第244話 ゴシップ
人もいなくなったので、俺とタカシでミウラさんとアネカネの学校案内をした。その途中で祖父江兄妹と遭遇。タイミング的に話し掛けるの狙っていたろ? とは思うが、そこにはツッコまなかった。まあ、祖父江兄妹としても、この二人と友誼を結んでおきたかっただろう事は、俺でも分かったからだ。
そんな訳で六人で学校をぶらつき、一通り学校案内が終わったところで、購買でドッピオ豆を買って、食堂で休憩だ。この学校、学食はやっていないが、購買で買った昼食を食べる為の、簡易な食堂を有しているのだ。まあ、俺たちは普段、特別教室近くの階段をたまり場にしてるので、使っていないけど。
「え? Future World News?」
俺がスマホの画面とにらめっこをしていると、祖父江兄の小太郎くんが何見ているのか尋ねてきたので、正直に教えてあげた。これを聞いた日本人三人の顔は、鳩が豆鉄砲を食らったような、狐につままれたような、まあ、驚きと残念さをないまぜにしたような顔だった。
「うわ、だっせ」
タカシ、心の声が漏れているよ。そして祖父江兄妹が可哀想なものを見るような目になってこちらを見てくる。
「どうやらおかしな事態のようね?」
事情を察したのはアネカネだ。ミウラさんの方はキョトンとしながら、故郷のドッピオ豆をつまんでいた。
「ああ、そうですね。Future World Newsって、ゴリゴリのゴシップサイトですから、何て言うか、あそこに今回の事がすっぱ抜かれたのが意味分かんないです」
と小太郎くんが正直な感想を話す。そうなのだ。FWNはゴシップサイトなのだ。そこに今回のパジャン乱入やら、エルルランドとの国交交渉などがすっぱ抜かれたのは、意味が分からない。
「ゴシップ、ですか?」
まだ良く分かっていないミウラさんが首を傾げている。
「
「成程」
俺の説明でどうやら事態が飲み込めたらしい。指でドッピオ豆をつまんでいるので、いまいち真剣味に欠けるが。
「その、ゴシップサイト? と言うからには、そう言う事をするのは当然じゃないの?」
今度はアネカネが首を傾げる。事情を知らなければ、そう思うのも無理はない。ミウラさんもうんうん頷いている。
だが、事情を知っている俺たちからしたら、首を傾げるのだ。俺たちの知ってるFWNは、バナーやポップアップ、ネイティブなどの、ありとあらゆる広告に埋め尽くされ、少し指先の操作を誤っただけでヤバいことに巻き込まれそうな広告地雷と、アからンまで、AからZまで、芸能人やらネットのインフルエンサーのゴシップニュースで閲覧数を稼ぐような、そう言う未成年閲覧禁止みたいなサイトなのだ。
いや、FWNのサイトにも政経と言うジャンルはあるにはあるのだが、政治と経済を一緒のジャンルに合わせてしまっている時点で、内容が察せると言うものだ。
「Future World Newsが相手にする対象は、基本的には芸能人……歌舞音曲とか、演劇を生業にしている人のゴシップなんだよ」
俺の説明で、事態の異様さに納得した二人。だからと言って、何をどうすれば良いのやら? と言う事態なのだが。
「身内にネタ売って儲けている奴がいるんだろう」
小太郎くんが直球で、そう口にした。その可能性はなくはない。そうなってくると、出所の話になる。今回のパジャン乱入には桂木翔真も立ち会っていたが、エルルランドに関してはそこから外れる。となると、日本政府か、ウチのクドウ商会からと言うのが怪しく思えてくる。
クドウ商会の人間には、バヨネッタさんが『制約』の魔法を掛けている。普通に考えれば口外出来ないが、あの『制約』には抜け穴がある。口に出さなければ伝えられるのだ。それこそ紙に書くなり、メールをするなり、ネットに投稿するなり、やろうと思えばどうとでもなる。だが、バヨネッタさんがその事に気付いていないはずがない。あの『制約』はわざとだ。
ウチの商会の社員は、政府から出向してきていたり、祖父江兄妹のように、異世界調査隊から来ている人間で構成されている。彼らの役割は社外に情報を持ち帰る事なのだ。それが出来なくなってしまっては、ウチで働く旨味が半減してしまう。バヨネッタさんも分かった上でだろう。
なので、ウチの社員はクドウ商会に忠誠は誓っていなくても、他にきっちり忠誠を誓っている人間ばかりなのだ。そんな人間が、金で情報を売るだろうか? それもゴシップサイトに。言っちゃ悪いが、もっと大手のサイトだったり、テレビ局や新聞社、雑誌社の方が金になる気がする。
「その線は薄くないかな?」
「そうか?」
「だって、ウチの会社で働くのって、それだけで結構危ない橋を渡る任務だよ? 桂木さんなり、日本政府なりに、それ相応の忠誠心と覚悟がないと、やっていけないよ」
「危ない橋だからそこの金って線もあるだろ?」
「なら大手に持っていくね。金払いも良いだろうし、いざとなったら、そこが守ってくれるだろうしね」
「ああ、それはそうか」
小太郎くんもそれで納得らしい。
「でも工藤的には煮えきらないって顔してるわよ?」
祖父江妹が痛いところを突いてくる。
「う〜ん、何と言うか、もにょっとしているだよねえ」
「もにょっと?」
全員に首を傾げられてしまった。
「いやあ、今もさあ、誰かに見られている気がしてならないんだよ」
俺の発言にアネカネとミウラさんが顔を見合わせる。
「それはスキルや魔法なのでは?」
そしてアネカネがそう尋ねてきた。祖父江兄妹やタカシが納得の表情に変わる。
「いやあ、それはどうかなあ」
だが俺は一人首を傾げていた。
「何でたよ? アンゲルスタみたいに、スキルを持っている人間がいてもおかしくないだろ? それこそ、お前らと同じ事故に巻き込まれた人間とかな」
俺の態度に小太郎くんが反発してきた。成程、その線は考えていなかった。
「いやあ、それでもこの学校で視線を感じるのはおかしいんだよ。仮にも異世界からの貴賓が通う事になる学校だよ? 情報漏洩に関して言えば、政府も絡んで、ネットからのアクセスから、スキル、魔法による干渉まで、オルさんの助けも借りて、一級の防衛網にされているんだよねえ」
「マジか?」
「それこそ、昨日会談があった場所とも相違ないクラスの情報防衛網だよ。カメラで覗いても曇りガラスのように霞むし、盗聴器なんて意味をなさない。スキル、魔法に関しても、オルさんの実力は拘置所の事で分かっているだろ? まあ、それ以外の魔法は使えるし、どうやっても学生からの情報漏洩は免れないだろうけど」
「…………」
うむ、皆黙ってしまったな。別に黙らせるつもりはなかったんだけど。
「それならどうしてもにょっと? しているのですか?」
ミウラさんの疑問に、俺は口を開いた。
「指輪がね、うずくんだよ」
そう言って俺は、左手の人差し指に嵌められた指輪をさすった。俺の指輪を見て、アネカネとミウラさんが得心した。タカシや祖父江兄妹は分かっていないようなので、俺は補足する。
「この指輪は、デレダ迷宮で手に入れた、キーマの護符って言うアイテムなんだけど、これ、悪意のあるスキルや魔法を跳ね返すって言われているお守りなんだよ」
「じゃあやっぱりスキルか魔法じゃないか!」
吠える小太郎くん。耳元はやめて欲しい。
「う〜ん、でも、この学校の防衛網を掻い潜り、更にキーマの護符まで反応するとか、そこまでのスキルとか魔法とかあるのか?」
「アリエルワ」
後ろから拙い日本語で声を掛けられ、ドキッとして振り返る。
「お姉ちゃん!?」
そこにいたのは、いるはずのないバヨネッタさんだった。
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