第218話 パキッ。

 洞穴の階段を下る。メンバーは俺、バヨネッタさん、オルさん、リットーさん、バンジョーさん、シンヤたち勇者パーティだ。


「どこに向かっているんだ?」


 閉塞的な洞穴の階段を、無言で下る事に堪えられなくなったシンヤが話し掛けてきた。


「バヨネッタさんご用達の武器屋だよ」


 勇者パーティも、いきなり転移扉で洞穴に直結されて困惑していたらしく、俺の話を聞いて得心顔だ。


「誰かさんのせいでかなり武器を消耗してしまったからね」


 バヨネッタさんの言葉に、シュンとするシンヤ。


「す、すみません」


「もう良いわよ。別に勇者だけのせいじゃないし」


 その発言に首を傾げる勇者パーティ。


「シンヤが来る前に一戦、俺たちは大激戦を繰り広げていたんだよ。ほら、シンヤがこっちに来てすぐに倒したあの不定形物だよ」


「…………そうだったっけ? 記憶にないけど」


 シンヤはそうかもな。


「でなければ、勇者ごときにあんなに苦戦していないわよ」


 バヨネッタさんの発言に苦笑いのシンヤ。ラズゥさんはそれに対してムスッとしていた。だがまあ、大激戦二連発が大変だったのは確かだしなあ。


 俺たちは軽口を交わしながらゴルードさんの武器屋に到着した。



「また人数が増えていないか?」


 扉を開けるなり、不満気な顔を隠さないゴルードさん。


「あら? そんな事言って良いのかしら? 珍客よ? なにせパジャンの勇者御一行なのだから」


「勇者だと!?」


 驚きながら扉を全開にしたゴルードさんは、素早く目を動かし、それぞれの武器をチェックすると、照準をシンヤに定めて、ズンズンと近付いていくと、その腰にぶら下げている刀と剣をジロジロと間近で見遣る。


「お前が勇者か?」


 パジャン語で尋ねるゴルードさん。ビビりながら頷くシンヤ。と言うかゴルードさんもパジャン語しゃべれるんだな。一応客商売だからかなあ。言わずもがなオルさんもしゃべれるし、なんか皆、ちゃんと勉強しているんだよなあ。俺も勉強頑張らなければ。


「この剣が霊王剣なのは分かるが、もう一つの刀はなんだ?」


 バヨネッタさんを振り返るゴルードさん。


「キュリエリーヴよ」


「キュリエリーヴだと!?」


 バヨネッタさんの発言に、改めて刀をマジマジと見遣るゴルードさん。


「ええっと、あのう」


 その対応に困って、シンヤはこちらに助けを求めてくるが、すまん。俺にもどうしようもない。と首を横に振る。


「ゴルード、あなた客をいつまで入り口で待たせておくつもり?」


 それを知ってか知らずか、バヨネッタさんが口添えしてくれた。それにハッとしたゴルードさんは、未だシンヤの腰の物を名残り惜しそうに見遣りながらも、全員を店内に招き入れてくれた。



「それで? 今回はどんな要件なんだ?」


 店内のテーブルや椅子の置かれたスペースで、皆が席に着いたところでゴルードさんがバヨネッタさんに尋ねてきた。


「銃砲類が相当数壊れてしまってね。その補充に来たのよ」


「相当数?」


 ゴルードさんは、バヨネッタさんの言に腕を組んで片眉を上げる。


「とりあえず、バヨネットを三百丁、大砲を五十台、明日までに用意してちょうだい」


「相変わらずお前は無茶振りが過ぎるぞ」


 腕を組んだまま嘆息するゴルードさん。確かに。俺も同意する。


「だからオルを連れてきたのよ」


「僕その為に連れてこられたんですか!?」


 オルさんに事情が通じていないんですけど? バヨネッタさんって、ちょくちょく報連相を疎かにするよね?


「無茶振りが過ぎませんか?」


 俺が口を挟むと、バヨネッタさんは口の端を上げてみせる。勝算ありと言う事だろうか?


「私だってそれが無茶な数字である事は分かっているわ」


 そうなのか。


「ゴルード。あなたの事だから、何かしら対価があれば、それ相当の物を用意出来るんじゃないかしら?」


 バヨネッタさんの発言に、ゴルードさんが苦い顔をする。当たりを引いたらしい。


「ならこちらも一つ注文を出させて貰おう」


 とゴルードさんも口角を上げた。


「霊王剣ね。良いでしょう」


「いや、何が良いんですか!?」


 いきなり霊王剣の名を出されて、びっくりしたシンヤが腰を上げた。


「大丈夫よ。流石に壊したりはしないと思うわ。多分」


「多分ってなんですか!? 多分って!?」


 いきなりの事に我が剣を守ろうとするシンヤだったが、バヨネッタさんからあんな視線を送られては仕方がない。俺はシンヤに対して『時間操作』タイプAを使って、シンヤの時間を遅速させると、その腰の霊王剣を取り上げた。


「すまん、シンヤ」


「と、友達だと思っていたのに」


 などと茶番を繰り広げるが、実際のところ、それ程お互い危機感を持ってはいなかった。


 俺は素直にシンヤから取り上げた霊王剣を、ゴルードさんの前に置いた。


「ふ〜む。これが最古の聖剣、霊王剣か」


 言いながら霊王剣を手に持つゴルードさん。いつの間にかオルさんがその後ろに立って覗き込んでいた。まあ確かに、ゴルードさんと同じ『再現』持ちなら、霊王剣の構造は気になるよねえ。


「キュリエリーヴは良いのですか?」


 俺の発言にビクッとなるシンヤ。


「ああ。キュリエリーヴは刃が神鎮鉄で出来ているだけで、構造はシンプルだからな。再現するのに材料がないだけで、材料さえあれば再現可能だ」


 まあ、それはそうかも知れないなあ。などとぼんやり霊王剣を触っているゴルードさんを見遣る。


 パキッ。


 そんな音が霊王剣から聞こえてきた。目がシャキンとなって霊王剣を持つゴルードさんを凝視すると、霊王剣が、柄のところで折れていた。

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