03.悪夢から目が醒めて
羽月と安曇が帰るのを見送ると、刹華は深く溜息をついた。それは、只今から強敵に立ち向かう覚悟を決めた証であった。
人生二台目の携帯電話。そして、人生初のスマートフォン。刹華にとって、電話らしいボタンがついていた前の携帯電話の方がまだ馴染み深かった。スマートフォンともなると、最早使い方の分からない高価な魔法のアイテムに等しい。下手に扱えば、破壊してしまったり高額請求されたりする可能性があるのではないかと、刹華はベッドで胡座をかいたまま、眼前でコンセントに繋がれているスマートフォンを半ば畏怖の感情を込めて見つめる。恐る恐る持ち上げてみると、黒いフラットなボディが大変スタイリッシュで、こんなものを持ち歩いて本当に大丈夫なのかと不安になる。
今一度気合を入れ直し、刹華は説明書を探す。説明書を読めばなんとかなると思っていた訳だが、その認識は簡単に破壊される。スタイリッシュな箱の中には、説明書らしきものなど一つもなく、薄っぺらな紙が数枚入っているのみであった。紙袋に入っていないかと確認するも、見つかるのは通信料が書かれたカタログや契約書類ばかり。こんなことでは、この黒い物体の側面についているボタンが何かすら分からない。勝負を始める前から手詰まりを起こし、どうしたものかと刹華は天井を仰ぎ見る。
「分かんなくなっちゃいました?」
声の主は、向かいのベッドにいた少女であった。どこか「まってました!」とでも言いたげである。
「あ、ああ……」
「ですよねですよねー。私も全然分かんなかったし。最初見たとき『ボタン無いのにどうすんのさ!』って思ったもんですよ」
彼女はベッドから抜け出し、スリッパをパタパタと鳴らしながら刹華に向かってくる。その様子を見て、隣の少女が彼女を止めようとするが、声が出ていない。
「お、イーフォンっすね。私のサイボーグだから、もしかしたら分かんないかも……あ、電源はこれっすね。これを長押しするんですよ」
ベッドの上のスマホを勝手に弄り始める少女。
「お、おい。分かんねえのに触ってたら壊れるだろ」
刹華は端末を取り上げ、大まじめに怒りかけるが、
「だいじょうぶですよぉ。最近の機械はこの程度じゃ壊れませんから。ほら、電源つきましたよ? このリンゴマークみたいなのが電源ボタンですから、覚えといてくださいね」
刹華が取り上げた端末の画面には、なんとも陽気に「ナマステ!」と表示されている。
「インドだな……」
「インドのメーカーですからね。んー、アカウント設定いるっぽいけど、私はその辺ちょっとなぁ。ハルー、ハルってイーフォンだったっしょ?」
陽気な少女が聞き慣れない名前を呼ぶと、刹華から見て斜めにいた少女が驚いた。どうやら、彼女が「ハル」というらしい。
「あえっ! あっ、あっしは特に詳しくは……」
「ボス、あいつ興奮して一人称が訳分かんなくなってますぜ」
ハルと陽気な彼女のやり取りを、刹華は時々見ているが、大体いつもこんな感じではある。それがなんとなく、刹華には微笑ましく思えた。
「……これ、どうしたらいいのか全然分かんねぇんだけど、分かるか?」
出来るだけ威圧しないように、刹華も端末を持って近づいてみるが、ハルは刹華を恐れるように、口をパクパクさせている。刹華は内心、こういう反応も久しぶりだなと思っていた。
「……ストップ。ストップストップ。ストーップ。鎮まりなさい」
栄花リオンの制止を受けて、名も無き彼女は呼吸を乱したまま動きを止める。依然として、彼女の暴力はロクに当たっていない。
「前回から薄々感じてはいましたが、貴方……格闘技がド下手糞ですわね」
暴力的なまでに直球の評価に、名も無き彼女はぴくりと動いた。
「……挑発の、つもりですか」
「そうではありませんの。むしろ
「でしたら……もう少し、言葉を選ぶべきかと。その言葉選びでは、敵意を持たれても、仕方ないと……」
