第219話 人工の……
「ぬわああああああああああああッ!?」
驚いて変な声を上げるシンヤ。そして立ち上がる勇者パーティ。
「何をしているんですか!?」
駆け寄ろうとするシンヤを、ゴルードさんは片手を突き出して制する。
「大丈夫だ。霊王剣ってのは、こうなるように出来ているんだよ」
いやいやいや、出来ているんだよ。って言われても、ゴルードさん、霊王剣に触るの今日が初めてなんじゃないんですか? などと全員が思っていただろうところで、ゴルードさんが外れた霊王剣の柄を逆さにして振ると、中から親指の先程の大きさの、円筒形の何かが出てきた。まるで電池みたいだ。
「な、何だあれ?」
横のシンヤに尋ねるが、シンヤは首を左右に振るうばかりだ。
「知らないよ。霊王剣を分解しようだなんて、思った事もないもの」
それはそうか。国から預かった大事な聖剣を、あんな風にするのはゴルードさんくらいなものだろう。
「これは人工坩堝だ」
俺たちの動揺を察知してか、ゴルードさんが説明してくれた。
「人工坩堝、ですか?」
「ああ。魔力収束器と呼んでも良い。こいつが回転すると、坩堝のフタが開いたかのように、とてつもない力を発揮出来るようになると言われている。ふん。それが十二個か。最古の聖剣の名も伊達じゃないな」
横を見遣ると、シンヤが喉を鳴らしていた。その向こうでリットーさんが「回転」と言う言葉に反応している。
「た、確かに、霊王剣はその威力が十二段階に分けられていると言われているけど、それが人工坩堝の数だったなんて」
まあ、知らなくても無理はないだろう。でも確か俺たちとシンヤ(ギリード)が戦った時には、引き金を三回くらいしか引いていなかったから、今のシンヤでも、霊王剣の性能を最大まで引き出せている訳じゃないんだろうなあ。
俺やシンヤ、勇者パーティがこの状況にどう対処すれば良いのか、思案を巡らせている間に、ゴルードさんとオルさんは人工坩堝を触って、それがどう言う構造なのかとじっくり見定めていた。それは時に柄の方を調べたり、二人で激論を交わしながら続けられ、
「なあ、これ一個分解してみても良いか?」
とゴルードさんが尋ねてきた時には、流石にシンヤ含めて勇者パーティ全員で拒否していた。
「それで、どうなの?」
霊王剣の検分が終わり、人工坩堝を柄の中に戻したりと霊王剣を元通りにしてシンヤに返したゴルードさんに対して、バヨネッタさんが尋ねた。その後ろでシンヤが霊王剣の引き金を引いて、ちゃんと起動する事にホッとしているのが気になったが。
バヨネッタさんの言葉に、ゴルードさんは慌てるなとでも言わんばかりに肩を竦めると、この武器工房の奥へと引っ込んでいった。
数分して戻ってきたゴルードさんの手には、片手に大型のライフル銃、片手に拳大の円筒が握られていた。
「それって」
俺が拳大の円筒を指差すとゴルードさんが胸を張る。
「ああ。俺が造った人工坩堝だ」
凄いな。聖剣の強さの一端を再現したのか。それもこれだけ大きければ、出力される力も大きそうだ。
「まあ、性能としては霊王剣の人工坩堝の半分にも満たないがな」
と悔しげなゴルードさん。そうなのか。性能は半減で大きさが十倍か。小型化って難しいのかも。
「だが、今回霊王剣の実物を見られたからな。それで分かった知見もある。性能はどんどん上がっていくさ」
ゴルードさん自信満々だ。恐らくそれは、虚勢を張っているのではなく本当にそうなのだろう。ゴルードさんなら、いつか聖剣だって作ってしまいそうな雰囲気がある。
「それで? その銃は?」
バヨネッタさんはその事に興味がない、と言うより疑っていないのだろう。すぐにその興味は銃の方に向けられた。
「これは、その人工坩堝を使った試作銃だ」
言って銃をその場の全員に向かって見せびらかすゴルードさん。色はガンブラックで、対物ライフルを思わせる結構長大なライフル銃だ。そして
「人工坩堝に使用者の魔力を収束回転させ、それを光線として撃ち出す」
「試してみても良いかしら?」
バヨネッタさんがうずうずしながら尋ねると、
「店の中にある射撃場じゃ無理だ。試し撃ちなら外だな」
との事なので、俺たちはこの武器工房の外へと移動した。
「へえ。こうなっていたんですねえ」
ゴルードさんの店の外は雪山だった。まあ、今は冬なのだから、雪に覆われているのは当然と言えば当然か。雪が腰近くまであるので、結構雪深い土地なのかも知れない。
そんな雪の中を歩いて行くのもあれなので、俺が籠を出してバヨネッタさん以外を乗せて空を飛ぶ。
バヨネッタさんは適当なところで雪を払うと、地面に着地してあの長大なライフル銃を構えた。華奢な身体のバヨネッタさんが、身長を超えるライフル銃を構えている姿は、見ているこっちが不安になってくる。
「まずはセーフティを外して、引き金を半分だけ引くんだ!」
銃を構えるバヨネッタさんに、籠の中からゴルードさんが指示を出す。バヨネッタさんが言われた通りにすると、人工坩堝が回転を始めた。
「良し! 撃て!」
ゴルードさんの合図にバヨネッタさんが引き金を引ききる。すると銃口が一瞬輝き、
バァンッ!!
と熱膨張で空気が破裂、直後に数百メートル先の小山の雪が溶け消え、穴を開けていた。おお。結構な威力があるなあ。俺はそう思っていたのだが、バヨネッタさんは不満顔だ。
「こんなものなの?」
と上空の俺、いや、ゴルードさんを見上げてきた。
「察しの通り、それがその銃の最大出力じゃない!」
え? そうなの? だがバヨネッタさんは分かっていた。とばかりにまた銃を構える。
「その銃は半引きの状態で魔力を銃に流し続ける事で、その威力を増大させ続ける事が出来るんだ!」
ゴルードさんが言う通り、バヨネッタさんが半分引き金を引き続けていると人工坩堝の回転数がどんどん上がっていっていた。
「早く引き金を引けば、威力は低いが続け様の発砲を可能にし、そして半引きのまま威力を上げていけば……」
ズドンッ!!
とてつもない轟音に空気が振動し、バヨネッタさんの構える銃から放たれた光線は、小山を突き抜け、数キロメートル先の山肌に衝突してこれを焦土としたのだった。
「ふっ。良いわね。買ったわ」
その威力に満足したバヨネッタさんは、この銃の購入を即決していた。
「名前はなんて言うの?」
「名前はない。出来たばかりの銃だからな」
と返答するゴルードさん。俺たちはバヨネッタさんの近くに降り立つと、改めてその威力に驚愕していた。
「そう。なら私が付けてあげるわ。…………トゥインクルステッキなんてどうかしら?」
いや、満足そうにニヤついていますけど、バヨネッタさんそれ、あなたが好きな魔法少女ものの、武器の名前じゃないですか。
「悪くないな。トゥインクルステッキ」
と何故かゴルードさんも納得の模様。俺とシンヤは互いに目を合わせて、嘆息するしかなかった。
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