第177話 魔改造

「『通信販売』ですか?」


 俺の言葉に首肯したゴルードさんは、自分の面前に、宙空に浮くウインドウ画面を出してくれた。


「これがメニュー画面でな。この画面で品物を選択して、この部分にカードをかざせば」


 とゴルードさんがバヨネッタさんと同じ金のカードをメニュー画面にかざすと、何もない空間から品物が箱に詰められて現れた。


「それは、『空間庫』から取り出したのではないんですか?」


 俺の疑問は予想済みだったのだろう。ゴルードさんが開けた箱の中には、日本の週間マンガ誌の最新号が入れられていた。


「マジかよ……」


 思わず声が漏れる。週刊誌の最新号が、こんな地下暮らしで手に入れられると思えない。そもそもここは異世界なのだし。これはゴルードさんの『通信販売』は本物だろう。でなければ最上級の詐欺師だ。


「じゃあ、あのガバメントも俺が住む世界から『通販』で購入したんですか?」


 ガバメントが通販で購入出来るかは知らないが、スキルなのだから購入出来てもおかしくはない。


「ああ、あの銃か。あれは俺が造ったものだ」


「造った!?」


 驚きである。現状地球では銃は工場で生産されるものであり、個人で銃を手造りするものじゃない。それを手造りって?


「元の銃は確かに坊主の世界から取り寄せたものだが、あのガバメントは俺がこちらの金属を加工して造り、改造を加えたものだ」


 改造? そう言われた俺は、テーブルのあるスペースから、先程のガバメントがある場所まで戻って、じっくりと見てみる。


「手に持って見ても良いぞー」


 とテーブルスペースからゴルードさんが言ってくれたので、改めて手に持ってみた。初めて実銃に触る。エアガンになら触れた事があるが、実銃となれば話は別だ。俺はバヨネッタさんの銃にも触れた事がない。


 武器なのだから、アニンが変化出来ないのか? と思うだろうが、銃は部品点数が多く、また俺が構造を理解し切れていないと言うのが理由、ではなく、アニンが身体を二つ三つと分裂させられないと言う理由から諦めている。


 アニンは身体を変化させる事は出来るが、分裂は出来ないのだ。翼になったり、両腕になったりする時も、俺の背中を中継地として、そこから展開されるので、実質一つのままなのだ。まあ、元々アニンは一人なのだから、それも当然の話ではある。同様の理由で弓矢にもなれない。


 ガバメントは重いような軽いような丁度良いような、俺のレベルが常人を軽く超えているので、重さは良く分からなかった。が、他の剣や槍と比べて、その携行性が高い事は分かる。これだけコンパクトなもので、遠くから人を殺せるのだから、あれだけ世界に蔓延する訳だ。


 そういう事では、こっちの世界では流行らないかも知れない。銃より携行性の高い、例えば指輪型の魔道具で同様の結果が得られそうだから。もっと言えば、スキルで事足りるのだ。こちらの世界で武器とは持ち主の趣味趣向が反映されるもののようである。


 などと思考があっちに行ったりこっちに行ったりしながらも、手はガバメントを触り、記憶の中のガバメントとの違いを見出そうとしていた。


「あ! え? セレクターが付いている?」


 ところどころ違いがあったが、まずセーフティが左右両側にあるなど、両利き用に改良されていた。そして驚く事に、セレクターが付いていたのだ。


「つまりこれ、ガバメントのマシンピストルなのか!?」


 思わず大声を上げてしまった。


「ふふん。凄いだろう?」


 とゴルードさんは俺のリアクションにご満悦のようだ。


「マシンピストルって、何だい?」


 意味の分かっていないオルさんから質問が飛んでくる。


「マシンピストルって言うのは、拳銃に短機関銃サブマシンガンの機構を詰め込んだ、トンデモ拳銃です」


「トンデモ拳銃?」


「まあ、平たく言えば、この小さな拳銃に、一回引き金を引けば全弾撃ち尽くすような凄い連射機能が付いているんですよ」


「へえ」


 ピンときていないようだ。それはそうだろう。銃と言えばバヨネッタさんの銃のように単発毎に引き金を引くのがオルさんにとってのスタンダードだからなあ。それにしても、地球でも見掛けないマシンピストルを、ガバメントでやろうだなんて、ゴルードさん、良い趣味しているなあ。


「その良さに気付くとは、坊主、良い趣味しているなあ」


 と俺の方がゴルードさんに言われてしまった。嬉しくない。


「私、その銃好きじゃないのよねえ」


 事態を静観していたバヨネッタさんがぼそりと呟く。


「え? 何でですか? 格好いいじゃですか?」


 俺の反論に、


「名前が格好悪いわ」


 と即答されてしまった。バヨネッタさんがリボルバーのピースメーカー使っていたのって、ガバメントの名前が格好悪かったからなの? 確かに『官給品ガバメント』は格好悪いかあ。


M1911ナインティーン・イレブンって言う呼ばれ方もしてますよ」


「へえ、そっちの方が格好良いわね」


 とは言ってくれたが、一度脳裏にこびりついたイメージは払拭し難いらしく、反応としてはイマイチだった。


「んで、どうするんだ? 坊主、その銃にするのか?」


 ゴルードさんに尋ねられた。俺がガバメントを持ったまま離さなかったからだろう。う〜ん、どうしようかなあ。確かにガバメントは名銃である。百年以上前に生み出された銃だと言うのに、デザインは格好良いし、未だに現役の凄い銃だ。それにこの改造は俺の構想にも合致する。あとは、


「俺の望むモノを用意してくださるなら、二丁買います」


「ああ。そう言えば電撃か呪式の麻痺攻撃が出来る銃弾が欲しいんだったな? どちらも用意可能だ。まあ、魔力を込めるのは坊主自身がやらなければならないがな」


 俺はそれに首肯し、更に言葉を続ける。


「その二つとは別にもう一工夫加えたいんですよ…………」


 と俺は自分の構想をゴルードさんに語った。


「面白いなそれ。小さな発明だ。すぐに用意しよう。銃もそれ用に改造しないとな。その間坊主は銃弾に魔力を込めながら待っていな」


 こうして、俺のカスタム銃製作が始まったのだった。

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