「分かってますわよ。
リオンは紙袋からミネラルウォーターを取り出すと、開栓して彼女に無理矢理咥えさせた。
「まず第一に……貴方本当に、ただの一度も戦ったことがありませんのね」
リオンがボトルを名も無き彼女の口から離すと、ほんの少し水が跳ねた。
「そんな、わけ……」
「あるから言っているんですの。この場合の『戦う』というのは……ほぼ同等、或いは策を用いれば手が届く範囲の相手との戦闘のことを指しますわ。そうでなければ、それはいじめ、処刑、虐殺……そういった呼び方の方が相応しいでしょう?」
名も無き彼女は、言葉に詰まる。
「葛森さん。貴方の拳は鋭い。そして、貴方の戦い方は自分の力をひたすら真っ直ぐに相手の急所へと叩き込むという手法です。当たれば致命的になりえますが、そこだけを狙うのであれば非常に捌きやすい。それが正解であると身体に沁みつく位、沢山の人を……屠ってきたのでしょう」
強い語調で、リオンは尚も続ける。
「それは戦いとは呼ばない。ただの虐殺。機械同然の暴力など、
「それは……私が、弱いと言いたいんですか」
「そうだと言われたら、貴方はどうしますの?」
次の瞬間、ペットボトルが宙を舞った。名も無き彼女は殺意を纏いながら、リオンに向けて拳を振り抜いていた。至近距離にいながらも、リオンはそれを容易く捌く。
「また顎を狙う」
リオンは彼女を突き飛ばし、無理矢理に距離を取った。
「……格闘技というのは、相手を殺すためのものではありません。自分を磨くため、昨日の己よりも強くなる為に、研鑽を積むものです。貴方は弱い。だったら、少しでも強くなる為に、私に一回でも打撃を通す為に、どうすべきか考えるべきではないですか」
構え直すリオンの言葉は、遂に彼女の中の何かを壊すに至った。
それからの彼女の行動は、とてもシンプルなものだった。打撃の連打。それも、先程よりも遥かに鋭く、息つく暇もないような連撃。怒り狂うように放たれるそれらは、急所ではなく、リオンという大きな的を狙っている。そんな出力に任せた暴力でさえ、先程に比べると確実に捌きにくくなっている。リオンは、それがだんだん楽しくなってきていた。
「そう! そうですわ! もっと相手の行動を意識しながら! 対話をイメージして!」
気分が高ぶり過ぎ、名も無き彼女には理解できないような内容を口走っていたリオンだが、それを気にする人間など一人もいなかった。彼女は無我夢中で攻撃し、リオンは捌き、受け、避け続ける。
そうして、終わりは呆気無く訪れた。捌き損ねた拳が一発、リオンの鳩尾めがけて突き抜けたのだ。しかしながら、彼女の突きはリオンに衝突する寸前で止まる。
「……?」
それは誰も予想していなかった事であり、一番驚いているのが止めた彼女だったくらいだ。
「……どうして、止めたのですか」
「わかりません……」
彼女は、何かを恐れるように拳を引く。
彼女の声も、震える拳も、何も理解出来ていない本人の代わりに、何かを伝えようとしているようだった。
リオンはその悲痛な動きを見逃さなかったし、そこから一つの答えを導き出そうとしていた。
「……今日は、このくらいにしておきましょうか」
中身を失ったペットボトルを拾い、リオンは震えている彼女のグローブを丁寧に外す。
「
リオンは別れの挨拶を済ませると、彼女に背を向けて歩き始めた。今までの認識を改める必要があると、リオンは自身を省みていた。背後から壁を殴る音と叫び声が聞こえたのも、きっと気のせいではなかった。
「……マジ? リオン、あんたほんとマジでそんなことやったの?」
宝満大学病院、夜九時過ぎの事である。リオンからの着信を受け、霧山美里は一階のロビーまで来ていた。
「正気? あんたってそんな熱いとこあった?」
『
「発想がブチ切れてんだろ……あと、せめて分析を本命にしなよ。じゃないと薄情過ぎるだろ」
犯罪者に対しての情を求めるのも大概だと思い返す美里だったが、リオンの返事は意外だった。
『……それは、反省していますわ。
本来強気なリオンが負い目を感じている所に、流石の美里も強くは出られない。
「思い違い、ねぇ……リオンセンセーの見解、聞かせてくれる?」
だから美里は、話の続きを促した。長くなりそうだったので、ソファーにどかりと腰を降ろす。
『……感情がない。葛森さんがそんな風に言ったと、鬼ヶ島さんは言っておりましたわよね』
「言ってたね。今までのくずもりんは演技だったとか。最初から変な奴だとは思ってたけど、こんな話だとはね」
『感情の面において異常があるとは感じましたが、感情がない訳ではないと……
「つーと、どういうとこに?」
美里がポケットを漁ると、小さながま口が出てきた。小銭がいくら入っているか数えながら、リオンの話を促す。
『例えば、彼女が鬼ヶ島さんを襲った日。彼女は激昂する鬼ヶ島さんに呼応するように、一度だけ怒鳴りました。それに加えての情報なんですが、今日のあの子の戦い方は、先日に比べて非常に直情的でした。殆ど思考を挟まず、相手を力尽くで破壊するのが目的のような……終わり際にも、
「じゃあ、くずもりんが嘘ついてたってこと? 何の為に?」
『嘘のつもりはなく、嘘をついてしまうこともあるでしょう? 例えば、かつて間違った情報を植え付けられてしまった、とか。自分の事など、なかなか分からないものですからね』
立ち上がり、近くにあった自動販売機に小銭を入れる美里。少し考えてから、レモネードのボタンを押下した。
「何かの勘違い、洗脳……あとは、本当に感情が無かったけど、今それが生まれつつあるとか? 急展開過ぎて、全然ついていけないんだよなぁ。クラスメイトが犯罪組織のメンバーだったとか、ギャグで済まないじゃん」
『あら、貴方にしては弱気ですわね。美里、拾い食いでもしましたの?』
「ウチだって、弱気になることくらいあるっての……」
開栓して缶に口をつけると、思ったよりも甘い味が口の中に流れ込んできた。
「……どうしたらいいか、分かんない。ウチ……くずもりんのこと、全然分かんないや」
困惑、疲弊、
悪友は、小声でほんの少し笑った。
『葛森さんは、一度だけ私の防御を掻い潜りました。それなのに何故か、その攻撃を寸前で止めてしまいましたの。それも、困惑した様子で』
「まあ、そういうこともあるよね。別に珍しいことでもないし……」
上の空で答えた自分の言葉に、美里は目を見開いた。
「……ちょっと待った。あんた今なんつった?」
『おかしいでしょう? 存分に私を殴るお膳立ては出来ていたのに、拳を止めた。彼女は
「だったらなんで……感情があるとかないとか、そういう問題じゃないし……」
美里は考える。葛森ゆうりのことを考え、彼女との記憶を思い出す。
そして、答えを見つけた。僅かばかりの希望的観測。それは、美里を笑顔に変えた。
「……ばっか。リオン、気づいてたんならさっさと言えっての」
『貴方はそうやって、軽口を叩いてヘラヘラ笑っているのがお似合いなんですのよ。神妙な顔なんて、気持ち悪くて見ていられませんわ』
「うっせぇよ……でもありがと。やっと、ウチも目が覚めた」
霧は晴れた。やはり友達は良いものだと、改めて思い直す。これから何度思い直すのだろうと、レモネードを一気に流し込んだ。
「あー、忘れてた忘れてた……あいつが何しようと、ダチだもんな。そりゃ、ウチがすべきことなんて決まってんじゃん」
『どうせロクな事ではないでしょうけれど、精々嚙みつかれませんよう』
腐れ縁の二人は、憎まれ口を叩きながらも分かり合う。友達であるという単純な理由から、互いを信頼する。二人が信頼し合う根拠は、そんな不確かなもので十分だった。そして、美里は同じ理由で、名前を失った少女に手を伸ばそうとしている。
