第2話
ヨシコのお腹にいる時から父親のつもりではいたが、初めてナナを抱っこした時、父親になった。
男なんてこんなもんなのだろうか。
それでも、この子を一生守ろうと決めた。
スクスク成長するナナ。
可愛いくて堪らない。仕事も早く帰ってきたいし、なんなら行きたくない。
さすがにそれでは生活できないので渋々行くが、早く帰ってナナに会うのが楽しみで仕方なかった。
それは今でも変わらない。
そう、産まれてから今の今まで変わらない。
毎週末は朝起きてからナナが起きるまでに朝ごはんを作った。
普段あまり料理はしないが、前の日からナナが何を食べたいか考えるのも楽しい。
ヨシコは自分が食べたい物を食べたいからなのか僕が作ったものを食べなかった。
まぁ、自分で決めたのならいいかと、自然とナナと僕の分しか作らなくなった。
ご飯を食べたらすぐさま外へ出掛けた。
なんといってもナナは外で走るのが大好き。
ナナは7ヶ月でヨチヨチ歩きを始めたくらいだ。あの時はヨシコと一緒に喜びと驚きで歓喜したのは今でも覚えてる。
とにかく外で遊ぶのが大好きなナナと共に遊ぶのは何にも変えられない僕の幸せな時間だ。
あの家からでなかった独身時代では考えられないが毎週外にでた。
毎日遊びたい。
たくさんいた友達とも遊びにいく事はやめた。少ないであろう我が子の幼少期を共にいたいと。
仕事終わりに一杯ひっかけて帰るなんてもったいない。早く帰ってナナに会いたかった。
毎日会っているのに毎日早く会いたかった。
マイナスが貴重な時間。
この子の為に僕の時間を使おう。
愛娘のナナに全てをそそいだ。
「親バカだ」
「子離れできない」
と、周りには言われるが
「親バカだからいいんだ」
「その時がきたらできる」
わかりやすい親バカっぷりを発揮して周りの話なんて入ってこなかった。
案の定、ヨシコとな会話は減ってきた。
もしかしたらヨシコは僕に話かけていたのかもしれない。
何かアクションをだしてコミュニケーションをはかってくれていたかもしれない。
もはや今さら聞く事もできないし、ヨシコもあの時と気持ちが違うだろうから。
もししていてくれていてもその時の僕は気づいてはいなかった。
ナナの入園、運動会だけは行った。
何があっても行きたかったし、ナナだけパパがいないという寂しい思いをさせたくはなかった。
本当は他のイベントも行きたかったが全部は休めない。
なので他のイベントはヨシコに任せた。僕のその時の
気持ちは
「僕は行けないけどヨシコは行けていいなぁ。」
だった。
ヨシコは僕に何も言わない。
から、何も感じず何も考えないダメな僕がいた。
ナナとの幸せな日々の中で、
ヨシコとの暗黙のルールが少しずつ減ってきた。正確には減らし、減らされた。
決して自然にではない。お互いが決めた。
ヨシコとのおやすみなさいのキスはなくした。そのかわりナナの頭にキスをするようになった。
僕からやめたつもりではあるがこれに関しては同意の廃止だと思っている。
いつのまにか歯ブラシを置くところも別々になった。帰宅時の「今から帰るよ」もやめた。
だいたい帰る時間がわかるんだから別にしなくていいかと。
「ただいま」
を言うのもやめた。
一度「ただいま」と言った時に何も返事をもらえなかったからだ。
何も言われないのならば言う必要はないなと。
ただ、ナナには全力の「ただいま」をした。
僕にしては珍しく反論したのは寝室を分ける話。
僕が風邪を引いてしまい、ナナに移ったらまずいと思い別部屋にした。
ナナの寝息や寝顔を見れないのは辛かったが、ナナが風邪を引いてしまうなんてかわいそうすぎるから。
早く治したいな。ナナと遊びたいなぁと自分を奮い立たせて高熱と戦った。
なんとか完治した時に布団を戻そうとした時、ヨシコから
「別々のほうがお互い楽だからこのままでいよう。」
と、告げられた。
当たり前のように反論した。
僕の今の幸せはナナとの時間だ!
苦痛でしかない。と。
ヨシコは最初は
「別々のほうが、、、」
と言ってはいたが、珍しく反論する僕をなだめる為にシフトチェンジをし始めた。
「朝あなたの目覚ましでナナが起きたらかわいそうだから。」
ナナの名前をだせば僕がひくと思ったのだろう。そう、わかりやすく僕はひいた。ナナにとってマイナスの事はしたくない。
苦渋の決断ではあったが、この話を受け入れた。
まんまとヨシコの作戦は成功。
でも僕は気付きもしなかったんだ。気付くわけがない。ナナとの事しか考えてない僕には。
なぜヨシコが一緒に寝たくないのだろうか?
なんて考えもしなかったから。
頭にすらよぎってないのだから。
少し違和感を感じたがある日突然ヨシコがアルバイトをすると言い出した。
それは1年前だ。
それと同時に車を購入した。僕はなぜ働くのか?なぜ車を買ったのか?なぜ何も言わず、バレないように
こっそりと事を進めていたのか。
ではなく、僕に相談しなかった事についてだけ少し小言を言った。
だけどそれ以上は言わない。どうせ何を言っても決めてしまった事を変える人ではないし、買ってしまった
ものは返せない。
仕方ないんだから、つっこまない。
関わっても時間と思考の無駄だと。
「これから色々お金かかるから、私も働く。働く場所は居酒屋に決めたから。あと、私忙しくなるから自分の洗濯物は自分でやって。」
と、だけ言われた。
僕は正直どうでもよかった。働く事も車を買った事も。
それよりも夜ヨシコがいない事によるナナの事を心配した。
母親が毎日ではないにしろ夜いないというのは寂しいのではないか。甘えたい時に母親に甘えられないのは辛いのではないか。
僕はナナの事しか考えていなかった。
家事をしながら働くヨシコの事を「自分で勝手に決めたんだから。」と、労うこともせず応援することもせず。
奇妙な3-2-1-2-3-2-3の生活が始まった。
朝は三人が家にいて、僕が出勤して二人。そのあとナナが登園してヨシコが一人。ナナが帰ってきて二人。僕が帰ってきて三人。ヨシコが仕事行って帰ってくるから、二人。三人。
よく見ると複雑な生活が始まった。
最初はさすがに不安だった。ナナが「ママに会いたい」と寂しくなってしまったらどうしようか。その時きっと僕ではダメだろうと。
その寂しい気持ちすら隠してしまってもかわいそうだと。
ナナがそうならない為にも今まで以上にナナとの時間を大切にした。
ナナに対して時間に厳しいヨシコ。なのでたまに少しだけ寝る時間を遅らせて遊んだり。
僕とナナだけの秘密を作ってみたり。たとえばヨシコの事を二人だけの時は「よっさん」とあだ名をつけた。
お菓子もひっそり買っておいた。
二人で色んな話もしたし、ナナの話は全部真剣に聞いた。
そう、ナナの話だけはきいた。
だから、こうなったわかではない。
ヨシコの話しもちゃんと聞いていればよかっただけなんだ。
その時の僕にはわからないが。
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