第213話 救援

「本当に林だわ。ペッグ回廊のあるペッグ高原じゃないのね」


 地上に降り立ったラズゥさんが、不思議そうにキョロキョロしている。それはシンヤたち他の勇者パーティも同じだ。


 俺はアニンを翼に変化させ、更に腕から黒い籠を現出させ、そこに勇者パーティを乗せて地上までひとっ飛びした。流石に長い螺旋階段を、勇者パーティだけ延々と歩かせるのも気が引けたからだ。


 地上に降り立った俺たちを、衛士たちが遠巻きに見て苦笑いしている。まさか衛士たちもいきなり全門が開いて、俺たちが飛び出てくるとは思わなかったらしい。今急いで衛士長らしき人が通信の魔導具で、恐らく三公たちとやり取りをしていた。


「良くぞご無事でしたリットー様」


 通信を終えた衛士長が、俺たちを出迎えてくれた。が、その視線はチラチラとシンヤたち勇者パーティを見ていた。説明をご所望のようだ。


「彼らはシンヤ、ヤス、サブ、ラズゥ、ゴウマオだ!」


「…………はあ」


 まあ、そんな反応になるだろうなあ。


「彼らはパジャンの勇者パーティよ」


「ああ、勇者パーティだったのですね。…………勇者パーティ!?」


 補足するバヨネッタさんの言に驚いて、マジマジと勇者パーティを見遣る衛士長に衛士たち。


「え? ええ? 何故? 何故、東の大陸の勇者パーティがこんなところにいるのですか?」


 困惑する衛士長だったが、なんとか絞り出すように当然の疑問を口にする。


「それは……」


 しかしバヨネッタさんはその疑問に答える事が出来なかった。何かが凄い勢いで飛んできて、バヨネッタさんにぶつかってきたからだ。


 何事か!? と場が騒然となり、そのぶつかってきた何かに対して、全員が戦闘態勢を取った。


「お姉ちゃん大丈夫だったの!? 死んでない!? 生きているの!?」


 バヨネッタさんにぶつかってきたのは、俺と同年代くらいの女の子だった。バヨネッタさんのような中世風のドレスの上に、毛皮のマントを羽織った少女。頭の帽子も毛皮で出来ている。その下から流れる艷やかな長髪はバヨネッタさん同様の金髪で、首の後ろで二つに結んで分けていた。


「お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん!」


 お姉ちゃんと連呼し、髪色やその赤い瞳を見れば、誰もが彼女がバヨネッタさんの妹であると分かる。が、


「誰あなた!?」


 肝心のバヨネッタさんが、抱き着いてきた少女を拒絶した。


「はあ!? バヨネッタさんの妹さんなんじゃないんですか!?」


 驚きつつ尋ねる。まあ、一番驚いてるのは、このバヨネッタさんの妹(仮)だろうけど。まるで石のように固まっているし。


「馬鹿言わないでよ! 妹はいるけど、もっとずっと小さかったわ!」


 と妹がいる事は肯定するが、彼女ではないと否定するバヨネッタさん。


「いやいやいや、それ何年前の話ですか? バヨネッタさん、家出して結構長いんですよね?」


「…………え? 本当にアネカネなの?」


「ひ、酷いよお姉ちゃん……」


 と地面に崩折れる少女。


「オラコラ姉が緊急事態だって、連絡くれて、お母さんと一緒に最高速度でやってきたのに、まさか妹の顔も忘れていたなんて……」


 そう言って少女は泣き始めた。うわあ、場の空気が一気に重くなったなあ。どう収めようかと俺が思案を始めると、


「…………思い出したわ。そう言えば私の妹は嘘泣きが大層得意だった事を」


 とバヨネッタさんが冷めた目で、眼前でさめざめと泣いている少女を見下ろしていた。そして周りの空気から同情心が抜けていくのを敏感に感じ取った少女は、


「思い出してくれたのね、お姉ちゃん!」


 悪びれもせずにバヨネッタさんに笑顔を見せるのだった。


「でも本当に良かったよ。オラコラ姉からの連絡の感じだと、本当に死んじゃったかも知れないって、お母さんと話していたから」


「本当に、ねえ。バヨネッタ、家を出たなら、家人に心配を掛けるような事をするんじゃないわよ」


 と、いきなり二人の間に女性が立っていた。バヨネッタさん同様のドレスを身にまとい、その上から黒と白の半々になっているフード付きのマントを羽織って、同様のつば広の三角帽を被っている。髪の色は金髪と言うより白髪で、しかし瞳の色は二人と同様に赤かった。ふむ。話の流れからすると、どうやらあの女性がバヨネッタさんのお母さんであるらしい。お母さん、バヨネッタさん、妹さん、三人とも美人とは、お父さんも気苦労が絶えないだろうなあ。


「まあ、そうね。流石に今回は無茶したと自分でも思うわ」


「まあ! ティティが反省をするなんて、珍しい事もあるものね。明日世界が滅びるんじゃないかしら?」


 とバヨネッタさんのお母さん。冗談の規模がでっかいなあ。


「もう! ティティはやめてよね。今私はバヨネッタって名乗っているんだから」


「ええ? 何それ? 似合わない!」


「ティティはティティでしょう」


 妹と母親に全否定されるバヨネッタさん。その背中に哀愁が感じられた。気持ちは分かる。自分が良いと思うもの程、とかく身内には受け入れて貰えないんだよねえ。


「だから皆の前でティティって呼ばないでよ」


 と再度否定するバヨネッタさん。その否定で、お母さんと妹さんも、周りの視線に気付いたらしい。その注目度に頬を赤らめていた。


 その後、遅れて三公とオルさん、アンリさんが駆け付けた。

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