二人は軽く挨拶をすると、そのまま通話を切る。美里は缶の中の数滴を口の中に落とす。そうして、思い出したかのように溜息をつく。
「……あいつ、また無理してんだろうな」
いつも通りではない悪友に、美里は何かを感じていた。
夜の学生寮に、忍び込む影が一つ。烏丸羽月は、かつての自分の寝床に向かって、空から静かに舞い降りた。
赤い饗獣の襲撃から、羽月は寮で過ごしてはいなかった。疑惑深まる博愛協会。その御膝下ともいえる白明学園の学生寮で、長時間過ごすのは危険であると判断しての事だった。
周囲の気配を警戒する為に、ヘッドホンを外し、音楽を止める。Seraphというお気に入りのアーティストの歌声が止むと、静かな夜が現れる。昔から夏の夜は好きだったが、状況が状況なだけに気楽ではない。
「こういうの、慣れたくなかったんだけどな……」
自室の窓の前まで辿り着くと、羽月は窓枠をガタガタと縦に揺らす。しばらく続けると、古びたクレセント錠が開いてしまった。刹華を見て学んだ技術ではあったが、自分達のプライバシーがこんな半端な錠前に守られていたと考えると、落ち着いたら何らかの対策を講じようと思う羽月であった。
それはさておき、靴を脱いで寮の中へと忍び込む。電気もつけずに空き巣と勘違いされそうな立ち回りで、必要なものを回収する。自分の着替え、ノートパソコン、空の紙袋、例の事件で後回しになってしまった刹華の勉強にまつわる物。そして、とある代物を机の引き出しから取り出すと、羽月は露骨に嫌そうな顔をしながら溜息をついた。
「……こんなことなら、作らなきゃ良かった」
シンプルなカラビナがついた、寮のマスターキー。かつて、夜間の活動の際に便利だと思い、密かに作ったものであった。これがあれば、誰の許可もなく葛森ゆうりの部屋に入ることが出来てしまうのである。当然、葛森ゆうり相手に進んでそんなことをしたいとは思ってはいないが、刹華との約束があるため、やむを得ずである。羽月の心中は鬱屈としていた。
廊下に出ると、明かりのない通路が伸びている。消灯時間はとっくに過ぎているので、明かりをつける訳にはいかない。暗い中を、スマートフォンの明かりを頼りに進む羽月。時折、通り過ぎる部屋の中から声が聞こえてくるが、夏休み期間なので仕方のないことだろう。男子禁制の寮なのに、一部男性の声が聞こえてきていたのは、聞かなかったことにした。
そして、目的地に到着する。何の変哲もないドアに『葛森』というネームプレートが掲げられている。羽月個人の感情で言えば、もう見たくもない名前であるが、その感情を抑えながらマスターキーでドアを開ける。後付けで他の鍵がついているのではないかとも思っていたが、ドアはいとも簡単に開いてしまった。
ドアを閉めてから明かりをつけると、部屋の全貌が確認できた。
「……虚空じゃん」
羽月は、部屋の中の生活感の無さに驚いた。自分達の部屋くらいの間取りに、ベッドと机。そして、隅に置かれたプラスチック製の衣装ケースに無骨なハードケースがいくつか。十数年生きてきた人間が生活するには、少し物が少な過ぎるような印象を受ける。しかも、それら全てに決まった配置が存在しているような几帳面さで、乱れることなく並んでいる。ベッドにすら使用感が見当たらず、幼い頃に両親に連れられて見たモデルルームや、デパートの家具売り場のディスプレイに似たものを感じていた。
何はともあれ、着替えを確保しないといけないのである。自分の感情はさておき、衣装ケースを物色することにする。三段あるそれの一番下を開けると、予想通り衣類が出てきた。
「ん?」
衣類はファスナー付きのビニール袋に入れられ、几帳面に整理されている。しかし、妙なことに気が付く。一番上のビニールのラベルには『三田ヶ谷第三中学校夏女子』と書かれており、中には確かに三田ヶ谷第三中学校の女子の制服が入っている。一瞬ゆうりの母校かと思ったが、他の学校の制服も確認できた。中には男子生徒の制服もある。
