第211話 取引
「勘弁してください」
勇者パーティ全員で土下座してきた。平身低頭するのはパジャンの慣習なのだろうか?
「はあ。良いわよ別に。ハルアキが補填してくれるみたいだし」
おおい! いや、確かに言いましたけど、思った以上の出費なんですけど!? いやいや、勇者パーティよ、そんなキラキラした瞳で俺を見るな。俺はシンヤの賠償金を立て替えるだけであって、肩代わりする訳ではないのだが。そうは言っても払ってくれなそうだ。これは何かしら手立てを考えないと。
「勇者も大変なのねえ。ええっと、シンヤと言ったかしら?」
「はい!」
正座で背筋をピシッと伸ばして元気良く答えるシンヤ。やっている事は正しいのに、残念感が凄い。
「あなた、私たちと旅をするつもりはない?」
「な!? ちょっ、何言っているのですか!?」
慌ててシンヤとバヨネッタさんの間に割って入るラズゥさん。
「あら? 私は結構本気よ。魔王を打倒するなんて偉業を成そうと言うのに、安賃金で使い潰されるなんて、可哀想じゃない。私たちと一緒に魔王打倒の旅をしましょう。同行するなら、年一億エラン出すわよ」
「一億エラン!? ええっと、つまり、五、じゃなくて、十億円!?」
シンヤ、めっちゃ動揺してるなあ。挙動不審過ぎる。
「ハルアキがね」
「ちょっとバヨネッタさん! 俺が友達の年俸払うんですか!?」
「あら? タカシの給金はあなたが払っているんでしょう?」
そう言われれば、タカシは俺の会社で働いているんだから、ウチの会社が給料払っているのか。俺が手渡ししている訳じゃないから、そんな感覚ないなあ。
「タカシ……懐かしい」
シンヤの目が、一時遠くを見詰めたと思ったら、すぐに俺の方へと戻ってきた。
「って言うかハルアキ、そんなに稼いでいるのか!?」
友人より金かシンヤよ?
「せめて半額に負からないかなあ?」
「はい! 俺はそれでも構いません!」
手を上げたのはシンヤではなく、武闘家風の格好をしたゴウマオさんだ。成程、五億円でも勇者パーティには高額なんだ。
「五億……、五億かあ……」
シンヤのやつ、めっちゃ気持ちが揺らいでいるなあ。ラズゥさんが祈るようにシンヤを見詰めている。他のパーティメンバーは微妙な顔である。この金額では仕方ない。って感じかなあ?
「俺じゃなくて、俺たちと同行しているオルさんなら、この三倍は出せると思うけど」
「三倍!? って十五億!?」
「いや、三十億」
シンヤだけでなく、勇者パーティ全員がその場に突っ伏した。え? 全員泣いている?
「うう……、何故? 何故お金って、あるところにはあるのかしら?」
ラズゥさん、お金には苦労しているんだろうなあ。
「…………………………いや、僕はパジャンで勇者を続けるよ」
散々悩んだ結果、シンヤが出した答えは、パジャンでの活動継続だった。
「良いのかシンヤ?」
「ああ。なんだかんだ言っても、これまで僕たちを支援してきてくれたのは、パジャンだからね」
「そう」
バヨネッタさんは、特にシンヤの答えに感慨もなさそうである。とりあえず言ってみただけだったようだ。
「ゴルコス商会って、パジャンにも支店ありますか?」
俺の突然の質問に、意味が分からない。と勇者パーティが全員首を傾げた。ゴルコス商会とは、オルバーニュ財団が運営している商会だ。
「え、ええ。パジャンでも周辺国でも、魔石の売買は基本的にゴルコス商会が担っていますから」
とラズゥさんが困惑顔で答えてくれた。
「なら五千万エラン、そっちだと一億ギンですかね? ゴルコス商会を通じて、勇者パーティで使えるように頼んでおきますよ」
固まる勇者パーティ。うん。そしてそのキラキラした瞳はやめて欲しい。
「ハルアキ、良いのか?」
「まあ、これから魔王を倒そうって言う勇者パーティが、金に困窮して魔王の首を逃した。なんて事になったら、目も当てられないからな」
恥じ入る勇者パーティ。なんでこのパーティにはこんなにも残念感が漂うのだろう?
「あなたの金だから、私は構わないけれど、良いのハルアキ?」
心配してくれているのか、興味があるのか、バヨネッタさんが尋ねてきた。
「ええまあ。それと言っては何ですが、ちょっとお手伝いをして頂きたいんですけど」
「何なりとお申し付けください」
勇者パーティ全員で平身低頭しなくて良いから。これだと俺が勇者パーティを率いているみたいだから。
「バヨネッタさん」
「何かしら?」
「バヨネッタさんがデレダ迷宮に来た目的って、ウルドゥラじゃなかったですよね?」
「! そうだわ! ウルドゥラに続いてこいつらまでやって来たから、忘れて帰るところだった!」
そう言ってニヤリと笑うバヨネッタさん。どうやら俺の意図は伝わったらしい。
「ええ、勇者パーティの皆さん。実はここにいるバヨネッタさんは、財宝の魔女と呼ばれる、古代のお宝大好きな魔女さんでして、このデレダ迷宮に足を踏み入れたのも、お宝探しの面が強いのです」
「はあ」
どうやら勇者パーティの面々も、自分たちがこれから何をやらされるのか理解出来たらしい。
「これから、皆さんにはバヨネッタさんのお宝探索のお手伝いをして貰います」
はいそこ! 露骨に嫌そうな顔をしない。
「馬車馬の如く働きなさい!」
ふう。これでシンヤたちにお宝探索して貰えれば、賠償金の立て替えはしなくて良くなるだろう。それと、
「バヨネッタさん、馬車馬の如くだなんて、失礼ですよ」
「そうよそうよ」
とラズゥさん筆頭に賛同する勇者パーティ。
「テヤンとジールはもっと役に立ってくれています」
「……ハルアキ、テヤンとジールって?」
「俺たちの馬車を牽いてくれているラバだけど?」
自分たちの地位に絶望する勇者パーティだった。仕方ないだろう。愛着の差だよ。今さっき遭ったばかりの勇者パーティと、この九ヶ月ともに旅をしてきた二頭とでは、二頭の方が愛着がある。シンヤは……、
「シンヤ」
「何だ?」
「パジャンに恩や義理を感じているなら、尚更親御さんには会っておくべきだ。国に義理を通しておいて、これまで育ててくれた親御さんに不義理をして良い道理がない」
「……分かったよ」
こうして、俺は何とかシンヤに家族と会う約束を取り付けたのだった。
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