第176話 それ、ありなのか?

「それで? 五千人を相手に、殺さずに戦う具体策はあるのかしら?」


 とバヨネッタさん。うぐっ。気持ちが先走って何にも思い浮かんでいない。


「はあ。理想論を振りかざしたところで、そこに至る策がなければ、そんなものは机上の空論でしかないのよ? 敵は口先だけで止まりやしないの」


 反論のしようもありません。


「バヨネッタさんがお手伝いしてくれるとか……」


「狙われているのはハルアキでしょう? それともあなたに私に差し出せる宝があるのかしら?」


「ここでそれ言います?」


 本当にお宝にがめつい人だな。


「ティティって子供の頃からキラキラした物好きよねえ。カラスの生まれ変わりかしら?」


 それに反応するオラコラさん。


「私の話はいいでしょう!?」


 更にそれに反応するバヨネッタさん。


「何か宝が欲しいなら、私が譲ってあげるから、可愛い従僕を助けてあげなさいよ」


 とオラコラさんが俺に助け舟を出してくれた。


「何を自分は静観姿勢を決め込んでいるのよ? オラコラ、あなたの仕事でしょう? あなたも働きなさい」


 そこにも噛み付くバヨネッタさんだった。


「そりゃあ私も手を貸すけど、ハルアキくんは人殺しを望まないのでしょう? 私の魔法じゃ、相手が簡単に死んでしまうわ」


「私だってそうよ! 私の武器、銃砲なのよ!? 殺傷武器なのよ!?」


 確かに、二人に手助けして貰うと言う事は、大量に死者を出すと言う事と同義であり、それは自分が手を下さないからと言って、看過するのもどうなんだ? って話だよなあ。


 今まではバヨネッタさんの従僕、バヨネッタさんの下だからと、バヨネッタさんが人を殺すシーンに遭遇しても、相手は我々を殺しにやって来た悪人なのだ。と見て見ぬ振りでやり過ごしてきたけど、今後、少なくとも自分に降り掛かる火の粉で、バヨネッタさんに後始末をさせるような事はないようにしたい。


「結局、俺が一人の力で出来るだけどうにかするしかない。と言う事ですか」


 俺の言にバヨネッタさんとオラコラさんが首肯した。はあ。どうしたものか。


「戦うなら、非殺傷系の副兵装サイドアームが欲しいところですね」


「何でよ? ハルアキにはアニンがいるでしょう?」


 とバヨネッタさんに尋ねられた。


『全くだ。我ではともに戦うのに不足していると言うのか?』


 アニンにも責められた。


「そうじゃない。逆だよ。この前町を焼いた飛竜たちを追いかけた時、一頭の首を斬り落としただろう? 俺のレベルが上がった事で、同時にアニンの性能も上がって、武器としての殺傷能力が高くなり過ぎているんだよ。それに、今回の相手は飛竜が相当数いるだろうから、アニンには出来るだけ翼の状態でいて貰いたいんだ」


『成程。それならば得心がいった』


 アニンも納得してくれたようだ。


「具体的なイメージはあるのかい?」


 とオルさんが尋ねてきた。


「スタン系の攻撃が出来る何か、ですかねえ。雷系で痺れさせるとか、麻痺毒とか。流石に五千人相手に棒で戦うのは無理があると思います」


 それに対して皆が首を傾げてしまう。それ系の武器に心当たりはないらしい。しばらく皆で黙考した後、おもむろにオルさんが口を開いた。


「毒系は扱いが難しそうだねえ。狙うなら、電撃や呪式での気絶かなあ。バヨネッタ様のように銃を使うのはどうだろう?」


「銃、ですか?」


 思いっきり殺傷武器なんですけど?


「バヨネッタ様、ゴルードさんなら、ハルアキくんが望む、非殺傷系の銃弾も製作しているんじゃないですかねえ?」


 ゴルードさんって誰?


