第200話 対勇者? 其の一
「なんですかあれ? シンヤが左手に持っているのって、『剣』じゃないですよね?」
「剣だ!」
どうやら剣だったらしい。あれ、剣なのか? それにしてはメカニカルな外見だ。剣身は直剣だが刃はなく、柄には
「あの剣は最古の聖剣、霊王剣だ!」
「最古の聖剣、ですか?」
俺の疑問に、リットーさんが頷いて返してきた。嘘だろ? あのメカニカルな外見、どう見ても未来的なのだが?
「手元の引き金を引く事で、魔力の通った剣身を高速振動させ、あらゆる物体を切断する、対物理最強の剣だ!」
高振動ブレードかよ! 更に未来武器感が強くなっている。
「それじゃあ右手の刀はなんですか? もしかしてあれも聖剣?」
俺の言葉に首肯したリットーさんが口を開く。
「あれは逆巻く太刀、キュリエリーヴだ!」
逆巻く太刀キュリエリーヴ? 刀なのに、正宗とか村正とか菊一文字とか虎徹とか、そう言う名前じゃないのか。いや、ここは日本じゃないのだから、そんな名前が出てくるはずはないか。しかしキュリエリーヴとは、なんか脳がバグる。
「バヨネッタさんの魔弾を消したのは、どう言う理屈なんですか?」
「簡単な話だ! あの太刀は刀身が神鎮鉄で出来ているんだ!」
成程。対魔法物質で出来た刀なのか。俺よりも後ろのバヨネッタさんの方が驚いているが。
「やっぱりキュリエリーヴだったのね。それにしてもあれだけの神鎮鉄、ありえないわ」
「ありえないんですか?」
「神鎮鉄は鍛冶屋のゴルードさえ入手出来ない代物なのよ」
ゴルードさんって確か『通信販売』のスキルを持っていて、地球の品物さえも入手出来るんだよな。そんな人が入手出来ないなんて、どれだけ貴重な物質なんだ。
「カーサッセンの説では、世界の空に今以上に星が溢れ、無秩序に飛び回っていた時代、また太陽も複数存在していたと言う話よ。そんな太陽と太陽がぶつかり、壊れたり互いに一つになったりした時に、こぼれ落ちて地上で固まったのが神鎮鉄だと言われているわ」
スケールの大きな話だ。カーサッセンって確かエデンマシューラパンの後継だよな? まさかここでその話を聞くとは思わなかった。バヨネッタさんの話から推測するに、神鎮鉄とは恒星同士の衝突で出来た代物らしい。鉄以上の重い物質は、恒星やら中性子星の衝突や合体で出来るそうだから、神鎮鉄は鉄ではなく、もっと元素番号の遅い物質だと分かる。
「神鎮鉄って、人体に有毒だったりしないんですか?」
俺の質問に、バヨネッタさんもリットーさんも首を横に振るう。どうやら放射性物質の可能性は低そうだ。そもそも魔法のある世界なのだから、地球のあるあっちの世界と同様の元素や物質であるとは限らないのだが。第一この世界、平面世界のはずだ。恒星や惑星、衛星なんかが球形とも限らない。
『さて? くだらん話に終始していたが、俺様はもうお前らを殺してしまって良いのかな?』
こちらの様子を窺っていたシンヤ(ギリード)が口を開いた。
『フフッ。まあ、何を話し合ったところで、最強の俺様に勝てる訳がないのだが』
とシンヤ(ギリード)は自信満々だ。それもそうだろう。対物理最強の魔法剣に、対魔法最強の物理刀を持っているのだ。て言うかシンヤのやつ、対魔法最強の刀を持っているくせに、身体を乗っ取られたのか? 何をやっているんだ。
『さて、この後勇者パーティと言うメインディッシュが控えているんでな、前菜には早々に退場願おう』
言ってシンヤ(ギリード)が左手の霊王剣の引き金を引くと、その剣身が魔力を帯び、振動音を鳴り響かせる。更に二回引き金を引くと、その振動が高音に変化した。成程、引き金を引く程に振動数が上がっていき、その切れ味も上がっていくって寸法か。
シンヤ(ギリード)が揺れた。と思ったら、その場に残像を残す程の高速移動でリットーさんに近付き、左手の霊王剣を振り下ろす。それをバックステップで躱したリットーさんは、躱しながら螺旋槍を突き出す。が、シンヤ(ギリード)はあっという間に元いた場所に戻ったかと思えば、左手の霊王剣を横薙ぎに振るう。
迸る霊王剣の波動を全員がしゃがんで避けた。霊王剣の波動が、部屋の壁全体に横一文字の傷跡を付ける。
あっぶねえ! と思っていられる寸暇もない。気付けばシンヤ(ギリード)は俺の眼前に移動していた。袈裟懸けに振るわれる霊王剣を左へ避けたところで、シンヤ(ギリード)が右手に持つキュリエリーヴを横薙ぎに振るってくる。それを俺は突発的に左腕に黒剣を生やして受け止めようとするが、
ザシュッ!
と黒剣ごと左腕が斬り落とされた。
「ぐはっ!?」
『ぐわああああああああッ!?』
全身に激痛が走る。そして脳内に響くアニンの絶叫。身体がバラバラにされるような感覚。直後にコトンと何かが俺の身体から外れた。
見ればそれは真っ黒な球体だった。一瞬にして理解した。それがアニンであると。
「アニン……」
痛みに顔が歪む中、更にシンヤ(ギリード)が左手の霊王剣を振ってくるのを、俺は『時間操作』タイプBで加速して、その場からバヨネッタさん、アニン、俺の左腕を抱えて逃げ出した。
『ほう? 俺様と同じようなスキルをもっているようだな』
「同じようなスキル?」
俺はそう応えながら、斬れた左腕を、切断面に合わせてくっ付ける。『回復』スキルが直ぐ様左腕を癒着させていく。
『『超回復』か。便利なスキルを持っているじゃないか』
感心するような態度を取るシンヤ(ギリード)。その間も俺はアニンに起きるようにと揺すり続けた。
『他にどんなスキルを持っているんだ? それ一つではないよなあ? それじゃああの高速移動の説明がつかない』
「悪いが、個人情報なんで開示出来ないんだよ」
俺は左腕を開いたり閉じたりさせながら、そう答えた。
『フッ、フフフフフフ』
ツボにでも入ったのか、シンヤ(ギリード)は肩を震わせて笑っている。
「そんなに面白いか?」
『ああ。個人情報云々って、あれだろ? 日本って国で昨今言われている、個人の権利や利益の保護を名目とした、個人情報の取り扱いに関する法律だろう?』
俺は反応に困っていたが、向こうはニタニタ笑っている。嫌な笑顔だ。
『そんな邪険な反応するなよ。同郷だろう? 仲良くしようぜ』
ああ、成程。俺は嫌そうな顔をしているのか。納得だ。友人の姿をした敵が、こんなにも俺の中の負の感情を掻き立てるとは思わなかった。
『う……、う〜ん』
起きたかアニン。
『ハルアキか。我はどうなった?』
キュリエリーヴの斬撃で、契約が解除されたんだよ。すぐに再契約だ。
『…………良いのか?』
ああ。良くも悪くも、もう俺とアニンは一蓮托生なんだよ。それにアニンがいなければ、俺はこの場で足手まといなだけだ。
『そうか』
そして再契約によって、また丹田辺りでアニンと俺が混ざり合う感覚を体験したのだった。
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