第23話 nuisance

 長剣に短剣にナイフ、槍、斧、ハンマー、メイス、グローブ。小盾に大盾、ローブやポンチョのような羽織物まで。アニンは結構多種多様な物に変化出来るようだ。四六時中一緒にいると言うのに、まだまだ知らない事の方が多い。


 何故こんな事を試しているのかと言えば、ぶっちゃけ暇だからだ。言い方を間違えた。レベルとプレイヤースキルを上げる為だ。


 俺は今、島を出るだけのレベルに達していない。俺がこの島を脱出する為には、少なくとも翼を出したまま転移門を開けるレベルに達しなければいけない。


 まあ、翼を消した次の瞬間に転移門を開く。と言う意見もあるが、そんな安全装置なしのジェットコースターやバンジージャンプのような事はしたくない。レベルが上がって、多少頑丈になっているとは言え、怖い物は怖いのだ。


 そんな訳で俺は今、アニンを様々な姿に変化させながら、林の中を探索中だ。と言っても、見えるものは木とベナ草くらいなものだ。


 ベナ草は大量に刈って南の砂浜で乾燥させている。今後の冒険に、薬草やポーションがどれ程必要になってくるか分からないからだ。


 アニンを、死神が持っていそうな大鎌に変化させてはベナ草を刈る。この大鎌、日本だと死神が人間の命を刈るのに使用するイメージが強いが、実際は普通に草刈り用らしい。人間を刈るのは転用だそうだ。まあ、戦争でも使われたらしいので、あながち間違ってもいないようだが。


 ベナ草を刈っていると様々な生き物に出会う。ヤギやトカゲもそうだし、カエルも出てきたりする。そう言えばカエルのいた崖下の湖は、外に繋がってたっけ。あれは崖下の東にあったから、島の東に行けばカエルの生息地を見れるかも知れないな。


 それら三匹の他に、ウサギがいる。角の生えたウサギだ。確か桂木翔真がテレビで見せたのも角が生えたウサギだった。いや、あれの数倍デカいのだが。角も鋭いし。


 ウサギは厄介だ。その脚力を活かしてジグザグに高速移動をしながら、脚に向かって角を突き刺してくる。それでもってダメージを食らって転ぼうものなら、喉や心臓を、その鋭い角で狙ってくるのだ。成程、ヤギがジャンプ力を鍛えられるはずだ。


 俺もヤギに倣い、ウサギと対峙する時は、ジャンプしてウサギの上を取って攻撃するようになった。


 と言うか、大概の敵性生物に対して、ジャンプする、空中で魔力を溜める、その魔力と落下の慣性を活かしての溜め斬り。でカタがつくようになった。プレイヤースキル的にどうなのだろうか?


 とりあえず技名を『空中溜め斬り』にするか、『ジャンプスラッシュ』にするか考え中。どっちも格好悪いって? 俺に格好良さを求められても困る。


 ただし、この『空中溜め斬り』が効かない厄介者がいる。鳥だ。流石の空中溜め斬りも、更に上空にいる鳥には当てられない。俺が翼を出したまま武器が出せるようになればいいのだが、まだ無理だ。ただ、翼はなく、武器だけ出したままなら転移門を開けるようにはなった。どうやら翼は武器などより魔力を消費するらしい。


 さて鳥だ。中々にデカい。翼を広げれば二メートルにはなるだろう。それが鋭い爪とクチバシを持って上空から急襲を仕掛けてくるのだ。危険だし怖い。


 大トカゲ戦で勘が鋭くなったので、避ける事は容易いのだが、鳥はヒットアンドアウェイに徹しており、攻撃された後に剣などの武器を振るっても、既にそこには影も形もないのだ。


 それでも俺のレベルは徐々に上がっているのだろう。時間を掛ければ少しずつダメージを蓄積させていき、倒す事が出来るようになった。


 さて、俺のやるべき事は決まった。まず、プレイヤースキルとして、勘を更に鍛えて察知能力を上げる。そして向かってくる鳥に対して、カウンターでこちらの攻撃を当てる。そして確実性を増すためにも、常日頃から魔力の溜めを作っておく。



「それでハルアキ眉間にシワが寄ってるのか」


 学校でタカシが、「なにをしかめっ面して歩いてるんだ?」と声を掛けてきたので説明したのだ。


「そんなに眉間にシワが出来てるか?」


 魔力を溜める為に、どうしても下っ腹に力を入れざるをえず、すると自然と顔にも力が入ってしまう。


「ああ。こんなだぜ」


 と見せてくれたタカシは、顔中しわくちゃである。


「ぷはは、そんなではないだろ?」


「いやいや、こんなだって、こんな!」


「ぷはははははは。やめてくれ、その顔めっちゃ面白い。ぷはははははは」


 俺はタカシがしかめっ面をするたびに、笑うのを堪える事が出来なかった。タカシを取り囲む女子たちの、俺を見る目が凄く怖かったけど。



『しかしその島、いきなり崖下だし、カエルやら大トカゲに鳥。厄介しか存在しない、厄介島だな』


 家に帰ってスマホを見ると、タカシからDMでそんな文が送られてきていた。


『厄介島』か。言い得て妙だな。でも『厄介島』だと和名過ぎるかな。ここは格好良く英語で、英語で……厄介って英語でなんて言うんだ?


 決定。島の名前はこれから『ヌーサンス島』だ。


 あ、でも元々島に名前あったのか。


『ありはしたが、別にヌーサンス島で良いんじゃないか? もう誰も住んでおらんのだし』


 とアニン。


 良し! やっぱり『ヌーサンス島』に決定!

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