第203話 対勇者? 其の四
「かはっ!?」
吐血するシンヤ(ギリード)。自身を貫くアニンの黒槍を斬り落とそうと、キュリエリーヴを振るおうとするが、そうはさせない。アニンはその身を柔らかくしなやかに変化させると、ぐるぐるとシンヤ(ギリード)の身体に巻き付いていき、シンヤ(ギリード)の動きを拘束する。これで奴はキュリエリーヴを振るわせる事も出来ない。
『くっ』
だがこれだけで奴の動きを封じられる訳がない。すぐにその『怪力』と『加速』でアニンの拘束を振りほどく為に動き出そうとする。が、それはこちらも織り込み済みだ。俺はアニンを通してシンヤ(ギリード)単体の時間を遅速させた。
それでもまだ動けるのは、その『怪力』と『加速』のバフの高さによるものだろう。シンヤ(ギリード)は両手の聖剣を振り回し、自身を拘束するアニンを振り解こうと躍起だ。特にその右手のキュリエリーヴの刀身をアニンに当てようとする。それだけでこの拘束が解けるからだ。
当然リスクはある。もしも己の身体に刀身が当たれば、ギリードの『操縦』は直ぐ様解除されてしまうだろう。それでも奴にとってはリスクを取ってでも行わなければいけない、最優先事項なのだ。
ダァンッ!
まあ、そんな事はさせないが。俺は冷静に、痺れの取れた手で、改造ガバメントでシンヤ(ギリード)の右手を撃ち抜いた。その手から吹き飛ぶキュリエリーヴを、アニンが伸長して掴む。
『やぁ……めぇ……ろぉ……』
時間遅速で間延びしたシンヤ(ギリード)の静止の声を無視して、アニンがキュリエリーヴをシンヤ(ギリード)に向かって振るった。
『ぎゃあああああああッ!!』
汚い悲鳴を上げながら、悶え苦しむシンヤ(ギリード)。俺はアニンを手元に戻すと、キュリエリーヴを握り、シンヤ(ギリード)の元へとじりじりとにじり寄っていく。
『ぎゃあああああああッ!!』
苦しむシンヤ(ギリード)は頭を抱えてその場で転がり回る。リットーさんは今のうちとでも言わんばかりにゼストルスとバンジョーさんに駆け寄って行く。バヨネッタさんは不測の事態に備えて銃砲でシンヤ(ギリード)を取り囲んでいる。
『ああああああああああああッ!!』
シンヤ(ギリード)の最後の悲鳴のようなものが大部屋にこだますると、のけ反るシンヤの頭から、ズルリと三編みが抜け落ちた。
何が起きたんだ? と良く観察してみると、俺が三編みだと思っていたものは、サソリとクモを足したような生き物の尾だった事が分かった。
『どうやらあれが奴の本体らしいな』
アニンが声を掛けてくる。それは確かにそうなのかも知れないが、え? 『操縦』って物理的に取り付いて操るの? 何か魔法的回路で繋がって操るとかじゃないの? いや、両方か?
『そう言う疑問は後回しだ。お友達が傷を負って倒れているのだぞ?』
そうだった。ハッとして俺はシンヤに駆け寄るが、シンヤの顔は死人のように真っ青で、触れる事もはばかられた。
『アッハッハッハッハッハッ! 残念だったな』
すぐ近くの、サソリとクモを足したような生き物、ギリードが声を掛けてきた。こいつまだ生きていたのか。
『俺様の『操縦』は、対象の脳に寄生して動かす俺様オンリーの能力だ。脳に寄生された生き物が、寄生体に去られたらどうなると思う? 死ぬだけさ。アッハッハッハッハッハッ!』
ザスッ。
対象が虫のような節足動物だったからだろうか。『念話』でコミュニケーションが取れていたと言うのに、その身体をキュリエリーヴで突き刺す事に何の躊躇いもなかった。
シンヤが死んだ? せっかくあの事故以来また逢えたと思ったら、また別れる事になってしまった。俺はシンヤの直ぐ側で膝を付き、床を思いっきり叩いて、声にならない声で叫んでいた。
と、俺の耳に俺の声以外の微かな音が入ってきた。俺はガバっと顔を上げると、その音の発信源であるシンヤの口元に耳を近付ける。
ヒュー…………ヒュー………………。
それは声とも言えない呼吸音で、今にも止まりそうなくらい弱々しい音だった。が、生きているのなら問題ない。俺は『空間庫』からハイポーションを取り出すと、直ぐ様シンヤにブッ掛ける。
速攻で快癒していくシンヤの身体。ハイポーションを使うのは初めてだったが、ウルドゥラに八つ裂きにされたと言う三公さえ一瞬で回復させた回復力だ。死んでさえいなければどうにでもなるだろう。
見る見るうちに血色が良くなっていくシンヤの顔に、一先ずホッと溜息を吐く。
『馬鹿な!? 超仙丹だと!? まさかそんな物を持っていたとは!』
『念話』が頭に響いてきて振り返ると、ギリードが、身体を半分にしながらも、俺の肩に乗っていた。バヨネッタさんがこちらへピースメーカーを向ける。が俺が死角になって撃てなかった。
「くっ!」
振り払おうと俺がギリードに触れるより先に、奴が俺に噛み付いた。
『ハッハッハッハッハッ。ハルアキ、貴様も俺様を良くここまで追い詰めたと褒めてやろう。が、後一歩足りなかったな。俺様が身体を貫かれたくらいで死ぬと思ったのか?』
くっ、身体が動かせない。
『ハハッ、だろうな。俺様の魔法回路は既に貴様の脳に届いているのだからな。あとは貴様の身体を完全に支配してやるだけだ』
そう言って高笑いをするギリードだったが、俺からすれば後一歩なのはギリードの方だ。
『誰の許しを得て、この身体を乗っ取るつもりだ』
脳をじわじわと侵食していこうとするギリードの前に、アニンが立ちはだかった。
『な、何だ貴様は?』
『この身体の先住民だよ。全く、先程は良くもやってくれたものだ』
『先住民、だと? まさか俺様より先に、この身体が乗っ取られていたとはな』
若干否定し辛い。
『まあ良い。ならば先に貴様を喰らい、その上で俺様がこの身体の支配者になってやろう』
『ほう? 出来ると思っているのか?』
不遜なギリードの態度に、しかしアニンは泰然としている。
『当然だ。すぐに俺様と貴様の格の違いを思い知る事になるだろうよ』
そう言ってアニンに襲い掛かろうとするギリードだったが、その攻撃は空を切る事となった。ギリードの前にいたはずのアニンの気配が消えたからだ。
『どうした? 今更怖じ気付いたか? 俺様は準備万端だ。すぐに貴様を消し去ってやる。さあ、どうし……』
そこでギリードの意識が消えた。アニンに食べられたから。ギリードは分かっていなかった。ギリードの前でアニンの気配が消えたのではなく、ギリードをアニンが包み込んだのだ。そしてそのまま飲み込んだ。ご感想はアニン?
『げっぷ。不味い。性根の腐った味がした』
どんな味なのかは想像出来ないが、これでギリードの脅威はなくなった。あとはシンヤが目を覚ますのを待とう。
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