第55話 力量を図る
「ただいま戻りました」
転移門を通って村の宿屋に戻ってきた俺だったが、部屋にオルさんの姿は見受けられなかった。
何処行ったのやら。俺としては明日には離れるこの村を見て回りたいのだが。誰にも行き先を告げずにブラブラと村を見回って良いものだろうか?
とりあえずオルさんがいないので、隣りのバヨネッタさんとアンリさんの部屋をノックした。しかし誰も出てこない。三人で出掛けているのかな?
ならいいや。と俺一人ロビーの方へ向かうと、何やら聞いた事のある話し声が耳に入ってきた。
「お願いします!」
ロビーのソファでは、バヨネッタさん、オルさん、アンリさんと、アルーヴの冒険者たちが、テーブルを挟んで向き合っている。そしてアルーヴの冒険者たちが頭を下げていた。どう言う状況なの?
「嫌よ」
どうやら頼み事があったようだが、バヨネッタさんに断られたらしく、アルーヴの冒険者たちはショックを受けていた。
「何かあったんですか?」
俺はスススとバヨネッタさんの後ろに控えるオルさんに近付き、耳打ちした。
「ハルアキくんたちが助けた五人が、旅に同行させてくれないかって」
同行? 目的が分からんな。そもそも彼らは一度ムシタの冒険者ギルドに、依頼完了の報告の為に帰っていったはずだ。なのに俺たちに同行するために戻ってきたのか?
「そこをどうにかならないでしょうか?」
「役に立ちます!」
「迷惑は掛けません!」
必死に自分たちを売り込むアルーヴの冒険者たちだったが、バヨネッタさんはそっぽを向いて相手にしない。
「何でそんなに俺たちの旅に同行したいんですか?」
見兼ねて俺が助け舟を出すと、オルさんに「黙っていなさい」と口を塞がれてしまった。
「もちろんこの間の魔熊の一件のお礼返しさ」
とバヨネッタさんに助けられた男性アルーヴが語り出す。お礼返し?
「あの一件で俺たちは全滅するところだった。それを助けて貰っといて、何のお返しもしないんじゃ、アルーヴの名折れだ。俺たちにあんたらの旅を手伝わせてくれ」
そう言ってもう一度頭を下げるアルーヴの冒険者たち。お礼ならポーション代を貰っている。それなのにまだ足りないなんて、アルーヴって義理堅いんだな。
「嫌よ」
そんなアルーヴたちの願いをすげなく断るバヨネッタさんの胆力よ。
「そこをなんとかならないか?」
「邪魔よ」
「魔物の跋扈する自然界を旅するんだ、護衛や索敵とか色々あるだろ?」
「私とハルアキがいれば事足りるわ」
本当に取り付く島がないなあ。バヨネッタさんはクーヨンの段階で冒険者とは旅したくないって明言していたからなあ。昔何かあったのかも知れないし、触れちゃいけないところなのだろう。
「なら、我々が、彼よりも役に立つと証明出来れば、旅に同行させて貰えるのですね?」
と男性アルーヴが
「はあ」と嘆息したバヨネッタさんは、一度俺の方を振り返ると、ジーッと俺を値踏みしてから、アルーヴの冒険者たちに向き直る。
「良いわ。あなたたち五人掛かりでハルアキにかすり傷でも負わせられれば、同行を許可しましょう」
「ほう。それはそれは、なんとも優しい試験ですね」
アルーヴたちから殺気がだだ漏れている。それはそうだろう。冒険者としてそれなりにキャリアのあるだろう彼らが、俺みたいなガキ相手にかすり傷一つ付けられないと思われているんだから。うう、めっちゃ睨まれてる。
試験の為の戦闘は、休耕中の畑ですることになった。ここなら多少派手に暴れても問題ないからだ。
畑の中央で、俺とアルーヴの冒険者たちが向かい合う。
五人の冒険者たちの内、右から、男剣、女弓、男双短剣、女魔法杖、男槍と言った感じだ。見事にバラバラだな。
「じゃあ良いかしら?」
辺りに被害が出ないように、畑の周りに結界を張ってくれたバヨネッタさんに対して、俺は頷いて返す。アルーヴの冒険者たちも同様だ。
「では、始め!」
戦闘開始の合図が出され、アルーヴ五人は俺を取り囲むように移動した。前方には弓と槍。左右に双短剣と魔法杖、後ろが剣だ。これが彼らのフォーメーションなのだろう。
はあ。対人戦かあ、嫌だなあ。俺、殴り合いのケンカだってした事ないのに。などと言っていられない。向こうは俺に一撃与える為に本気なんだから。下手したら怪我じゃ済まなくなる。
俺は気合を入れ直し、アニンを黒い棒に変化させる。すると俺が武器を取り出したところで、五人が襲い掛かってきた。
まず槍が俺に突撃してきて、それを援護するように矢が飛んでくる。しかも普通の矢じゃない。矢じりが燃えている。火属性が付与されているのか!