「そうねえ、彼なら銃と言わず、何かそれ系の武器を製作していてもおかしくないわね」


 ふむ。話の流れから、どうやらゴルードさんと言うのは、武器職人であるらしい。バヨネッタさんに話を振ったと言う事は、バヨネッタさんの銃を造った人なのかも。


 そんな事を考えているうちに、バヨネッタさんが『宝物庫』から転移扉を取り出した。


「行くわよ」


 といきなり扉を開けて、俺を呼び込むバヨネッタさん。


「え? はい」


 と俺は展開の早さに少し気持ちが置いてきぼりになりながらも、転移扉を潜ったバヨネッタさんの後に続く。そして俺の後からオラコラさん、オルさん、アンリさん、ミデンが付いてきた。



 転移扉の先は、下り階段だった。壁も天井も床も石で出来ていて、壁の両側には等間隔で魔法の明かりが灯されていた。


 階段を下った先には扉があり、バヨネッタさんがノッカーを叩く。


「誰だ?」


 扉の向こうから返答があった。


「私よ」


 相手の誰何にバヨネッタさんが答えると、扉の鍵が外される音がして、ゆっくりと扉が開かれる。扉を開けたのはドワヴであるらしい、がっしりした体型の灰色の長髪を後ろで結んだ男だった。


「お前か。どうした? もう銃の照準が狂ったのか? だから言っているだろう、銃は乗り物じゃないって」


 バヨネッタさんにもガンガン物言う男。男の口振りから、バヨネッタさんが最近もここへ訪れたのが伺えた。


「ん? オルか。他は知らんな。お前がこんなに人を引き連れてくるなど珍しい」


 俺たちの存在に気付いた男だが、その不遜な態度は変わらない。


「私の連れよ。武器が欲しいみたいでね。あなたの造った武器を見せてあげて」


 バヨネッタさんも男の態度に特に問題は感じないらしく、簡単に俺たちの説明を済ました。


「客か。…………良いだろう。お前の紹介だ。中に入りな」


 男に促されて中に入れば、そこにはずらりと様々な武器が並べられていた。剣も長剣短剣曲剣様々あれば、槍のような長柄武器も多数並べられている。そして恐らくここが他の武器屋と違うのが、銃系も並べられている事だろう。バヨネットなどのライフルもあれば、リボルバーもあり、そしてそれとは違う自動拳銃オートマチックもあった。


「あ、ガバメントがある」


 と、普通に地球の武器が置いてあったので、びっくりしてしまった。と言う事は、ここでこの人が造っているのではなく、どこかから仕入れている。と言う事だろうか?


「ほう? それが何か分かるのか?」


 男は俺が自動拳銃の一つに目を奪われた事に感心していた。


「ハルアキは異世界からの転移者よ」


 とバヨネッタさんが男に俺の事を説明してくれた。


「ほう? それは珍しいな」


「どうかしらね。あと五年、十年したら、異世界からの転移者で溢れ返っているかも知れないわ」


「何だそりゃ?」


 俺たちはテーブルや椅子のあるスペースへと場所を移し、今回俺がやって来た経緯を、ドワヴの男、ゴルードさんに説明した。



「ほう? 地上は今、そんな事になっているのか」


 ゴルードさんはオルドランドと日本が国交を結んだ事を知り、驚いていた。


「まあ、あなたは地上とは無縁の穴倉生活だものねえ」


 とバヨネッタさん。どうやらここは地下であり、ゴルードさんは滅多に地上には出ないようだが、それならばどうやって暮らしを保っているのだろう? 人と接触せずに暮らすにしても、食べ物とかどうしているのだろう? こんな地下で自給自足だろうか?


「不思議か? 坊主?」


 俺は諸々が顔に出やすい。ゴルードさんに面白いものを見ているような顔をされてしまった。バレてしまっては仕方ないので、俺は首肯する。


「俺には二つのスキルがあってな。一つは『再現』だ。これによって古今東西あらゆる武器を再現出来る」


『再現』はオルさんと同じスキルだ。成程、どんな武器でも再現可能とか、強スキルだなあ。レベルもオルさんより高いのだろう。でも『再現』するには元になる武器と材料が不可欠のはずだ。それはどうしているのだろうか?


「そしてもう一つのスキルが……」


 スキルが?


「『通信販売』だ」


 …………え?


「これによって俺は、様々な品物をここにいながらにして手に入れる事が可能なのだ」


 それ、ありなのか?

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