第68話 歴代
「それで、ハルアキのお友達が今代の魔王だと言いたいの?」
俺の長話を聞いてくれていたバヨネッタさんが、呆れたように尋ねてきた。
「ええ、まあ。あくまで可能性の一つですけど」
三人が顔を見合わせ大笑いしている。何がそんなにおかしいのだろう?
「可能性の話として、なくはないかも知れないけど、それって魔王の前世の話でしょ? 天使も絡んでいるし、ハルアキくんが気に病む事はないんじゃないかな」
とオルさん。確かに魔王の前世の話だ。だが世の中にはそれで終わりに出来ない人間がいる事も事実だろう。
「不安に思い過ぎよ」
バヨネッタさんが呆れている。今の俺は余程狼狽しているらしい。
「そっちの世界ではどうか知らないけど、こっちの世界の人間は、私たちの世界以外に異世界がある事も、その異世界から転移や転生してくる者がいる事も、子供の頃から寝物語として知っているわ。その逆がある事も」
そうなのか。この世界の人たちにとって、転移者や転生者は珍しくない、のか?
「あれ? バヨネッタさん、俺と初めて会った時に、異世界人なんて珍しい。とか言ってませんでした?」
「言ってないわよ。異世界から来た転移者や転生者は、素性を隠しがちとは言ったけど」
あれ? そうだったっけ? そこら辺の記憶は曖昧だ。
「大体、ノブナガなんて名前の魔王、珍しくも何ともないし」
「え!?」
バヨネッタさんの発言に、驚きの声を上げ、俺はオルさんとアンリさんを見遣るが、二人も頷いている。
「魔王ノブナガは有名で、今代で三代目かな。初代魔王ノブナガは今から四百年以上前に現れ、個としての実力も相当だったみたいだけど、知略にも長け、魔王軍を率いてかなりの災いをこの世界にもたらした魔王として知られているよ」
説明してくれるオルさん。今から四百年以上前って、それ、本物の織田信長だったのでは!?
「他にも有名どころの魔王だと、カエサルとかルゥブゥとかいるわね」
カエサルは分かるぞ! ローマのユリウス・カエサルだ。カエサルが魔王? マジで? 同姓同名かな? 本人ならテンション上がるな!
ルゥブゥは知らないな。他の異世界から来た魔王なのかも知れない。
「ルゥブゥって魔王、ここで名前が上がるくらいですし、強かったんですよね?」
「そうね。個としての強さは現在までの魔王の中で一番だと言われているわ」
そうか。どんな魔王だったんだろう。
「武器として変わった形状のハルバードを愛用していてね。斧の部分が三日月形なんだ」
とオルさんが追加で情報をくれた。三日月形の斧部が付いたハルバード? …………それって方天画戟なんじゃ!? え!? じゃあルゥブゥってもしかして呂布の事!? そりゃ強えよ!
いや待て。確か呂布が方天画戟を使うのって三国志演義の中だけじゃなかったか? 三国志正史では使ってなかったはず。それじゃあ本物の呂布ではないのか。いやあ、でもこっちの世界で方天画戟を使ってたってだけだしな。そもそもルゥブゥが呂布とは限らない訳で。
「何を魔王の話で興奮しちゃってるのよ」
うっ。バヨネッタさんに冷めた目を向けられる。でもでも、十代男子としては興奮する話なんだよ。とは言えず、心の中に留めておく。
「ノブナガの話に戻すと、勇者ノブナガ。なんてのもいましたよね?」
とオルさん。
「いたわね。五十年くらい前に。カエサルやルゥブゥにしても、それを名乗る勇者や英雄は少なくないわ。まあつまり、魔王の名前なんて、その程度のものなのよ。大体、その魔王が自らノブナガを名乗ったのかも怪しいし」
ハッ! 言われてみれば! まだ今代魔王が誕生して一年も経っていないんだ。人間なら赤ん坊でバブバブ真っ最中だ。そんな存在が自らノブナガと名乗るだろうか? 周りの魔物たちの誰かが、過去の強い魔王にあやかって、ノブナガと命名したと考える方が合点がいく。
でもなあ、生まれてすぐに七歩歩いて「天上天下唯我独尊」と口にしたブッダなんかもいるしなあ。ってあれも間違った伝説か。
「まあ、気にしても仕方ない事が分かったでしょ」
「そうッスね」
この世界の人々は俺なんかの想像が及ばない長い年月、こんな問題と相対してきたんだ。今更新参者の俺が口出しするのもおこがましいのかも知れない。少し心の
その後、ロッコ市からポンコ砦を通ってオルドランドに入るルートの確認をする。現在ポンコ砦はロッコ市の警備隊と冒険者たちによって、通れる状態なのか確認中だそうで、二、三日後には終わるそうだ。それが終わり次第アルーヴたちが先遣隊として出発。俺たちはいつものように土日を使って先に進む事になる。
「え? そうなのか?」
翌日、祖父江兄妹にバヨネッタさん、オルさんから聞いた話を教える。
「だから、モーハルドから何か言ってきてもこちらに非はない。と言えば良いと思う。まあ、それでもかなり政治的な部分を含む事になるだろうけど」
「まあな。それに関してはどうやら向こうとしても突っ込めない感じらしいし」
と祖父江兄。
「そうなの?」
「なんせ、天使のしでかした事が発端だからな。天使は神の使い。デウサリウスを信仰するモーハルドとしては、その配下の天使がしでかした事で、俺たちに文句は言い難いらしい」
成程。そう言う背景もあるのか。なんかモーハルドと桂木たちは人間関係と言うか、政治的にと言うか、複雑で面倒臭そうだ。
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