第2話
この不動産会社に設計担当として入社してから、6年ほどが経つ。
入社後、様々な部門がある中、配属されたのは、新築戸建やマンションの企画開発を行う、「デベロッパー部門」と呼ばれる部署だった。
設計ができる者として入社しているし、そういった部署への配属は当たり前といえば当たり前なのだが、その当時は、今まで外注していた設計を自社で行うための足掛かりとして、初めて設計担当を採用したとのことだったらしく、「うちの会社にもようやく設計士が!」と、それはそれはもてはやされたものだ。
しかし、自分は何かしらの免許を持った、所謂「設計士」と呼ばれるような御大層なものではない。ただの建築学部を卒業しただけの凡庸な存在である。
それが、社長が履歴書の「建築学部」の文字を見ただけで設計士だ!となったものだから、この会社は大丈夫だろうかと心配になった。
案の定というか、なんというか。最低限、設計として必要なスキルは持っているものの、さまざまな申請を行ったり、構造耐力の計算をしたりといった、資格持ちの人間がやるような高次元のことができない自分への社内評価は、「期待外れ」と、少しずつ下向いていった。
会社組織というのは勝手なものである。勘違いで雇ったのはそちらではないか。と憤りに近い気持ちを覚えたこともあったが、こちらは所詮雇われの身だ。社内評価が低かろうが、土地仕入担当が仕入れた更地に家が建つかどうか検証できるくらいの能力だけでも認められていて、それに見合ったそこそこの賃金が発生しているとくれば、別に転職する理由にもならないし、と、ずるずる居座っている現状がある。
しかしながら。
「せっかく仕入れた、か…。何考えて仕入れてんだろうなぁ…」
去っていった後輩への愚痴が、口から力なくこぼれていった。
デベロッパー業を取り巻く土地仕入難の状況は、年々厳しさを増している。
おいしい土地にはベンチャーに片足を突っ込んでいる企業程度ではとても買えない金額が付けられているし、裏で情報を回してもらえるような要領のいい仕入担当はこの会社にはいない。
すると、どうなるかというと。
間口が3mあるかないか、奥行きが13mくらい、みたいな、鰻の寝床にしても細すぎる土地みたいなものしか回ってこないというわけである。
そんなものでも「うちには天才設計士がいますから!いい間取りプラン入れてみせますよ!」と仕入れてくる担当者は多分馬鹿なんだろうと思う。
そして、そんな馬鹿が仕入れる土地に、今までなんやかんや言いつつ、そこそこ使える間取りを設計してこれてしまった変な実績のある自分もまた馬鹿なんだろうと思う。
設計が遅れると竣工が遅れる。
竣工が遅れると販売が遅れる。
販売が遅れると売れるのが遅れる。
売れるのが遅れると会社に金が入るのが遅れる。
そんな事情もあり、一つの土地に対してのプランをいつまでも考えていられるわけではない。
上司から言い渡された締切は本日中。
(詳細な検証が入ってもほぼ修正がないレベルの)
(かつコストもかさまない)
(そして売れる)ラフプランだけでも引いて出してこいとのことだった。
「………無理なんだよなぁ」
寒さと、どことなく追い詰められた気持ちに、震えた声が出た。
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