第24話 島の東ヘ

 俺は今、ヌーサンス島を南の港跡からぐるりと島の東に向かって探索している。崖下の湖と繋がっているであろう川か湖を発見する為だ。


 探索の邪魔をし、襲い来るのは数々の魔物や野生動物たち。ベナ草がみっちり生えて、足元の視界が悪いのを良い事に、トカゲや角ウサギ、ヤギが草陰から襲い掛かってくる。


 しかし俺には通用しない。大トカゲ戦以来、野生の勘を鍛えに鍛えまくったお陰で、俺は360度どこから攻撃を受けようと、対処出来るようになっていた。今後の課題はこの探知範囲をどこまで拡張していけるかだ。


 何故なら、俺の探知範囲の外から、一気に急襲してくる輩がいるからだ。それは鳥。


 鳥のスピードと言うものは馬鹿に出来ない。何でも、鷹の仲間であるハヤブサは獲物を狩る時、上空からの急降下により、時速四百キロ近く出すのだそうだ。この島の鳥がどれ程俺にとって脅威か、理解いただけただろうか? いや、流石に四百キロは出ていないだろうけど。


 そして鳥は今日も上空から急襲を仕掛けてくる。


 鳴きながら上空を旋回していたかと思ったら、あっという間に急降下して俺の前に現れる。正にハヤブサの如しだ。


 俺だってやられてばっかりではない。鳴き声が聞こえたらすぐに臨戦態勢を取り、どこから鳥が襲ってこようと、大丈夫なように黒剣を構える。やられるより速く剣を打ち込む為だ。


 しかし鳥は一瞬の内に俺の探知範囲に入ったかと思ったら、死角から一撃食らわせて戦線から華麗に離脱を繰り返し、俺を苦しめてくるのだ。これが一羽ならまだしも、三羽四羽と徒党を組んで時間差で攻撃してくるのでたちが悪い。


 それでも俺のプレイヤースキルが向上したからだろう。四羽のうち、二羽までは返り討ちに出来るようになってきた。


「ムカつく。何が頭にくるって、あれで魔物じゃないってんだから、この世界の生き物はどうなってるんだ?」


『魔物なんてのは、生物の分類の一部でしかないからな』


「そうなの?」


『生物の中で、体内に魔石を有するようになったものを魔物と呼ぶのだ』


「有するようになった? まるでどの魔物も初めは魔物じゃなかったかのような口振りだな?」


『うむ。生物が魔物へと変貌するのは、食の好みや環境の変化など様々だが、初めから魔物として世に産み落とされた生物と言うものは、人工物以外にはおるまい』


 成程。魔物にも色々あるんだねえ。まあ、それを知ったからって鳥の強さは変わらないんだけど。


『まあ、ハルアキの技量も上がってきている。ここらでレベルが上がれば、技量の分上乗せされて鳥にも対応出来るようになるだろう』


 そう。俺がプレイヤースキルを磨いているのは、これが理由でもある。同レベル帯でどれだけプレイヤースキルを上げているかで、次のレベルにレベルアップした時の上乗せ分が違ってくるのだ。知ってたらもっとプレイヤースキル磨いてきてたのに。


 だが考えてみれば当然だろう。俺たちの世界ではレベルアップはない。プレイヤースキルが全てだ。プレイヤースキルをどれだけ磨き、どれだけ向上させていけるか、の世界なのだ。


 そして、もし俺たちの世界にレベルアップの仕組みが導入されたら? プレイヤースキルを磨いてきた者と、そうでなかった者が、等しくレベルアップするのは、俺から見ても不条理である。


 なのでこの世界でのレベルアップには、プレイヤースキル、技量の向上、努力の結果による上乗せが発生する仕組みだ。良い仕組みだと思う。神様グッジョブ。



 東の山のたもとには小さな滝があった。着地点は滝壺になっていて、そこから東の海へ小川が流れている。


 滝を見上げて、ああ成程。と俺は得心した。この滝、恐らく山の中腹にある村の水路と繋がっている。


 山頂の湖から水路で中腹の村を通った水は、ここの滝へと流れ落ちていたのだ。そしてこの滝の滝壺が、崖下の湖と地下で繋がっているのだ。


 何故分かるのかって? だって滝壺の周り、カエルだらけだからな。え? 何これ? 大量発生? 百匹以上なんて言葉が生易しい。


『この量のカエルは初めて見るな』


 マジかー。


 襲って来るカエルたちを、俺は黒剣でぶった斬って回った。黒い刃の波動でもって、数匹を一度にぶった斬る。一度に十匹以上が襲い掛かり、それを横に一閃するのだ。


 それでも止まらない怒涛のカエル攻勢。俺に覆い被さり、引っ掻き噛み付いてくる。


「どぅああああッ!!」


 カエルが近過ぎて剣なんて振るっていられない。俺はアニンをグローブに変化させ、殴る。殴る。殴る。蹴りも加えて格闘戦だ。


 飛びかかってくるカエルを殴り、引っ掴まったカエルを引き剥がして地面に叩き付ける。足に噛み付いた奴はそのまま蹴り上げてやった。格闘戦は格好付け過ぎだった。ただ暴れただけだ。


 気付けば動くカエルの姿は見えず、辺りを埋め尽くすカエルの死屍累々。小川はカエルの血で赤く染まり、小川に落ちたカエルを、魚たちが我先に貪り食っていた。


 そして俺は、こんなアホみたいなカエルたちとの血闘によって、レベルを上げたのだった。

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