第131話 出口の先で待ち受けていたもの
投獄されました。
さて、順序立てて話していこう。無間迷宮の脱出用の扉は、とある部屋に繋がっていた。白亜の部屋はモニターに埋め尽くされ、サリィの至る所が観られるようになっていた。眼前のテーブルにはパネルが展開しており、スイッチなどが複数まとめられている。
「ここは……?」
『ふむ。恐らくだが、この逆さ亀のコントロールルームではないか?』
アニンの言葉に俺は首肯する。監視室の可能性もあるが、何であれ、むき出しのパネルを下手に触るのはやめておいた方が良いだろう。しかし脱出用の扉の先はコントロールルームか。ジョンポチ陛下たちの姿が見られないから、第二の扉と第一の扉では行き先が違うのだろうなあ。
『とりあえずこの部屋から出るぞ。長居は無用。オルガンたちと合流するのが賢明だろう』
「そうだな。バンジョーさんたちを心配させてしまっているし、駐屯地がどうなっているのかも気になる」
俺は部屋をぐるりと見遣り、出入り口を発見すると、そこから外に出る。
「どこなんだここ?」
出てみたところで、ここがどこなのか分からない。出入り口は長い渡り廊下に繋がっていた。俺たちのいたコントロールルームは、球状空間の中空にあり、一本の渡り廊下で他の部屋に繋がっているようだ。
俺は渡り廊下をてくてく歩いていくと、突き当たりの扉を開けて更に向こうへ進む。
「何者だ!?」
扉を開いたところで、いきなり大声で誰何され、ビクッとなったところで、俺の首元に槍先を突き付けられた。横を見れば、左右に一人ずつ、鎧を着込んだ兵士が槍を持っている。
「はい! ハルアキ・クドウと申します! 何もしません! 助けてください!」
「何もしていない訳ないだろう!? 帝以外入る事が許されていない御聖殿から出てきおって!」
御聖殿? さっきのコントロールルームの事か?
「問答無用だ! 殺すぞ!」
異常事態なのだろう。興奮している兵士二人に俺の声は届きそうにない。俺は槍を突き刺してこようとしている二人から、槍を取り上げた。
「何をする!」
「いやいや、殺されそうになったら誰だってこうするでしょ!?」
と言っても信じてくれない。更に魔法で追撃してこようとする二人に対して、俺は『聖結界』を張って抵抗した。
「くそッ! 魔法が通じんだと!?」
そうこうしているうちに、騒ぎを聞き付けた他の兵士たちが集まってきた。そして武器や魔法で『聖結界』がガシガシ攻撃される。
「やめて! 助けて! 俺は無実です! ジョンポチ陛下との謁見を希望します!」
「ふざけるな! 貴様のような侵入者が陛下に会える訳がないだろう!」
そりゃあそうですよねえ。
「いや待て! 貴様、自分の事をハルアキ・クドウだと言ったな!」
「言った! 言いました!」
「こいつが陛下を誘拐し、ドーム隊長を殺そうとした犯人だ! 何としても捕まえて、陛下の居場所を吐かせるのだ!」
うええ!? 更にヤバい状況に!? そう思っていると、先程『時間操作』で魔力を使い過ぎた為に、『聖結界』が解けてしまった。
そして俺は兵士たちに捕縛され、帝城の地下にある牢屋に投獄されたのだ。
「まさかこんな事になるなんてなあ」
と独り言ちたところで返事はない。投獄の際にアニンは魔道具だとして取り上げられてしまったからだ。更には魔力封じの手錠を嵌められ、転移門で逃げ出す事も出来ない。
やる事もなく、一人で牢屋のベッドでゴロゴロしていると、複数の人間が近付いてくる足音が聞こえてきた。
「起きろ。ハルアキ・クドウ」
現れたのはジーグス将軍以下、騎士と軍人たちだ。アニンがいないから、言葉が分からないかと思ったが、そんな事はなさそうだ。これまでの旅の成果だろうか? それともアニンが遺した足跡かな?
「こんにちは、ジーグス将軍」
俺が声を掛けると、将軍は酷く嫌そうに顔をしかめる。
「お前には騙されたよ。まさか陛下を誘拐し、御聖殿への侵入方法を聞き出す為に、こんな一芝居を打つとはな」
ああ、今の俺、そう言う設定になっているんだ。
「それって、誰からの情報なんですか?」
「ドームだ。ドームが君に殺されそうになったところを、命からがら我々に伝えに来たのだ」
ふ〜ん。
「それを疑いもせず、将軍は信用したんですね?」
「ふん。おかしな事を。ドーム伯爵家の当主と、素性の知れないお前とでは、どちらを信じるかなど知れている」
まあ、それはそうか。ドーム家がどれ程凄いのか知らないけど。
「ジョンポチ陛下はなんとおっしゃられているんです?」
「軽々しく陛下の名を口にするな!」
「その様子だと、陛下は俺の擁護をしてくれているみたいですね?」
「陛下は混乱されているのだ! ドームに無間迷宮へと落とされ、そこから生還したなどとおっしゃられているのだぞ? 正常ではない!」
成程。誰も生還出来ない無間迷宮から生還したとなれば、そのお言葉の影響力も低下するか。
「貴様に関しては駐屯地で対戦した兵士たちからも、素行の悪さを報告されている。兵士たちを口悪く罵り、暴れ回ったそうだな?」
暴れ回ったかは分からないし、口悪く罵ったのはドームだ。何故兵士たちはそんな証言をしたんだ? ドームの協力者だったのか?
「俺が、騙されているのはそちらだと言っても信じてくれないでしょうね」
「当然だ。貴様には数日中に死刑が宣告される事になる」
性急だなあ。でも、それもそうか。一国の帝の命が危ぶまれたのだ。未だに俺が生きている事の方がおかしいのかも知れない。
「バヨネッタさん、オルさん、アンリさん、バンジョーさんは?」
「マスタック侯爵邸で控えて貰っている。侯爵からも貴様の助命の嘆願がなされたが、事が事だ。こちらで棄却させて貰ったよ」
確かマスタック侯爵は、単独裁量権なる凄い権限を持っていたはずだ。そのマスタック侯爵の発言を棄却すると言う事は、それと同等の地位の人間が動いていると言う訳か。完全に後手後手に回っているなあ。
はあ。俺死ぬのかなあ。
「なあ、ジーグス将軍」
「なんだ?」
本当に駐屯地の時とは違って、人を見下すような顔をするなあ。こう言う時に人間性って透けて見えてくるよなあ。
「俺は本当にやっていない。真犯人はドームだ」
「まだ言うか!」
「ああ! なので俺は、ドームとの神明決闘裁判を要求する!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます