第161話 視察と言うか観光
「うむ。昨夜乗った自走車より、今日の自走車は一段と大きいな」
オルさんの着替えが終わり、ホテルの前に停められた大型観光バスに乗り込む。これなら二十人以上いても全員乗り込めるからだ。
「さて、まずは街の観光と行きましょう」
全員乗り込んだところで、東京観光の始まりである。国会議事堂から始まり、東京タワーにスカイツリーを見て回り、浅草寺でバスを降りる。
「凄い人の数だな」
「何でも日本は人口一億人以上いるのだとか」
雷門の人混みに驚くマスタック侯爵に、オルさんが俺が教えた事を教えている。ジョンポチ陛下とディアンチュー嬢は、人混みの中にいる事自体が珍しく、興奮してキョロキョロ見回していた。
「はい。じゃあここで記念写真撮っておきましょう」
と七町さんの呼び掛けで、まるで修学旅行の学生のように皆で雷門の前で記念写真を撮る。
「なんだか不思議な感じだのう」
デジタルカメラの中で自分が微笑んている事に、ジョンポチ陛下は首を傾げていた。
「私ってこんな顔かしら?」
ディアンチュー嬢の方は違った意味で首を傾げていた。それをいつもいる侍女さんが「可愛らしいですよ」と褒めそやしている。
雷門を潜り仲見世通りへ。名物の雷おこしなど、和菓子を中心に食べ歩き、浅草寺本堂へ。
「ここ、観音様って言う仏様、神様みたいなのを祀っているんですけど、参拝しても大丈夫ですか?」
「ん? 何か問題があるのか?」
俺が尋ねても、ジョンポチ陛下たちはどこ吹く風だった。問題はないらしい。そう言えばオルドランド自体は多宗教国家だったな。
「あ、先に言っておきますけど、ご利益とか期待しないでくださいね」
「分かっておる。祝福の儀を行う訳じゃないからな。こちらの神に顔見せすると思おう」
との事で、お水舎で手を洗い、常香炉で煙を浴びる。
「これは意味があるのか?」
「この煙を体の悪いところに浴びると、快方へ向かうとか言う迷信があります」
「迷信か」
それでも浴びるのが人心と言うものである。
本堂内に参って賽銭箱にお賽銭を入れる。手を叩かずに合掌。拍手をするのは神道なので、仏教の浅草寺では手を叩かない。
その後御守りなどを買ってバスに戻り、ここからレインボーブリッジを通ってお台場へ。
「おお! これが海なのか? ずいぶんと青いのだな」
ジョンポチ陛下やディアンチュー嬢は、初めて見る海に、いたく感動していた。陛下、日本人からしたら、海や川は青いのが普通なんですよ。とは言い辛かったので黙っていた。
お台場には人工の砂浜がある。まあ、お台場自体埋め立て地だしなあ。砂浜でちょっと遊ぶ。初めての海。ジョンポチ陛下とディアンチュー嬢は靴を脱ぎ、裸足になって海に入った。
「おお!」
喜ぶ二人に、
「服を濡らさないでくださいね」
と侍女さんの声が飛ぶ。二人は頷き、そろりそろりと波打ち際を歩く。楽しいのかあれ? とは思うが、二人とも満面の笑みなので楽しいのだろう。手で海水を触ってみて、ちょっぴり舐めてみる。
「しょっぱいッ」
そう言って二人で笑っていた。
昼食は海の見えるレストランで摂ることに。ジョンポチ陛下とディアンチュー嬢にはお子様ランチを頼んだ。さて大人たちはどうするか。悩みどころだが、この店には面白いメニューがあった。大人のお子様ランチだ。言葉としては矛盾しているが、意味は通じる。
これで良いかなあ? と尋ねたいところだが、異世界集団が答えを知っている訳もなく、七町さんや三枝さんの方に視線をやるが、首を横に振られてしまった。後々知られて怒られたくないようだ。
「どうかしたかね?」
マスタック侯爵の圧が凄い。さっき浅草仲見世通りで軽く食べているだろうに、もうお腹が空いているようだ。仕方ない、
「肉と魚、どちらが好みですか?」
「どちらもだ」
わ〜お。あてにならない。じゃあこれなら問題ないだろう。