俺はそれを寸でで黒棒で叩き落とす。とその直後に槍使いの突き。これを身体を捻って躱すが、槍使いの槍先から水が突き出された。水属性の付与か。
背筋がゾクッとしてとっさにしゃがむと、剣が空を斬る。背後に回っていた剣使いの攻撃だ。その切れ味の鋭さから、恐らく風魔法が付与されているのだろう。
俺はしゃがんだまま黒棒を横に振るい、剣使いの足を刈って転ばせると、その場から離れる。その直後にさっきまで俺がいた場所に、魔法杖を持った魔法使いから頭サイズの岩が撃ち込まれてくる。
俺はこのまま魔法使いに急接近しようとするが、槍使いと双短剣使いがカバーに入り、俺を攻撃してくる。双短剣の攻撃を受ける度に手が痺れる。電撃付与かよ。まだ『回復』でカバー出来るレベルだが。
近距離の双短剣にその後ろから槍攻撃。更にその後ろから弓と魔法が飛んでくる。と、後ろからは復活した剣使いだ。
双短剣、槍、弓、魔法、剣、と怒涛の攻撃で、反撃の隙間がない。しかも魔法攻撃だけでなく、武器による攻撃にも魔法が付与されているのだ。流石は体内に魔石を有する魔人種族だ。
しかしそれでも五人は俺に一撃を与える事が出来ずにいた。俺が躱し、避け、受け止め、弾き、いなし、攻撃こそ出来ないが、相手の攻撃を食らう事もない。そんな膠着状態が続いた。
「くっ、ミューン!」
「分かったわ!」
と戦線から魔法使いのお姉さんが外れた。どうやら威力の小さな魔法の連発ではなく、大威力の魔法を放つ為に魔力を溜めるつもりのようだ。
俺は一人抜けた穴をカバーするように、攻撃の回転率を上げた四人の猛攻を捌きながら、相手の隙を窺う。いや、窺っているだけじゃ駄目だ。こちらから隙を作らないと。
俺は双短剣、槍、剣の攻撃を黒棒でガシッと受け止めると、矢を放とうとしている弓使いに向かって、双短剣使いを蹴飛ばした。
俺の行動で崩れる陣形。その間隙を縫うようにして、俺は剣使いの腹に黒棒で一撃入れると、黒棒を反転させて槍使いの槍を叩き落とし、顎に一撃与える。
「ぐっ」
立ち上がろうとする双短剣使いと弓使いに向かって、「水よ!」と魔法の水を飛ばして、二人の顔に水を接着させた。これで息苦しくて行動も制限出来るだろう。
あとは魔法使いのみ。と魔法使いを見遣れば、魔法使いの上空には赤く燃え上がる大岩が出来上がっていた。くっ、一足遅かったか!
「火岩球!」
魔法使いの言葉とともに、魔法杖が振られ、燃える大岩がこちらに向かって飛んでくる。
ドゥンッ!!
爆ぜた燃える大岩の威力は相当なもので、直撃じゃないバヨネッタさんの結界をわずかに震わす程だった。
「や、やったかしら?」
もうもうと煙が立ち込める中、立っているのは魔法使いのみ。かと思われたが、
「残念でした」
「え?」
魔法使いの後ろに回り込んだ俺は、黒棒で魔法使いの首を締める。
「どうする? 残るはあんただけみたいだけど、まだやる?」
「ま、参ったわ」
絞り出すような声で魔法使いが降参し、これで俺の勝ちが決まった。
「はあ〜〜〜〜」
五人揃って長い溜息である。
「勝てないのは分かっていたが、まさか一撃も与えられないなんて」
凄〜く落ち込んでいるなあ。まあでも、今回は縁がなかったと思って諦めて欲しい。俺がそんな事思っていると、
「ちょっといいですか?」
とオルさんが声を上げた。皆の視線がオルさんに向けられる。
「もしバヨネッタ様さえ許可をいただけるなら、この五人、僕が雇いましょう」
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