第220話 花蕾
「きっちり装飾もお願いね」
武器工房に戻ってきたバヨネッタさんは、トゥインクルステッキをゴルードさんに突き出しながらお願いしていた。
「はあ。お前は本当に派手なものが好きだな」
などと応えながらも、トゥインクルステッキを受け取るゴルードさん。
「じゃあ、あと百丁程トゥインクルステッキを用意してちょうだい」
「出来るかあ!!」
出来ない事は出来ないって言うんだな。
「今俺が持っている人工坩堝は、トゥインクルステッキの一個を入れて十一個だ。流石に今から九十個となると時間が足りん」
これに対して不満そうなバヨネッタさん。
「じゃあその十一個だけで良いから、全部トゥインクルステッキにしてちょうだい」
いつものバヨネッタさんの無茶振りに、待ったを掛けたのはリットーさんだった。
「ゴルード殿! バヨネッタ殿! 出来るなら人工坩堝を一つ私に分けてはくれないだろうか!? 我が槍にそれを取り付けたいと思ってな!」
バヨネッタさん、そんなに嫌そうな顔をしないでください。ウルドゥラ、シンヤ戦での被害で言うなら、リットーさんにも受け取る資格があると思う。
「あのねリットー、私はゴルードに譲って貰っている訳じゃないの。買っているのよ」
「分かっている。金が必要なら相応の金額を払う」
と自身の『空間庫』からカードを取り出すリットーさん。それに対抗するようにバヨネッタさんもカードを取り出す。
「俺はどちらでも良いぞ」
静観姿勢のゴルードさん。
「あのう、出来るのなら私たちにもその人工坩堝を分けて貰いたいのですが」
そこにラズゥさんが手を上げた。先程の試射を見れば、欲しくなるのは当然か。
「お前らは駄目だ」
が、これをピシャリと断るゴルードさん。
「なぜ!?」
確かに少し理不尽に思える。
「そもそも買えるだけの手持ちがないでしょう?」
とバヨネッタさん。言われてみればそうだ。これだけの代物となると最低でも億単位のお金が必要になってくるだろうけど、貧乏勇者パーティにはそれを払えるだけのお金があるとは思えない。
「それはなんとしても用立てます。ですから……」
「駄目だ。うちは一括払いでツケも分割もない」
そう言われて肩を落とす勇者パーティ。
「そもそもパジャンの人間にこの技術を渡す気はない」
「パジャンの人間に、ですか?」
思わず俺は口を挟んでしまった。それに対して、ゴルードさんが少しバツの悪そうな顔をする。
「俺は昔、パジャンのある東の大陸の小国で鍛冶屋をしていた事がある」
そうなんだ。それでパジャン語が堪能なのか。
「その頃は魔王なんていなくてな。戦う相手と言えば野生動物に野生の魔物、そして人間だ」
「人間……」
「そうだ。その頃の東の大陸は戦乱の時代で、倒すべき相手は、魔王ではなく同じ人間だった」
戦争の兵器を作っていたのか。でも鍛冶屋ならそれも仕方ない事なんじゃないだろうか?
