第21話 スカウト
「
「祖父江百香でーす」
その後、俺とタカシは、俺たちを尾行していた祖父江兄妹なる二人と、ファミレスで対面していた。
祖父江兄妹。一見するとそこら辺にいそうな高校生カップルに見える。そう言う偽装なのだろう。
「工藤春秋です」
「俺は前田隆。よろしく」
タカシが挨拶しただけで、祖父江妹がキャーと黄色い声を上げる。
「どうしようお兄ちゃん。あたしの目の前の人、凄くカッコいい」
その直後、俺と祖父江兄は嘆息していた。
「妹よ、それはその男の魅了の幻術だ。騙されるな」
「だ、そうだぞタカシ。真面目な話だし、その能力引っ込められない?」
「ええ? 妹ちゃんの方だけでも、こっちの味方に引き入れられれば、話し合いが有利に進むと思ったのに」
タカシが不満そうな顔をみせただけで、またも祖父江妹から歓声が上がる。
「話が進まん」
「はーい」
俺の睨みにタカシは大仰に肩を竦ませる。
「百香もだ。これ以上騒ぐなら店を出て待っていろ」
お兄ちゃん厳しいな。こんな雪の中、外で待ってろなんて。
祖父江妹はそれを聞いて、雪の中に放り出されるのは嫌だ。でもタカシの魅力には抗い難い。と兄とタカシを交互に何度か見た後、
「ドリンクバー行ってくる」
とこの場から退出したのだった。
「さてと……」
仕切り直して祖父江兄が真剣な眼差しでこちらに向き合った。
「気付いているだろうが、俺と妹は桂木さんの異世界調査隊の隊員だ。隊ではスカウトをやっている」
スカウトって言うか、ストーカーって感じだったけど。
「で、今回は君たち二人を我々異世界調査隊にスカウトに来た次第と言う訳だ」
「そう言われましても、俺らまだ高一で未成年なんですけど?」
「調査隊の募集年齢は表向きでは十八以上だが、募集要項には特例が設けてある」
「特例ですか」
そう言えば調査隊の募集要項にそんな項目があるって、聞いたかも知れない。
「ああ。異世界調査に有用な能力を有する者は、十八歳以下でも採用する。俺たちがその採用枠だ」
ほう。若そうに見えていたが、本当に若かったんだな。
「有用ってのはさっきのストーカーの事?」
タカシ、ズバッと聞くなあ。祖父江兄が顔をしかめている。
「ま、まあそうだな。それも一つだ。その他に格闘術や投擲武器なんて実戦や、敵内部に潜入しての撹乱や陽動なんてのも得意だ」
得意と言われてもな。それ、現代日本で役に立たなくない?
「なんか忍者みたいだな」
とタカシ。それは俺も思った。すると祖父江兄は満面の笑みだ。
「分かるか? いやー、分かっちゃうか。俺たちが忍者の末裔って」
嬉しそうだな祖父江兄。まあ、現代社会では使い道のなかった能力が、今活用されてるんだから、そりゃ嬉しいのかも。
「で? その忍者さんが俺たちをスカウトに来たと」
俺が話を元に戻すと、ニマニマ顔の祖父江兄も、真面目な顔に戻った。
「ああそうだ。工藤くんのさっきの隠れ身の術といい、前田くんの魅了の幻術といい、きっと異世界でこそ本領を発揮出来ると俺は思う」
何かを確信している人間の眼と言うものは力強い。が、それ故にどこか狂気を感じる。眼前の祖父江兄がそんな感じだ。
俺はちらりとタカシの方を見遣る。タカシも同じように感じたのだろう。渋い眼差しを祖父江兄に向けていた。
「そう言われましても、俺らに異世界はハードル高いですよ」
何とかお断りしようと言葉を紡ぐ。
「いやいや、何を言っているのやら。悪いが君らの事は事前に色々調べさせて貰っている」
ドキッとした。後ろ暗いとは言わないが、俺の生活は大っぴらには出来ない。
「二人とも、あの事故以来生活が一変しているね? 前田くんはモテモテになり、工藤くんは引き籠もっているのに、アウトドアグッズを買いまくっている」
へえ、スカウトとしてちゃんと調査してたんだな。調査されて嬉しくはならんが。
「それが何か?」
タカシはもう話したくないって感じだな。祖父江兄ももっと話しようがあろうに、調査や尾行は上手くても、交渉事は下手だな。
「分かっているよ。君らだって桂木さんのように、天使から異能を授かったんだろ?」
だったら何だと言うのか。それが桂木翔真の調査隊に入る絶対的な理由にはならない。
「確かにタカシはそうだけど」
「おい」
「俺は単に家キャンプしているだけだぜ?」
「家キャンプねえ?」
俺の話を聞いた祖父江兄は、含みのある笑い方をする。
「家キャンプで怪我が治るものなのかい?」
怪我? 俺は怪我をしたまま家の外に出た事はないぞ? ああ! そう言えば一度タカシを崖下に招待して、レベル上げをさせて両手足の骨折を治したんだっけ。う〜ん、まずい。俺が異世界行っているのがバレてる。
「工藤くん、君、治癒とか回復系の能力を天使から授かったんじゃないかい?」
…………
「ぷっ、あっはっはっはっはっ」
良かった。バレてなかった。俺の大笑いに対して祖父江兄はムスッとしている。
「何か、間違っていたかな?」
「悪いけど、俺の能力は回復系ではないよ」
「ふ〜ん。回復系ではない。と言う事は他の能力を持っているって事だな」
あ、やっべ。
「ふう〜。祖父江さん」
俺は真面目なトーンに戻って祖父江兄を見据える。
「俺とタカシが有用な能力を有していたとして、桂木さんに協力する事はないよ」
「それは何故?」
「祖父江さん、俺らの事調べてたって言ってたけど、俺らだけじゃなく、あの事故の関係者全員調べてたんじゃないの?」
「…………」
この場でのだんまりは同意と取ります。
「事故関係者って事は、被害者だけじゃなく、加害者もいるんでしょ?」
「マジかよ!?」
「…………」
俺の問いに祖父江兄は答えない。
「あの事故の加害者と被害者が仲良く手を取り合ってやっていける訳が無い。この話、引き受けられないな」
「俺もだ」
俺とタカシは席を立つと、その場から立ち去る。その時ちらっとドリンクバーを見たら、真剣な目をした祖父江妹と目が合った。すぐに逸らされたけど。
あの目、多分タカシの魅了はかかってないな。と言う事は席を立って誰かに連絡していたか。はあ、この問題、今回の話だけで終わらないかもなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます