第162話 工場見学と和食

 二日目。日曜日。今日は午前中工場見学をする事に。行き先はお菓子工場だ。


「菓子を作っていると聞いたが、大きな施設だのう」


 と工場を見上げるジョンポチ陛下。異世界集団は施設の大きさに圧倒されていた。どうやら街のお菓子屋さん程度の大きさを想像していたらしい。


 中に入ると工場の人間が施設を案内してくれたが、ほとんど人がいない。工場内はほぼ自動化されているからだ。


 チョコ菓子の製造工程を見ていくのだが、外側の小麦粉生地を大きな機械でかき混ぜ、延ばし、柄を付けていき、型抜きし、焼成。焼き上がった小麦粉生地の中にチョコを流し込み、包装し、梱包まで、完全に自動化されている。凄えなあ。もう人間要らないんじゃないの?


 製造工程を見た後、休憩室に案内され、出来上がったばかりのお菓子を頂く。チョコ菓子の美味しさに、ジョンポチ陛下やディアンチュー嬢だけでなく、大人組も虜に。とりあえず全員出されたお菓子を無心に食べていくのだった。



「美味しかったな」


 帰りにお土産まで渡され、ニコニコ顔の異世界集団。ジョンポチ陛下の言葉に深く頷いていた。


「しかし大きな施設だったのう」


「そうですね。あの施設で作られたお菓子は関東一帯……ここら一帯に配送していますからねえ」


「成程のう」


 俺の言葉にジョンポチ陛下らが頷く。


「しかし本当にあの施設、魔法やスキルを使っていないのか? あれだけの施設だ、逆さ亀サリィや吸血神殿などと同じ、古代遺跡と言う事はないのか?」


 とマスタック侯爵。どうやら魔法やスキルのある異世界でも、あれだけの施設となると、古代の超文明の遺産みたいな印象らしい。あれもどういった理屈で動いているのか分かっていないようだ。ロストテクノロジーってやつか。


「そうですねえ。あれら、と言うか、この世界の施設は大体電力で動いているんですよ」


「電力で?」


 訝しがる異世界集団。


「ツジハラも言っていたな。しかし電気は確かに強力だが、そう長い時間稼働するものではないだろう」


 代表してマスタック侯爵が尋ねてくる。


「それはそうですね。だから常に発電所などの施設で発電を続けているんです」


「途方もないな。いったいそれだけの電気を発生させる施設となると、何で電気を生み出しているんだ?」


 とマスタック侯爵が更に突っ込んで尋ねてくる。


「う〜ん、基本は回転力ですかねえ」


「回転力?」


「はい。水車や風車、蒸気タービンなど、回転力を電気エネルギーに転換している施設が多いですね。他の仕組みで電気を生み出している施設もありますけど」


「ふむ。水車に風車か。どちらもオルドランドになくはないが、あれだけの施設を動かせるだけのエネルギーを生み出せるとは思えんな」


「水車や風車も大きさが違いますからね。水車、と言うかダムなんて相当大きな施設ですし」


「ダムか。ベフメ伯爵からそれらしい報告は上がっている」


 まあ、マスタック侯爵とベフメ伯爵の関係からしたら、伝わっているのは当然か。


「じゃあ午後はダム見に行きますか?」


 俺の提案に大人たちが頷くが、ジョンポチ陛下やディアンチュー嬢はちょっとつまらなさそうだった。



 その前に昼食だ。辻原議員からいくつか、辻原議員の名前でツケがきく店を紹介されている。折角日本に来てくれているのだから、和食を好きになって頂きたいが、ご飯をそのまま食べるのが苦手な人たちだからなあ。


「寿司は無理ですかね?」


 横の七町さんに耳打ちするが、首を横に振られてしまった。


「流石に無理だと思いますよ。それに万が一何か起こった時に、責任取れますか?」


 絶対無理だな。なので却下しようとしたところで、


「スシとはなんだ?」


 と耳聡いジョンポチ陛下の耳に入ってしまっていた。横の七町さんと顔を見合わせ嘆息する。


「日本の料理の一つです」


「美味しいのか?」


「美味しいですが、今回は諦めてください」


「何故だ? 美味しいのだろう? 余は食べたいぞ」


 食い下がるジョンポチ陛下。


「いえ、生魚を使った料理なので」


「生魚を使った、料理?」


 異世界集団全員に首を傾げられてしまった。


「それは料理と言えるのか? 釣ったのか網などで獲ったのか分からんが、魚をそのまま出されても、嬉しくもなんともないぞ? 鱗がテラテラしているしな」


 そう言えばジョンポチ陛下は鱗のある生き物が苦手だったんだった。寿司は元々なしだったんだ。他の皆もジョンポチ陛下の言葉に頷いている。寿司は今や世界的に定着した料理だから、こんな事を言われるのは新鮮だ。本当ならここで日本の為にしっかり説明しておきたいところだが、ここはこのまま行った方が良いのだろうか?


「僕は食べてみたいなあ」


 そんな中で研究者のオルさんだけが声を上げる。皆の驚いた視線がオルさんに集中した。


「本気かね? オルバーニュ殿、魚肉とは言え、肉を生で食べて、あたっても知らないぞ?」


 ソダル翁が心配して声を掛けてきた。


「でも、生魚なんて、こんな機会がなければ食べられないじゃないですか。それにこの国は衛生管理をしっかりしているようですから、きっと生肉だって食べられますよ」


 オルさんのこの発言で、マスタック侯爵とディアンチュー嬢がそれに追従する。この一族、中々の食の冒険家のようだ。だがソダル翁を筆頭にお付きの人たちはこれに反対だった。ジョンポチ陛下は意見を表明しない。


「ハルアキ」


 とバヨネッタさんが声を掛けてきた。


「はい」


「私たちがスシ? を食べないとなったら、何を食べさせるつもりだったの?」


「まあ何であれ、和食、この国の料理を食べて貰おうとは思っていました」


「そう。そのスシと言う料理はその専門店じゃないと食べられないの?」


 あ、そうか。


「ちょっと待っててください」


 と俺は七町さんたちと連携して辻原議員から渡された店の名簿から、和食店に限定して連絡を入れ、寿司が食べられる店を見付け出した。


「ありました」


「そう。じゃあ私はスシと和食、両方頂くわ」


 この人も食の冒険家だった。



「お、美味しい。なんでじゃ?」


 和食店で寿司を食べたジョンポチ陛下の第一声だ。驚く事にジョンポチ陛下は寿司を食べたのだ。


「本当に。生肉だと言うのに、いや、新鮮さを保持したからこそのこの味なのだろう」


 横では、生魚を拒絶していたソダル翁も舌鼓を打っていた。結局、ソダル翁ら拒絶していたお付きの人たちも全員寿司食べてるし。オルさんやディアンチュー嬢、マスタック侯爵が美味しそうに食べているのが、余程気になったようだ。


「陛下、それ魚ですけど食べられましたね」


 俺の言に陛下は首肯する。


「そうだな。恐らく鱗がきれいに剥かれているからだろう」


 成程。ジョンポチ陛下は鱗が駄目なだけで、魚の味が駄目な訳じゃないんだなあ。


「本当に、美味しいわね」


 とバヨネッタさん。バヨネッタさんは宣言通り、寿司だけでなく天ぷらまで食べていた。と言うか異世界集団全員寿司と天ぷらを食べている。本当に、胃袋どうなっているんだろう? まあ、どれだけ食べてくれても、ここは辻原議員のツケだから良いけどね。

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