第245話 面白くない
「バヨネッタさん!? 何でここに!?」
俺たちが驚いているのもお構いなしに、バヨネッタさんはツカツカ近付いてくる。後ろに二瓶さんが付き添っているので、二瓶さんがここまで連れてきたのだろう。バヨネッタさんは俺たち一人一人を見回して、アネカネの前で目を留めた。
「ホテルデテレビ点ケタラ、妹ガ映ッテイタノヨ?」
ああ、それは気になってやってきてしまうかも知れない。
「アネカネ、ココデ何シテイルノ?」
姉に睨まれ目を逸らすアネカネ。俺への説明には、何もやましいところはなかったはずだが、この様子では、そうでもないのかも知れない。
「私の護衛に付いて貰ったんです」
「アナタ、誰?」
アネカネの代わりにミウラさんが説明するが、事情を知らないバヨネッタさんに睨まれて、縮こまってしまった。
「オルドランドの大使である、クドウ大使のお嬢さんですよ」
「フ〜ン」
俺の説明でやっと落ち着いたようだ。しかし、
「何でずっと、日本語でしゃべっているんですか?」
俺の質問に、バヨネッタさんはちらりとアネカネを見遣り、また視線を俺に戻す。
「姉ガ妹ニ負ケル訳ニハイカナイデショウ」
何でこの人はこんなに負けず嫌いなんだろうか。俺が溜息を吐いていると、小太郎くんが口を開いた。
「そんな事より、バヨネッタさん、この学校の情報防衛網を突破するスキルや魔法があるんですか?」
確かに、皆が気にしているのはそっちだな。
「アルワ。ユニークスキルヨ」
「面白いスキルって事か」
「タカシ、本当にそう思っているなら、小学生からやり直した方が良いぞ」
「違うのか?」
まあ、俺も小学生の頃はユニーク=面白いだと思っていたクチだけど。
「ユニークって言うのは、日本語だと、独特とか、ゲームやラノベなんかだと固有とか翻訳される言葉だよ。そこに面白いって意味はなくて、どちらかと言うと、オンリーワンって意味だな」
「へえ」
はあ。タカシよ、異世界人であるバヨネッタさんより語彙力貧困なのはどうなのよ?
「ユニークスキルだと、何でこの防衛網をすり抜けられるんだ?」
と首を捻るタカシ。…………確かにそうだな。
「オルノ魔導具ハ、広ク使ワレテイルスキルヤ魔法ニ対抗シテ設定シテイルノヨ。世界中ニ一人シカ使イ手ガイナイ、ユニークスキル相手デハ、対応モ後手ニ回ルワ」
「成程。とりあえずバヨネッタさん、こちらがオルドランド語に変えますから、そっちでしゃべってください」
「ソレダト、オレガ、ヨクワカラナクナル」
とタカシがつたないオルドランド語で訴えてくるが、それは無視だ。
オルドランド語で話すバヨネッタさんの説明で判明したが、ユニークスキルは、それを持ち合わせている人間が一人しかいないので、防衛網を敷く時、基本的には無視される傾向にあるようだ。と言うか世の中に一人しかいないのに、設定する意味ある? って感じらしい。
「ユニークスキルって、そんなに使い手が少ないんですか?」
俺の質問に、バヨネッタさんはちらりとアネカネを見てから、こくりと頷いた。成程、アネカネの『生命の声』もユニークスキルなのか。それでも使い手は少ないのか。
「化神族と同じくらい希少と考えて良いわ」
「余計に分かりません」
俺、この一年でバンジョーさんと一緒に旅をしているオルガンに、ウルドゥラと同化した化神族と、二体の化神族と会っているのですが? このエンカウント率だと、俺ならユニークスキル持ちに対抗して防衛網を敷いている。
「はあ。そうね、ハルアキの視点では、そうなってしまうわね」
バヨネッタさんが嘆息して近くの椅子に座る。そうしてどうやって俺に説明したものか、と思案していると、ミウラさんが口を開いた。
「ハルアキさん、化神族にしろ、ユニークスキル持ちにしろ、普通、一生に一度も出会わないのです」
との言に俺は一瞬固まってしまった。え? マジか?
