第209話 信用

「俺はヤスと言います」


 灰青色の短髪で段平を持った男が、段平を背中の鞘に納めてお辞儀してきた。それに対してお辞儀を返したのは俺だけだったが。


「アタシはサブよ。よろしくぅ」


 サブと言う灰緑色の髪を後ろ髪だけ伸ばした男は、身体をくねらせながらあいさつをしてきた。うん。アニンがわざと変な翻訳のし方している訳ではなさそうだ。


「オレはゴウマオだッ」


 オレンジ髪の小柄な女性は、かなり強気な性格をしているようだ。小柄だがスマートな体型をしている。ドワヴと言う訳ではないのかも知れない。


「…………ラズゥよ」


 薄桜色の長髪をしたラズゥさんはこちらと目を合わせようとしない。こちらも強気な性格のようだが、バヨネッタさんとの事もあって、その態度が俺には横柄なものに見えた。


 これが勇者パーティ。シンヤと同行している仲間たちであるらしい。


「中々、個性的な人たちだな」


 俺がシンヤに耳打ちしたら、ラズゥさんに睨まれた。日本語で話し掛けたから内容は分からないだろう。とは言えないな。『言語翻訳』のスキルがあればバレバレだ。


「はははっ。でも頼りになる仲間なんだよ」


 ふ〜ん。シンヤがそう言うならそうなのだろう。自力でこんなところまでシンヤを追ってきたんだ。その仲間意識も確かなものだろう。


「さあ、シンヤ様。正気に戻られたのなら、こんな場所に長居は無用です。一度ペッグ回廊を離れて首都で静養しましょう」


「え? う、うん」


 ラズゥさんの言葉に、シンヤはちらりとこちらを見遣る。


「ああ、それなんですけど、シンヤを一度日本に連れ帰って良いですか?」


 俺が口を挟むと、ラズゥさんに睨まれた。他の三人は驚いている。


「あなた誰ですか?」


 正直な反応である。


「ええと、シンヤの友達なんですけど?」


「友達?」


 嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け。とラズゥさんの顔が物語っていた。それは、こちらの世界にシンヤの友人はいない。と言っているのと同義に俺には聞こえた。


「いや、ラズゥ、あながち嘘と決めつけられないぞ。シンヤの反応からもそう受け止められる」


 と俺を援護してくれたのはヤスさんだ。


「そうよぅ。だってこの子、『日本』って言ったじゃない」


 とサブさんもそれを後押ししてくれた。


「ヤス様、サブさん。…………え? 日本?」


 今気付いたみたいで、驚いて俺を見返すラズゥさん。


「日本と言う事は、あなたもこの世界に召喚された勇者なのですか?」


「いや、私は……」


 ただの商人? それとも学生? 俺がどう言おうか思案していると、


「私の従僕よ」


 とバヨネッタさんが胸を張って答える。


 その答えに勇者パーティの四人が、微妙な顔をして俺の方を見遣る。


「まあ、間違ってはいませんけど」


「苦労していますのね」


 いや、ラズゥさん、他のお三方も、同情の視線はやめてください。


「そんな、不当な扱いは受けていないと思いますよ。多分」


 俺の言葉に更に同情しないで欲しい。


「それで、魔女の冷遇に嫌気が差した君は、シンヤちゃんとここで再会したのを良い事に、二人で逃げようと誘ったのね?」


「違いますよッ」


 サブさんが知った風な事を口にするので、俺は慌てて否定した。四人が、違うの? てな顔をしている。


「もしその通りなら、バヨネッタさんの前で堂々とそんな事を口にしません。何かしらバヨネッタさんに分からない形でサインを出しますよ」


 俺の言葉に納得の四人。


「それは分かった。でも分からないのは、日本に逃げるってやつだ。それはあまりに荒唐無稽だろう?」


 ゴウマオさんが腕を組んで質問してくる。


「そんな事ありませんよ。私のスキルは、この世界と日本のある世界を繋げられますから」


 驚き過ぎて声にならない感じだな。


「あと、私は逃げるなんて一言も言っていません。シンヤのご家族が心配しているので、一度安否確認の為に家族を逢わせてあげたいだけです」


 俺の話に、「ああ〜!」と四人が声を上げる。納得してくれたようだ。四人で顔を見合わせ、それから難しい顔になった。


「それは、本当にシンヤ様は行って帰って来られるのですか?」


 四人を代表してか、ラズゥさんが心配そうに尋ねてきた。


「ええ。そうですけど?」


 それって何の心配? シンヤが、このまま日本に帰って、望郷の念でまた異世界に戻るのを渋ると考えているのかな?


「シンヤと一年以上の付き合いなら分かると思いますけど、シンヤはそんな根性なしじゃあありませんよ。一度決めた事はやり抜くやつです」


 俺の言葉に、四人は再度顔を見合わせた。それでも絶対ではない。と信じ切れていない感じで、見ていてイライラする。


「だったら担保として、二本の聖剣はこちらに置いて行かせれば? それならこの子が戻って来なかったとしても、再度勇者召喚して、別の誰かを勇者に仕立て上げれば良いだけなんだから」


 と言うバヨネッタさんを、キッと睨み付けるラズゥさん。


「仕立て上げるとは人聞きが悪いですね。それに、シンヤ様は歴代の勇者の中でも、最強に到達するだろうと言われている方ですよ? 単に勇者召喚して来て頂いた勇者様とは格が違うのです」


「へえ。格が違うなんて言っている割りには、信用はしていないみたいね?」


「なんですって?」


 ま〜たバヨネッタさんとラズゥさんがバチバチしてきたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る