「……衣装持ちだこと」
不可思議の理由にある程度の予想はつきつつも、真ん中の引き出しを開けると、そこには私服が入っていた。無地のシャツやジーンズ等のシンプルなものが多いが、一部はやはりビニール袋で閉じられており、フォーマルBやカジュアルAなどとラベルが貼られている。それらは可愛いというよりも、綺麗だったりカッコいいだったり、普段のゆうりのイメージからかけ離れた衣類が入っていた。
一番上を開けると、下着類や部屋着らしきものがまとめて収められていた。こちらも、一部彼女のイメージからかけ離れたものが存在している。羽月は、部屋着らしきものや派手でない下着をいくらか、紙袋へと詰めた。
用事を終え、衣装ケースを閉じる。この辺りで、羽月の中には新しい思考が芽生えていた。それは、「着替えを用意する過程で、部屋の中を見てしまうことは十分あり得ることだろう」というものだ。俗に、猫をも殺す「好奇心」と呼ばれるものである。
「……私は、悪くない。そう、悪くない」
自分にそう言い聞かせながら、羽月はクローゼットを開けた。様々な帽子、アウターやワンピース、フォーマルスーツ、果てはドレスなども吊るされており、その下には道具箱のようなものが置かれている。そっと開いてみると、どうやら化粧道具入れのようだった。しかし、ウィッグや見慣れない小瓶や道具なども入っており、女子高校生が美を求めて行う為の化粧道具ではないと確認した。これらは、他者の誤認を誘発させる道具。いわゆる変装道具である。
クローゼットの中に隠し扉みたいなものがないかと考え確認してみたが、少なくとも羽月が軽く探した程度では見つからなかった。流石の羽月も、ゆうりの部屋を露骨に荒らす程図太くはない。なにか残っているかもと思いながらも、取り敢えずクローゼットを閉めた。
次に、ハードケース。二つある内の手前にある方を開く。
「おっ……」
銃弾が描かれた箱が見えたので、見なかったことにして直ぐ蓋を閉めた。この中はマジでヤバいという判断を下すまで、一秒かからなかった。
最後に、机。ここに関しては多少安心して良さそうだと、羽月は判断していた。何はともあれ、持っていた方がいいだろうという気持ちで、机の上に置かれた携帯電話を紙袋に入れる。
見た感じでは、精々かなり片付いた印象を受けるだけの学習机である。ブックエンドに立てられた本は教科書とノート。教科書ノートの順で教科ごとに並んでいるが、ブックエンドの端に一部違う本とノートが立てられていた。タイトルは『感情の仕組み』『社会はこうして回っている』『気難しい人の転がし方』『一人暮らしの簡単ごはん』『知らないと恥ずかしい一般常識』『自習ノート』など。羽月は『感情の仕組み』を手に取り、適当なページを開いてみる。すると、蛍光ペンでのアンダーラインやシャープペンシルでの書き込みが至る所に見られた。そういえば、ゆうりは学校の勉強も真面目にやっていたなと、少し感心しながら元の位置に戻した。
ここまできたら最後まで、と、羽月は机の引き出しを開けていく。下から順に開けていくが、全く物が入っていない。自分の机にも大したものは入っていないが、ここまで入っていないのも珍しいと羽月は感じた。弟や刹華の机を覗いたこともあるが、過去の教材だの学習と無関係なものだの、何かしら入っていた。
そして、一番上の引き出しに手がかかる。そこには、包装された薬剤が数種類と、数冊の本が並んでいた。薬剤に関しては、自分に得られる情報は殆ど無いと割り切った。
「……日記、か」
それぞれの本の表紙に、使っていた期間が記されている。羽月はその中から、日付が最も古いものを選び、ゆっくりと開いた。
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