第206話 平身低頭
「それで? 自決はいつするの?」
「いや、バヨネッタさん。いくら刀が欲しいからって、勇者に自決を迫らないでください」
初対面で自決を迫られ、シンヤが引いていた。大丈夫。怖くないからねえ。バヨネッタさんって、初対面だと当たりが強いんだよなあ。俺も殺されかけたし。
「冗談よ」
「…………」
「何よ? みんなして」
「何でもありません。それよりシンヤ、戦っていた時の記憶、あったんだな」
俺は話題を変える事にした。
「薄っすらだけどな。ところどころ途切れながら、ハルアキたちに刃を向けていたのは覚えているよ」
そう言ってシンヤは俺たちをぐるりと見回すと、平身低頭して、頭が床に付く程深々と頭を下げた。
「今回の事は僕の失態です。皆さんには償っても償いきれないようなご厄介をお掛けして、誠に申し訳ございません」
真面目なやつ。
「そんな、気にするなよ。さっきも言ったけど、悪いのはあのギリードって奴であって、シンヤじゃない」
「いや、そう言う訳にもいかないだろう」
と俺が、気にするな。と手を振るってもシンヤは食い下がる。
「全くもってその通りね。やはりここは、キュリエリーヴの一本でも貰っておかなきゃ、割りに合わないわ」
そこに悪乗りするバヨネッタさん。
「何言っているんですか。誰も死ななかったのに、そこまで要求します?」
「ハルアキは何も失っていないかも知れないけれど、私は銃砲類を結構な数失っているわ」
そう言えば、霊王剣の波動で銃砲類が結構斬られていたっけ。
「それにリットーは武具一式をやられているし、バンジョーやゼストルスだって、死にはしなかったけれど、死にかけてはいるのよ」
確かに。俺だってアニンと分離したり、左腕を斬り落とされているしな。
「…………それがなんでバヨネッタさん一人に対しての弁償になるんですか? 刀一本じゃあ、等分出来ないじゃないですか。売らないんでしょう?」
「ちっ」
うわあ、舌打ちしたよこの人。
「ははは。中々個性的な仲間だな」
シンヤ、気を使わなくても良いんだよ。
「キュリエリーヴはあげられませんが、相応の弁償はするつもりです」
「相応の弁償、ねえ? 大人に足先を踏み入れた程度のあなたに、何が出来るって言うのかしら?」
バヨネッタさんの言葉に苦笑いを浮かべるしかないシンヤ。
「手厳しいですね。でも、確かにそれは事実ですね。僕はまだ子供で、勇者と言う権威や、パジャンと言う大国の後ろ盾がなければ、何かを償うと言う事さえ満足に出来ない」
俺たちみたいな子供に出来る償いなんて、誠心誠意謝るくらいの事しかないもんなあ。
「一応、僕の師であり、リットー様の師でもあらせられる、ゼラン仙者様から、各地で暴れる魔物たちが持っていた、古代の宝なんかを集めるように指示されていまして、いくつか集めたものがありますので、そこからお譲り出来れば、と思っているのですが」
へえ。それは良いんじゃないかな。古代のお宝だなんて、バヨネッタさんがすぐに食いつきそう。
「…………」
食いつかないだと!? それどころか凄く嫌そうな顔をしている!
「どうかしたんですか?」
「あの外道仙者が、集めた宝を手放す訳ないでしょう」
「いやいや、集めたのはシンヤですよ? 弟子が集めたのを弟子が使って、何が不味いんですか? ねえ、リットーさん」
俺はゼラン仙者の事を良く知るリットーさんに話を振った。
「いや、あの方ならば、そう言う事もありえる」
ありえるんだ。どんな仙者なんだよ。言い出したシンヤもちょっと微妙な顔しているし、本当にそう言う人なのかも知れない。
「あの、今まで稼いだお金を、賠償金として支払いますので、勘弁してください」
本日二度目のシンヤによる平身低頭だった。
「へえ、勇者って結構稼げるものなのか?」
そこにバンジョーさんが入り込んできた。
「ええ。僕はパジャンに認められた正式な勇者ですから、国から一定の活動資金と、魔物の討伐や問題の解決など、その都度謝礼金が出ます。これでも小金持ちなんですよ」
小金持ち。大金持ちではないんだ。こっちが微妙な顔になってしまう。バヨネッタさんも、ちょっと同情したような顔しているし。
「それで? どれくらい支払えるのかしら?」
バヨネッタさんの、仕方ないからそれで手を打つ感じ満載の問い掛けに、
「あっ」
と声を漏らすシンヤ。
「どうかしたのか?」
「僕のお金、仲間に預けていたんでした。ごめんなさい。今持っていません」
シンヤを見る周りの視線が、完全に同情のそれに変わった。多分俺もそんな顔しているんだろうなあ。
「ああ、えっと〜、シンヤ、俺が立て替えておいてやろうか?」
俺の言葉に、え? 良いの? と目を輝かせるシンヤ。まるで救世主登場のように見詰めないでくれ。
「ええ、皆さん、ここは俺が友人のケツを持つんで、勘弁してやってください」
俺までがシンヤの側に回って、シンヤ共々平身低頭していた。勇者って苦労しているんだなあ。
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