「工藤! マジでそう言う事言うのやめろ!」


 後ろから追い掛けてくる武田さんに怒鳴られた。皆からも白い目を向けられる。ごめんなさい。


「中学の時から思っていたけど、ハルアキって、たまに言っちゃいけない事をぶっ込んでくるよね」


 シンヤの辛辣な言葉が心臓に突き刺さる。


「ああ、その一言多い性格は、昔からなのか」


 武田さんもそんな事を思っていたんですね。


「かーっはっはっはっ! まあ良いではないか! 言いたい事を言えずに我慢しているよりも健康的だ!」


 リットーさんにフォローされた。確かに健康には良いかもな。他の人たち的には迷惑だろうけど。


「じゃあ、ぶっちゃけついでに言いますけど、『信仰』でレベルアップしたドミニクのレベルってどのくらいですかね? 百とか行っていたら、この面子でも辛くないですか?」


 あ、これ言ったら現実になっちゃうやつか? だが、俺は至極真っ当な質問をしたつもりだったのだが、全員から、何言っているんだこいつ? みたいな顔をされてしまった。


「はあ。レベルは五十でほぼ確定だと思うわよ」


 とはバヨネッタさんの言。嘆息混じりに言わなくても良くないですか? それにしても、確定なのか。


「確定って事は、レベル五十がMAXで上限って事ですか?」


 全員から、知らなかったのか? って顔をされた。知らなかったよ、悪かったな。


「それが生物としての限界なのよ」


 バヨネッタさんに諭すように言われた。まあ確かに、肉体強度的に考えても、レベル一の肉体が、レベル五十になるだけでもちょっと常軌を逸しているよな。レベルが二に上がるだけで、身体能力的には常人が付いてこれなくなる。そう考えるとレベル五十ってもう人間じゃないな。ドミニク、人間辞めているなあ。

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