第270話 協力者
「Hahahahahaha!!!!」
観覧席から声がしたので、目を拭いながら振り返ったら、冬季迷彩をきた兵隊たちがこちらを見下し笑っていた。
「マサカ、アノ、ハルアキ・クドウノ泣キ顔ガ拝メルトハネ」
中心にいる女が、口角を上げて侮蔑の笑みをこちらへと向け、拙いオルドランド語でしゃべってる。いや待て、あの女、前にどこかで見たぞ。と記憶を探ると、その女の顔はすぐに出てきた。
「アンナマリー・エスパソ」
「アラ、嬉シイワ。名前を覚エテイテクレタノネ」
アンナマリー・エスパソは、日本のダムでジョンポチ帝たちを狙ってきたアンゲルスタのテロリストの一人だ。確か祖父江兄の『奪取』で『空間庫』のスキルを奪われて、アンゲルスタに強制送還されたはず。まさか処刑されずに戦線に復帰してくるとは思わなかったな。オルドランド語がしゃべれるのは、『粗製乱造』した『言語翻訳』のスキル付与薬によるものか。
「なんて事をしてくれたんだ……!!」
「凄マレテモ、全然怖クナイワ」
そうかよ! 俺は右手の黒剣を黒槍に変化させると、それをエスパソに向けて伸長させる。が、俺の攻撃はエスパソに突き刺さる事なく途中で透明な壁に阻まれた。
「結界か!」
「ゴ明察」
エスパソがそう言って、ちらりと横の男を見遣る。青金のその髪色から、その男がこちらの世界の人間だと分かった。ジェイリスくんが協力者がいると言っていたが、あの男がそうか。どこか濁った目をしている奴だ。
ズドーンッ!!
そんな事を考えている俺の横で、バヨネッタさんがお構いなしにトゥインクルステッキをぶっ放す。だがそれでも、男の結界を破壊する事は出来なかった。相当強固な結界だ。他の兵隊たちはかなり驚いていたが。
「出力を上げるわ」
そう言って、トゥインクルステッキのチャージに入るバヨネッタさん。
これは遊んでいる場合ではないと悟ったのだろう。エスパソが指を鳴らすと、エスパソを含む兵隊たちの『空間庫』から魔物が現れる。そしてそいつらが分裂を繰り返していく。その中には吸血神殿地下五階以降に出てくる、巨大なオークや念動力を使うゴブリン、凍血鬼に、更には飛竜の姿もあった。『粗製乱造』で増やしているのだろうから、強さは知れているが。
「あなたたちはそいつらとでも遊んでいなさい」
何のつもりだ? 俺がアニンを構えると、武田さんがそれを制する。
「ここにくるまでに魔力を使い過ぎている。『聖結界』を使えるだけの魔力は残っているのか?」
そうだった。ここに来るまでに暴れ過ぎたな。でも、
「大丈夫ですか?」
レベル一の武田さんには、荷が重いのではないだろうか?
「逃げ回るくらいは出来る。それに弱そうなのもチラホラいるしな。そいつらを狙って攻撃する」
言ってサムズアップする武田さん。まあ、この人の逃げ足なら大丈夫か。
「三分だけ稼いでください」
「三分で良いのか?」
「俺の『回復』力を舐めないでください」
「なら私も、ガッツリいかせて貰うわ!」
話を聞いていたアネカネが、バンと両手を合わせ呪文を唱えると、身体を覆うマントと帽子が魔法陣の形に光り出す。その直後、首が五つある多頭竜二体と、巨大な一つ目ゴリラが三体現れた。
「敵には困らないわね。蹂躪なさい!」
アネカネの命令の下、従魔たちが暴れ回る。俺とバヨネッタさんはナイトアマリリスの結界で標的から外れているみたいだが、何故か武田さんが一つ目ゴリラに追いかけ回されていた。まあ、その攻撃を余裕で避けながら、アンゲルスタが出した雑魚魔物を倒している辺り、流石は元勇者だな。
「何シテイルノヨ! 潰スノハアイツヨ!」
エスパソの命令で飛竜たちがこちらへ攻撃してくるが、バヨネッタさんの結界はその程度では抜けない。がトゥインクルステッキのチャージが遅くなるのは確かだ。
ドドーンッ!!
そこに、いくつもの巨大な火球が降り注いできた。見上げれば二頭の飛竜の背から、その火球は放たれている。
「遅れて済まない!」
ジェイリスくんにミウラさんだ。二人は飛竜の背から巨大な火球をドンドンと放っていき、飛竜のブレス攻撃とともに『粗製乱造』で作られた出来損ないたちを屠っていく。
「大丈夫か!?」
心配してか飛竜の上から声を発するジェイリスくんに、手を振って応える。俺たちの無事を認識したジェイリスくんは、飛竜に乗ったままアンゲルスタと向き合い、その一人の姿を見て声を上げた。
「ザクトハ!?」
青金の髪の男に驚くジェイリスくん。ザクトハ? どこかで聞いた名前だ。と記憶をたどれば、思い出されたのは確か北の辺境伯のところから隣国ジャガラガの氏族長の娘と駆け落ちした、その息子の名前だ。
「何故ここにいる!? まさか!? そいつらをここに引き入れたのはお前か!?」
確かにその線は濃厚だろう。吸血神殿の地下十階にグジーノが投獄されているのを知っていた可能性も高い。だが本当にこいつだけの犯行なのか?
「フフフ。そうですよう。私とザクトハ様の二人で、この人たちをこっちに招き入れたんです」
とザクトハの身体に、自身の身体を巻き付けるように抱き着いてきたのは、ウエーブの掛かった赤からピンクへとグラデーションする髪をした女だった。こんな場所ではあるが、美しいと思ってしまった。
「あなたがティカ嬢か」
ジェイリスくんが女を睨み付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます