第212話 こき使った結果

 俺たちはデレダ迷宮の入口へとやって来た。ここに来るまで俺たちには艱難辛苦の大冒険があった訳だが、それはここで語るような事ではない。ただ一言、勇者パーティは良くやった。と褒めておこう。


「や……、やっと着いたのね……」


 崩折れるラズゥさん。へとへとの勇者パーティは、ガランとした入口で、地べたに腰を下ろして休憩している。それを見てバヨネッタさんが呆れていた。


「だらしないわね」


「そりゃああなたは、銃に乗っていただけなのだから、楽なものでしょう」


 と文句たらたらのラズゥさん。勇者パーティが全員頷いていた。


「あら? 私が戦ってよかったの? あなたたちの責務だから残しておいてあげていたのに。私が参戦してしまっては、賠償金は返せなかったのよ?」


 こう言われてはぐうの音も出ない。


「まあまあ、バヨネッタさんも、欲しかったであろう物も手に入った訳ですし、シンヤたちをいじめるのもそれくらいにしてあげてください」


「それもそうね」


 俺が間に割って入った事で、場の空気は正常に戻ったようだ。実際、デレダ迷宮は古代遺産の宝庫だったので、バヨネッタさん的にはウハウハだ。いくらかは銃砲の補充の為に売り払う事になるだろうけど、それでも収支としてはプラスなんじゃないだろうか。


「そうだな! 私も良い物が手に入ったしな!」


 とリットーさんもニコニコである。今回の勇者襲来の被害者の一人であるリットーさんも、当然だがお宝を得る権利がある。特にガードールの腰帯と呼ばれる魔導具を気に入っていた。


 これは強化の魔法が施された魔導具だ。どうやらウルドゥラとの戦いで持っていた強化系の魔導具を全て駄目にしてしまったらしいが、このガードールの腰帯一つでそれらの魔導具を凌ぐ効果があるそうだ。純粋に身体能力も上がるし、魔法やスキルの効果も上がるそうなので、竜騎士リットーにはもってこいの魔導具だろう。


「いやあ、なんだかボクまでご相伴に与ったみたいで悪いねえ」


 勇者襲来の被害者の一人、バンジョーさんも魔導具を手に入れていた。ダルネチアの小鳥と呼ばれる魔導具である。まあ、見た目は小鳥そのものなのだが、これはれっきとした魔導具だ。その効果は拡声。この小鳥を使う事で、使用者は声や音をより遠く、より広く伝える事を可能とするのだ。吟遊詩人であるバンジョーさんにぴったりの魔導具だろう。正しい事に使って欲しいものだ。


 ゼストルスも魔導具を手に入れていた。ボスの火衣ひごろもと呼ばれる布で、ゼストルスはそれを首に巻いている。その名の通り、火属性を強化する代物だ。竜の火炎や、足の火袋から吐き出す豪炎を強化してくれる。いやあ、竜騎士コンビ、ますます強くなっちゃうなあ。


 当然俺も入手させて貰った。キーマの護符と呼ばれるものだ。何個か種類があるそうだが、俺が入手したのは指輪タイプ。なんでも悪意ある魔法やスキルが使用された時、それを跳ね返すものだとか。まあ、護符なので効果の程は知れているらしいが、キーマの護符は昔から縁起物として人気があるそうで、王侯貴族や豪商などは大金をはたいて買い求めるそうだ。バヨネッタさん曰く、箔を付ける為に持っておけ。と言われた。


 勇者パーティは俺たちが様々な古代の魔導具を手にする度に、羨ましそうに見ていた。なんでも、大抵の魔導具は国や外道仙者に取り上げられてしまうそうで、勇者パーティが自由に出来るものは限られているらしい。何というか、パジャンと言う国に生かさず殺さずで使われている感が凄いな。


 あのバヨネッタさんが、同情してシイと言う紙をあげていた。紙なんて貰っても嬉しくないだろう。と思っていたら、ラズゥさん始め、皆大喜びだ。何故か尋ねたら、シイは神紙と呼ばれ、魔石インクの効果を何倍にも引き上げるそうだ。お札を使うラズゥさん的には喉から手が出る程欲しい代物だし、ラズゥさんのこのお札は、仲間の強化や回復、敵の弱化など様々な場面で大活躍だそうで、その恩恵を受けている勇者パーティ一同涙が出る程嬉しい事であるらしい。とりあえずデレダ迷宮で見付けたシイは全部勇者パーティ行きとなった。



 デレダ迷宮の入口で門を見上げる。当然だが閉まっていた。


「この門って、内側から開けられるんですよね?」


「いいや! 開けられん!」


 とリットーさんに力強く言われてしまった。


「開けられないって、どうやって地上に戻るんですか!?」


 動揺する俺だったが、リットーさんにもバヨネッタさんにも動揺は見られなかった。


「どうやっても何も、外から開けて貰うに決まっているでしょう」


 そう言ってバヨネッタさんは外にもあった祭壇の前に立つと、ボタンを押した。


 ピンポーン。


 は? 場にそぐわない玄関ベルのような音が鳴った。


「何者だ?」


「私よ。バヨネッタよ。ウルドゥラは倒したわ。全員無事よ。今すぐ門を開けなさい」


「こ、これはバヨネッタ様ッ。ご無事だったのですね! す、すぐに三公家に連絡し、こちらへ来て頂きます!」


 そうして短い通話は切れた。いやいやいや、恐らくはデレダ迷宮の外からの通話なのだろうけど、え? なに? デレダ迷宮って家なの? これだけ複雑な罠が張り巡らされていたり、魔物が跋扈しているのに? なんだか最後に気が抜ける。


「ハルアキ、帰り方も聞かずにここまで来るなんて、よほど焦っていたのね。階段を下る間、三公と話す時間くらいあったでしょう?」


 外と通話が終わったバヨネッタさんが、呆れたように話し掛けてきた。


「それは無理ですよ。ハルアキはデレダ迷宮の暗号を自力で解いてここまで来たんですから」


 とバンジョーさんが擁護してくれた。


「自力で? 冗談……じゃないのよね?」


「まあ、計算機の力は借りました」


「それだけ?」


「意外と単純な暗号だったんですよ」


「ふ〜ん。成程。なら帰りの暗号も解けるかも知れないわね」


 と俺はバヨネッタさんに引っ張られて祭壇の前に立たされた。他の祭壇同様に、ここの祭壇にも十個のダイヤルが付いていた。


 う〜ん。ここまでの門の暗号が、ルート0からルート9だった訳だから、素直にいってここはルート10かな? ここの暗号、意外と単純なんだよなあ。


 俺は四隅の柱で点灯している明かりの位置を確認して、スマホの電卓を使ってルート10を入力する。


 すると、何ということでしょう。門が、この最下層の門だけでなく、全ての門が開いていくではありませんか。この門の暗号を設定した人、何考えていたんだろう?


 とりあえず俺たちは外への階段を昇る事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る