「大国であるオルドランドで暮らしていてもですか?」
首肯するミウラさん。小国であれば一生出会わないのも理解出来るが、オルドランドは西の大陸でも一番の大国だ。しかもクドウ家は異世界である地球に大使としてやって来る程の名家である。そのご令嬢が出会った事がない。となると相当だろう。
「私も、自分以外のユニークスキル持ちは、お母さん以外出会った事ないかも」
へえ。そうなのか。アネカネの発言に、途端にバヨネッタさんが顔をしかめた。触れられたくない部分だったらしい。
「お姉ちゃんのスキルだって凄いスキルじゃん!」
そこに気付いたアネカネがご機嫌取りを行うが、
「私の話は今は良いでしょう」
と睨まれ、アネカネは閉口してしまう。凄いスキルなんだ。『限界突破』は……魔女なら誰でも使えるんだっけ。あれ以外は知らないなあ。
「そうですね。今はこの学校に情報戦を仕掛けてきている輩の、ユニークスキルを確定する方が先決ですね」
「スキルはほぼ確定しているわ」
俺の言にバヨネッタさんが口を開く。ほぼ確定しているんだ。こんな事が出来るスキルだもんな。有名なスキルなのだろう。
「スキル名は『空識』よ」
「……『空識』」
バヨネッタさんの発言に俺たちは息を呑む。
「『空識』は、その名の通り一定範囲の空間に広く感覚を溶け込ませる五感拡張系の最上位スキルよ。『千里眼』に『地獄耳』だけでなく、『未来視』や『過去視』、『鑑定』なども可能と聞くわ」
すご……。
「これを持ってすれば、一定の空間内に自分の五感を溶け込ませ、見たり聴いたり自由自在。オルの防衛網を突破出来るでしょうね」
「それじゃあ、既に俺たちがいるこの学校は、そいつの『空識』のテリトリー内って事ですか?」
「そうなるわね」
「いやあ!!」
祖父江妹が、自分の身体を抱き締め、スカートを押さえるようにして、その場にしゃがみこんだ。それはそうかも知れない。どこに目があり耳があるか分からないのだ。廊下で下から覗き込まれていたり、トイレで聞き耳立てられていたりしたかも知れないと想像すると、まとわりつく空気全てが気持ち悪くもなるだろう。
「ジャア、モウダメダロ」
何とか会話に付いてきていたタカシが口を開いた。そうなのだ。もし相手が『空識』の使い手なら、祖父江妹には悪いが、色々見られていると考えざるを得ない。だがそれだと、バヨネッタさんとアネカネ、ミウラさんが平気そうにしている理由が分からない。
「三人は何で平然としているんですか?」
俺の問いに、三人は指輪やネックレスを見せてくれた。
「これは結界魔導具の一種で、千里眼などの五感拡張系のスキルや魔法を邪魔する魔導具です。これがあると、自分から一定の範囲内は、魔法やスキルで認識するのを邪魔してくれます」
「そうなんですか?」
俺が感心していると、三人に嘆息された。
「何言っているの? ハルアキの持っている、キーマの護符の系統の魔導具よ」
とバヨネッタさん。ああ、成程。
「私、私は大丈夫なの?」
ミウラさんに祖父江妹が尋ねている。
「大丈夫でしょう。私の近くにいますから」
「ええ!? じゃあ帰る時とかどうすれば良いの!?」
「そんなに不安なら、私の予備をあげるわよ」
とアネカネが『空間庫』から指輪を取り出し、祖父江妹に渡した。それを受け取り指に嵌めたところで、やっと一息吐く祖父江妹を横目に、今度は俺が口を開く。
「でも俺、まだ視線を感じるんでけど?」
「それはそうでしょうね。ユニークスキルだもの。この程度じゃあ完璧には防げないわ。オルの魔導具にも結界は勿論使われているけど、それさえ潜り抜けて私たちを見ているのよ」
「それじゃあ駄目なんじゃ?」
「そうでもないわ。私たちが『空識』の存在を知ったと言うのに、『空識』を解かずに逃げ出さない。と言う事は、それだけ、学校内の様子が認識出来ていないと言う事よ」
確かにそうかも。恐らく相手からしたら、俺たちは曇りガラスの向こうくらいにしか見えておらず、話も、聞こうにも何を話しているのか分からないくらいにしか聞こえていないのかも知れない。
そう言えば、会議場にラシンシャ天が乱入したネタも、乱入した事は話題にしていたけど、会議場内でどんな話がなされているかは話題になっていなかったな。モーハルドの使者の土下座なんて、良いネタだったろうに。
「いくら『空識』を持っていようと、相手はレベル一よ。出来る事に限界はあるでしょう」
「レベル一ですか? とすると、今回俺たちを見ているのは、同じ地球人だと?」
俺の問いにバヨネッタさんが首肯する。まあ、でもその線が濃厚だろうなあ。
「どう言う関係の人間でしょう?」
「クドウ商会の人間ではないわね。あいつらがスキルや魔法を使えば、私が認知しているわ」
あの『制約』、そんな小細工も仕込んでいたのか。まあ、それにウチの社員なら、未だにレベル一と言う事はないか。
「純粋にマスコミ関係者か。それともアンゲルスタか。全くの別口か。どうしましょう? 何か策を打ちたいんですけど、何をすれば良いのか、全く思い浮かばないんですけど?」
「それなら私に考えがあるわ」
俺が困っていると、バヨネッタさんが自信満々に応えてくれた。流石は頼りになるお方である。
「ハルアキ、あなたのキーマの護符を差し出しなさい」
やっぱり油断ならないかも。
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