第4話

「話があるんだ。」



よく考えたら想定できたはずなんだ。

夜中に「話がある」と言われたら良い話なわけがない。

考える事すらしなかったんだ。話しかけられたのに、めんどくさいと感じてしまった。

この時だけじゃない。常に。めんどくさがっていたんだ。


そんな事はヨシコもわかってるんだろう。


「離婚したいんだ。」


一瞬なんの話しかすらわからなかった。そしてその次の一瞬で理解した。

ヨシコは「離婚したい」んだ。その言葉の通りではあるが少し頭が混乱した。

正直、離婚するとは思っていなかったから。なんとなくこのまま生活して、なんとなくこのまま生きて行くと思っていた。


「えっ、なんで?」


普通の返ししかできなかった。それだけ頭が混乱していた。


「もう、私達夫婦としては無理よ。」


わかってる。

夫婦ではなくナナの親としてここ数年は生きてきたから。

ヨシコとは【ほぼ同居人】になっていたのはさすがの僕でもわかる。


「いや、でもナナが。。。」


ついナナの名前を優先してだしてしまった。

ヨシコの気持ちを深く聞く前に。


「あなたが嫌いなわけじゃない。けど、もう私達夫婦ではないの。無理なの。あなたと夫婦だと思うだけで気持ちが沈むの。」


さっきまで話しづらそうにしてたとは思えないくらいはっきりと言われた。



「あなたが嫌いなわけじゃない」


はヨシコの優しさだらう。

今思えば、「話がある」とヨシコから言ったのだか、ヨシコから話すのを待った僕の時点で旦那の資格はないだろう。

妻が話があると言うのに心配すらせず、めんどくさそうにしていたのだから。

僕にはヨシコへの優しさがなかったんだ。


続けてヨシコは話す。


「家の事や財産の事は話し合いましょう。でも夫婦としては無理。あと、親権も渡せない。絶対に渡さない。」


色んな事が頭を巡った。

もう離婚するということに決まったのか?家?財産?親権?

より混乱した。


「急に決めないでくれ。」


という僕の昔から使い古されたセリフも、言ってる途中で


「急じゃない!!何ヵ月も悩んだの!苦しんで決めたの!もうプツンと切れちゃったの。」


ヨシコは発狂した。

僕はやっと、少しではあるがヨシコの事を考えはじめた。

昔から外出すらしない僕についてきてくれていたヨシコ。ヨシコの事を楽しませてあげようと考えれていれば外にでたはずだ。現にナナを楽しませてあげたい気持ちで僕は外出するようになった。

そう思うと僕は真剣にヨシコの事を考えてはいなかったんだろう。

いつかこうなるのは見えていたんだ。僕のせいで。


「うん。そうか。そうだよな。」


「うん。そうなの。だから別れてほしいの。」


僕が話を聞く姿勢を見せたらヨシコも少し落ち着いた。


「ナナの事もある。ナナはあなたを好きだからね。だから提案があるの。」


提案?あまりの目まぐるしい展開に僕は黙らざる終えなかった。


「提案というより選択してほしい。私としてはあなたと夫婦じゃないというだけで気が楽になる。だから籍だけ抜いて今の生活をするか、完全に別れて別々に暮らすかを決めてほしい。」


頭が混乱してるにしては僕なりに理解できた。

普通なら「じゃあ、今のままもう少し頑張ってみないか?」となるとは思うが、僕は妙に納得した。


妻としてのヨシコの気持ちと母親としてのヨシコの気持ちなんだろう。

僕はあぁだこうだ言う気にはならなかった。

これはめんどくさいではなく、ちゃんと悟った。


「わかった。いつまでに決めたらいい?」


「宙ぶらりんで落ち着かないのはいやだから次の休みの前の日(3日後)までに決めて。その時細かい話しはしよう。あとね、もし籍だけ抜いて今の暮らしをしても、きつくなったらどっちかがでていくからね。一生の話じゃないから。」


厳しい事を言われたが、僕は「うん。」とだけ答え、ヨシコは部屋に戻った。あんなに眠たかったのに寝れない。なぜか時間がもったいないと感じる。短絡的に決めてはいけないのはわかってる。


こうして僕の2日間の考える日々が始まった。


そのまま眠らずに仕事に行った。

仕事なんてできる気持ちではないと思っていたが、なんとかこなせた。むしろ考えなくていい時間として集中できた。

だが、帰宅する時には頭の中は【離婚】でいっぱいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る