第3話

二人で色んな話もしたし、ナナの話は全部真剣に聞いた。

とにかくナナの為の時間を大切にした。



そんな生活を一年した。



そう。



【そんな生活を一年した。】



と、簡単に言うには2つの理由がある。

1人はそれだけヨシコとはからまなかった。

ナナのイベントは一緒に行くが、それ以外はナナと二人。休みの日もナナと公園デートを繰り返した。僕なりのヨシコへの意見は「普段家事や育児に仕事までやってんだから休みの日はゆっくりしたいだろう。」だったので、とにかくナナと一緒にいた。



今思えばヨシコとの会話の記憶がほぼない。



もう一つは。

ナナが寂しがらないでいてくれたから。

よく考えればヨシコはナナが帰宅し僕が帰宅するまではナナといる。毎日ヨシコは仕事行くわけでもない。ナナを僕なりに一年見ていて隠しているとは思わなかった。ナナが産まれてから毎日ナナの事を思って生きている父親だ。それくらいはわかる。

なんなら、「今日も遊ぼう」や「お菓子買ってくれた?」「パパのお布団は落ち着くの」というセリフがでてきた。



なんなら、ナナから「今日ママ仕事?」とよく聞かれる。「そうだよ。」と答えると「よっしゃー。」とナナ。

もう僕もナナと二人のほうが気が楽にはなっていた。ヨシコが休みの日は少し変な空気が流れるのでいつもより早くナナと寝室に行く。



僕はヨシコとナナの部屋でナナと遊んでから寝かしつけをする。

ナナが完全に寝てもすぐには部屋をでず、寝るギリギリまで、同じ部屋にいて、ヨシコが帰ってきたら自分の部屋に戻るようにしている。寝ている間にナナになにかあったら大変なので。



なのでナナはヨシコと毎日寝ている。

が、夜中に起きると僕の部屋に忍びこんで僕を起こす。「パパと寝たい」というナナを抱きしめ二人で寝る。



寝室を分けた意味がこの一年はなくなっているが、

わざわざ三人部屋にしたいともう一度ヨシコに言うのも結果が見えてるので言わず、この生活をした。



僕がいる所では聞いたことはないが「パパの部屋に行くのなら布団捨てるよ」と、ナナは言われている。それでも果敢に僕の部屋にくるナナも気合いが入ってるとしか言えない。



この、

「パパの部屋に行くのなら布団捨てるよ」発言は面倒くさがりな僕でもヨシコに言おうとはした。ナナがかわいそうだと。ナナなりに夜ママがいないのを我慢してるんだ。いちいち行動に罰を与えるんじゃない!って。

でも、僕が言ったら嫌みに聞こえるかと思い言わなかった。



いや、

やっぱり面倒くさかっただけだと思う。自分なりに理由を作ってはみたが結局は面倒くさいんだ、ヨシコに話しかけるのが。



ヨシコと話をする事自体が。



この頃はもう夫婦というより同居人になっていた。

ナナを育てるという同じ目的をもった同居人。わざわざ頭の中で【同居人】というキーワードはよぎってはいなかったが、感覚としては間違ってないだろう。



こんなすれ違いの生活でも僕は満たされていた。スクスク育ってくれる愛娘のナナ。ヨシコとはすれ違いばかりだがこれといってほとんど喧嘩しない生活に。



このままナナは成長し、それを一番近くで見守る。ナナの為なら仕事も頑張るし、ナナの為ならなんでもしてあげたい。

そういう生活をして、ナナが巣だったら適当に生きるかー。あっ、孫も楽しみだなー。



僕の頭の中にヨシコはいなかったんだ。





「離婚したいんだ」




あぁ。

やっぱりここからだ。

僕が後悔を始めたのは。

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