「その時代を知っている俺だから言える。あの国は、パジャンは魔王を倒せば、また周辺国に戦争を吹っ掛けるだろう」
「そんな事はしません!」
ラズゥさんが反論する。
「証明出来るのか?」
ラズゥさんを見返すゴルードさんの目は、どこか寂しそうだった。もしかしたら、ゴルードさんのいた国はパジャンによって……。
「これは俺のワガママかも知れん。だがそれでも、パジャンの人間にこの人工坩堝を売る事は出来ない。違う武器なら売らんでもないがな」
まあ、鍛冶屋も武器屋も人間だからなあ。人相手の商売なら、人を選ぶ権利はあるだろう。ラズゥさんもそれは分かってか、それ以上は何も言い返さなかった。
「さて、その話はここで一旦お終いにしましょう」
とオルさんが手を叩いて空気を一変させた。
「バヨネッタ様、人工坩堝の一つはリットーに渡してやってください」
「あら、友情かしらオル?」
「ええ、そうです。その代わり残りのは九つを、僕が素晴らしい武器へと昇華させてみせます」
へえ。オルさんにしては珍しく、バヨネッタさんに対して強気に出たな。
「良いわ。明日また来るから、その時までに仕上げておきなさい」
そう言ってゴルードさんの武器工房を後にするバヨネッタさんに、オルさんをその場に残して、俺たちはついて行った。
「良いわね」
翌日。金銀魔石をふんだんに使って装飾されたトゥインクルステッキがそこにはあった。それを手に取り、構えるバヨネッタさん。一通り感触を確かめた後に、やっぱりトゥインクルステッキを宙に浮かせて、その上に座るのだった。
「だから銃は乗り物じゃないと言っているだろう」
ゴルードさんがたしなめるが、バヨネッタさんはどこ吹く風だ。トゥインクルステッキに乗って、武器工房の中をすいすい飛んでいる。
「ふむ! 成程! これは凄いな!」
リットーさんの方を見遣れば、槍先と長柄の繋ぎ目に人工坩堝を搭載した螺旋槍を、『回旋』で回転させていた。その音からして、今までの螺旋槍とは回転数が段違いなのが知れる。うわあ。あれには刺されたくないなあ。
「そう言えば、残りの九つはどうなったんですか?」
俺がオルさんに尋ねると、オルさんはゴルードさんと顔を見合わせ、ニンマリと笑った。
オルさんが持ってきたのは、真っ赤な花だった。六花弁の花は、子供の頭程もある
「どうするんですかこれ?」
俺が質問すると、
「バヨネッタ様、これの人工坩堝に魔力を通して浮かせてみてください」
との事なので、バヨネッタさんが魔力で浮かせる。
「次に花を開かせる想像をしてみてください」
バヨネッタさんが言われた通りにすると、九つの赤い花が開いた。
「これは盾であり銃でもあります」
盾であり銃?
「ハルアキくん、あの花に攻撃してみて?」
? 首を傾げる俺に対して、バヨネッタさんは何故か自信満々だ。ならば、と俺はアニンの黒剣で斬り掛かってみた。が、花の前に半透明で六角形をした面が出現し、こちらの攻撃を防ぐ。成程、これが盾か。
「花は九つありますから、重ねれば更に強固な盾になりますよ」
バヨネッタさんはどうやらこの機構を気に入ったらしく、九つの花で、三つの盾を三つとか、五つと四つの盾とか、九つ全てを使った盾とか、様々な盾を作り出していた。
「それで、銃ってどう言う事ですか?」
俺が尋ねると、
「バヨネッタさん、花を閉じてみてください」
との事で、バヨネッタさんが花を蕾に戻す。
「蕾状態にする事で、その開口部から光線が放てるようになるんです」
「こう言う事ね」
バヨネッタさんが蕾の開口部をこちらに向けてきたので、俺は慌ててアニンを大盾にして、その光線を防いだ。
「やると思いましたよ」
「分かっているじゃない」
「お前ら、武器でふざけるなら売らんぞ」
とゴルードさんに睨まれてしまった。
「ふざけていないわ。単なる試射よ」
だがバヨネッタさんは悪びれる様子もない。
「オル。この花の名前は何かしら?」
「バヨネッタ様がお名付けください」
ええ? バヨネッタさんにネーミングセンスはないと思うんだけど。そう思っても言えない俺だった。
「そうねえ。ナイトアマリリスにしましょう」
………やっぱりか。ナイトアマリリスは確かに良いキャラだ。あのアニメで主人公を凌ぐ人気の助っ人キャラ。ピンチになると颯爽と現れる謎の女騎士。だからと言ってその名前を付けるのはどうなんでしょうか。
何はともあれ、こうして俺たちはパジャン行きの武器を手に入れたのだった。
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