「この、和牛の小ステーキと甘鯛のポワレのセットをください」
良いとこ取りのお得セットを頼む。
「パンとライスどちらにいたしましょう?」
なんてウェイターさんが尋ねてくるので、「パンでお願いします」と答えておいた。この人たち、ふりかけないとご飯進まないからなあ。
俺の注文は間違ってはいなかったようで、異世界集団さんは美味しそうに昼食を堪能してくれた。異世界人は健啖家なのか、皆良く食べる。食後のデザートまでぺろりだった。
「おお! 馬だ! 馬が走っている!」
午後は競馬場にやって来た。もちろんジョンポチ陛下を喜ばせる為だ。俺も競馬場には初めてやって来たが、府中にある競馬場は、広かった。ちょっと調べてみたら、敷地面積が東京ドーム九十四個分あるそうだ。驚きの広さである。
「いらっしゃい。異世界のお客人方」
その貴賓室。特別なお客様だけが入れる個室で待っていたのは、辻原義一議員だった。
あれ? 辻原議員、海外に行かれていたのでは? と、馬に夢中のジョンポチ陛下に代わってマスタック侯爵と握手をしている辻原議員に対して、俺が小首を傾げていると、
「この為に海外から急いで帰ってきたんです」
と七町さんが耳打ちしてくれた。
「聞こえているぞ七町」
「はい! すみません!」
運悪く七町さんの声は辻原議員の耳に入ってしまったようだ。
「俺は向こうでもちゃんと仕事終わらせて帰ってきたんだよ。ここへ来たのはプライベートだ」
「はあ、プライベートですか? 辻原議員がそんなに馬がお好きとは知りませんでした」
プライベートって、無理ある言い訳だなあ。
「おうよ。今日はうちの馬が出走するからな。気合い入っているぜ!」
とガッツポーズを決める辻原議員。あ、この人本当に馬が好きな人だった。
何でも辻原議員の馬は最終レースに出るらしく、それまでマスタック侯爵と二人で大人の話をしていた。俺たちは邪魔にならないように、ジョンポチ陛下らと競馬の観覧である。
「しかし広いのう。これが競馬の為だけの施設と言うのだから驚きだ」
と呟くジョンポチ陛下には同意する。
「まあ、馬をのびのび走らせるにはこれくらい必要って事かも知れませんねえ。逆に闘技場と言うか、格闘技の開催施設はもうちょっと小さいですからねえ」
「そうなのか」
「もちろん客席があるので、施設自体は小さ過ぎると言う事もありませんけど、サリィの闘技場程ではないですねえ」
俺と会話を交わす間も、ジョンポチ陛下は馬に夢中だった。が逆にディアンチュー嬢やバヨネッタさんは競馬に興味がないようで、俺が渡したタブレットで昨日観た魔法少女アニメの続きを観ていた。それをソダル翁も観たそうにしていたが、グッと堪えてジョンポチ陛下の側を離れなかったのは流石だ。
「残念でしたね」
辻原議員の馬は四着だった。なんと言うか、結果は微妙ではあったが、途中先頭になったりもしたので、レースは盛り上げたと思う。なぐさめになっているのか分からないが。
夕飯は辻原議員の行きつけの鉄板焼きの店で食事した。A5の高いお肉とか、アワビなんかを食べさせて貰った。いやあ、美味しかったなあ。辻原議員とマスタック侯爵はここでも難しい話を続けていた。
辻原議員とは鉄板焼きの店で別れ、俺たちはおもちゃ屋へ。今日イチでテンションの上がるオルさん。ピクトのロボットコーナーへ直行。ジョンポチ陛下もそれに続く。ディアンチュー嬢やバヨネッタさんはどうするのかと思っていたが、件の魔法少女アニメのおもちゃが売っていたので、それを物色していた。
その後、おもちゃを大量に買い込んだ一行は、泊まっていたホテルに戻っていった。やっと観光一日目が終わったな。明日はもっとゆっくりしたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます