第5話 ドラゴン、農作業する

 ドラゴン。言わずと知れた世界最強の魔物であり、魔物の王とも称される伝説に名高い大怪異である。


 堅牢な鱗に包まれた体には並大抵の武器では傷一つ付けられず、その身に宿す余りある魔力は強力無比な大魔術の発動すらも可能にする。


 通常の攻撃魔法から治療魔術、果ては天候操作に至るまで、その魔力行使の規模はすさまじいものだと言う。


 人々はその強さと凶悪さ、余りある強さを恐れ敬い、そして同時に忌み嫌い、恐れながら暮らしていた。


 ドラゴンと比してあまりにも脆弱な人間の身では、立ち向かうことすら不可能な彼らを人間が恐れるのも無理はない。


 その爪はすべてを引き裂き大地を割り、空をかける翼は人間の手の届かぬはるか上空へとその巨躯を飛び上がらせ、そしてその吐息はすべてを焦がし灰と化す恐るべき魔力秘めた黒炎となる…。


 今もまたそうであった。

 ドラゴンはその大いなる爪を振るい大地に爪痕を残し、はるか上空に飛び立ち人間たちの頭上を悠然と飛びまわり、目の前にあるものを黒炎でもって燃やし尽くしている。


 行っていることはただの農作業だったが。


「ドラゴンさーん!次はこちらの畑をお願いしまーす!」


 楽し気な女の声が鳴り響いたかと思うと、その地にずしんと降り立つ黒い影が。

 深い緑色の壮麗な巨体、ぎょろりとうごめく金色の瞳。背にあるのは皮膜を備えた風を受けて飛ぶドラゴンの翼。


 どこからどう見ても伝説に名高い魔物の王、ドラゴンの姿そのものである。


 ドラゴンが目の前に立っていてもその女の態度は変わらなかった。ニコニコと笑いながら自分の目の前にある土を指さす。


 ドラゴンがぎろりと目線だけ動かしてその土を見下ろし、そして徐に前腕を振り上げた。

 ぎらりと日の光を浴びて輝く鋭い爪は、寸分たがわず目の前に振り下ろされる。そう。女の柔い腹を貫くために。


 …ということはなく、爪は大地に突き刺さった。ぶすっと。


「…」


「そうそう!お上手ですよドラゴンさん!下からひっくり返して土に空気を入れるイメージです!ドラゴンさんは本当に呑み込みが早いんですね~!」


「ふ、ふん。これぐらい当然だ」


 ざくざくざくざく。ドラゴンが無造作に、しかしその実丁寧な仕草で爪を振るい、目の前の畑を耕していく。


 流石にドラゴンの爪がでかいだけあって、人間ならば随分時間がかかるだろう農作業も難なくこなしてしまった。


 あっという間に畑一面分の作業が終わってしまう。


 ふうと息を吐くドラゴンに対し、ドラゴンの真下で指示を出していた女がぱちぱちと大げさな仕草で手を叩いた。


「さっすがドラゴンさん!速い!迅速!仕事が丁寧~!もう一面終わっちゃったなんて天才じゃないですか~!」


「ふ、ふふん!それほどでもあるが!?どうだ、ドラゴンとはすごいものだろう!見直したか!?」


「やだなあ、私は最初からドラゴンさんのことパーフェクトリスペクトですよ~!」


「ぜってぇ嘘だ」


 わあわあと言い合いながら、ドラゴンと女は手馴れた手つきで次々と畑を耕していく。

 辺り一帯の畑はあらかた耕され終わったらしく、黒々とした栄養満タンの土が新しい空気に触れて生き生きと顔を出していた。


 額の汗を手でぬぐって、女は晴れやかに告げる。


「次は違う畑へ水を撒きに行きましょう~!水桶持ってきますね~!」


 びしりと額に伸ばした手を当てる敬礼のポーズを取ると、女は駆けだした。

 これから水桶を手にしてドラゴンが空に飛び上がり、上空から水を散布するのだ。


 わざわざ桶に水を汲まなくてもドラゴンが一つ呪文を唱えれば軽い雨ぐらいの量の水を魔法で降らすのはわけないことだったが…あまり不用意に自分の手の内を晒したくなかった。


「…」


 ドラゴンはちらりと背後を見る。

 口元に手を当ててひそひそとささやく人間たちの姿が目に入った。


 ここはシュゴドラ村。その村人たち、である。


 ドラゴンのことを気にしているくせに直接視線を向けるのが憚られるのか、こうしてこそこそと見えないところで噂話を繰り広げている。


 向こうは聞こえていないと思っているのだろう。

 しかしドラゴンが本気になれば何を喋っているのか容易に聞き取れる。

 ドラゴンの視力や聴力は、人間の想像の及ぶところではない。


 だが、あえてドラゴンは聞かないことにしていた。

 風魔法を応用して耳の近くに小さな竜巻を作り、その音で彼らの囁きを聞こえないようにシャットアウトしていた。


 人間たちが自分を見て密かに語ることなど、聞くまでもなく想像がつく。

 おおかたドラゴンの巨躯と威容に恐れをなして口さがない噂話を立てているのだろう。


 見ろあの爪、なんと恐ろしい、あの目だって何を考えているのかわかったものじゃない、いつ俺たちに襲いかかってくるか…。


 ありもしない恐怖を夢想して被害者気分で噂を並べ立てる。

 人間はいつもそうだ。そうに決まっている。ドラゴンはそう決めつけて、村の人間たちに向けていた視線を正面に戻した。



 爪で大地を耕し、空から水を散布し、黒炎で藁を焼いて肥料を作り。ドラゴンはせっせと働いた。


「ドラゴンさん畝作りまでお上手なんてどれだけ多才なんですか!?その大きな爪でそんなに繊細な畝を作られるとは~!さては神が500物ぐらいお与えになりましたね!」


「ふ、ふふふん!これぐらい当然だ!べつにたいしたことじゃないからあと畑五枚分ぐらいは余裕」


「それじゃあと残り三十枚頑張りましょう!!!」


「お前実はジョーシの後継者なんじゃない?」


 人間から畑仕事の合間の世間話がてらジョーシの悪行を散々聞かされていたドラゴンは思わず突っ込んだ。


 例の人間はどうも都合の悪い話を聞かない全自動ノイズキャンセリング耳でも備えているのか、はたまた単に馬鹿で話が脳みそを素通りしているのか、ドラゴンの言葉も意に介さず次なる畑へドラゴンを誘おうとしている。


 おかしいな。こいつは魔法使えないはずなんだが。どうして僕より高性能な耳栓つけてるんだろう。


 ドラゴンはそう思ったが、だんだん突っ込むのが疲れてきて流れに身を任せた。


 畝作りは嫌いな作業ではなかったし、この程度でタダ飯食らいの怠け者という汚名が雪げるなら安いものだと思った。だから熱心に働いた。


「にしてもドラゴンさん、本当に初めてだとは思えない手際ですねぇ。私は畑仕事なんか初めての経験過ぎて少しも上手くできないんです」


「ふん。お前が図抜けて不器用なだけだろ。初めてだってこれぐらい出来て当然だ!何せ僕はドラゴンだからな!」


「なるほどぉ!つまりかつての世界でもドラゴンは人間と農作業しながら暮らしていたわけですね!」


「絶対違う」


「え?こんなに農業向きな能力ばかり持ってるのに!?もはや農業のために生まれたと言っても過言ではないじゃないですか!」


「いや過言だろ」


 ドラゴンは呆れて言い返した。しかしこの人間のノイズキャンセリングは相変わらず絶好調だったので、ドラゴンはまたも諦めた。


 溜息を吐いて、ドラゴンは目の前の畑にまた視線を戻した。ざくざくと土を掘り起こしては小山のような形に成形し、それを細長く連ねていく。


 あまり力を込めすぎると固くなるし、柔く盛りすぎると容易に崩れてしまう。


 なかなか繊細な力加減がいる大変な作業だったが、ドラゴンは得意だった。細部の調整はこの人間がやってくれるし。何かムカつくけど。


 少しずつ畝を作り上げながら、ドラゴンは口を開いた。


「大体にして世界最強の魔物っていわれてる奴がそんな風に人間と一緒に暮らせるわけないだろ。怖がられてんだぞ。むしろ石投げられるわ」


「あっそう言えばドラゴンさんそういう設定でしたね!」


「お前お前本当に許さないぶっ殺してやる絶対にぶっ殺してやるからな」


「でも不思議なんですよ。そんなに強いドラゴンさんがどうしてあそこに閉じ込められていたんですか?」


「それは…別に閉じ込められていたわけじゃない。自主的に引きこもってただけだ。たぶん…」


「そう言えば言ってましたね。自分で気に入ってここに住んでるって」


「そうだよ。僕は人間が嫌いなんだ。だからこの作業だって食べた食料分働いたらすぐに帰…」


「ドラゴンさん見てくださいでっけぇムカデです!私こんなサイズ見たの初めて!顎が赤黒すぎて最早グロいですね〜!」


「キャー!!!キッッッッッッッッモ!!!!」


 ドラゴンが可憐な悲鳴を上げて黒炎を吐いた。ムカデは一瞬で炭焼きになった。

 例の人間が残念そうな声を上げた。


「お前なんでそんなに平然としてんの!?めちゃくちゃキモいじゃん!!!ていうか毒あるんだから危ないだろ!!!」


「え?かっこよくないですか?上司の首にかけるネックレスにぴったりみたいな、そのまま首に噛みつかれてこの世界にサヨナラバイバイ俺はこいつと死出の旅に出るってして欲しいな~みたいな」


「お前ちょくちょく闇のぞかせてくるよな」


 ドラゴンはムカデよりこの人間の方がよほど怖くなった。



 畑を耕し水を撒き、畝を作ってついでに落ち葉を焼いて肥料を作り。それ以外にもこまごまとした農作業に従事して。気が付けば日がとっぷりと暮れていた。


「これで本日頼まれた仕事はおしまいですねー!お疲れさまでしたドラゴンさん!」


 例の人間は明るくそう告げた。ドラゴンは素っ気なくふん、と鼻を鳴らした。


 ちらりと背後を盗み見る。やはり村の人間はこちらを遠巻きにしている。


 利用するだけ利用して、勝手に恐怖を予測して悪し様に語る。やはり人間は愚かだ。どうしようもない。


 まあ、こちらとしても近寄りたくもない。

 警戒して話しかけないでいてくれるなら好都合。

 今のうちにさっさと消えてしまおう。


 最低限の義理は果たした。これでもう貸し借りなんて何一つなく、気持ちよくここから離れられるはず…。


「いやぁー助かった助かったァー!お前さんすんごいなァ!」


「ぶっ!」


「あっ、アレクさん!」


 突如、脇から体をぶっ叩かれて、ドラゴンは思わず噴き出した。例の人間が晴れやかな声をあげる。


 ドラゴンは目を剥いてそちらに顔を向けた。そこには、何やらたくましい浅黒い肌の男がいた。年齢相応に皺の刻まれた四角張った顔、抜けるような空色の瞳。


 ドラゴンの金色の瞳と目が合ったのを確認すると、にっと白い歯を見せて笑いかけてくる。


「アレキサンダー・ドラモントだ。アレクでいいぜ。一応この村の村長をやらせてもらってる。よろしくな!」


「ドラゴンさん、ほら、こないだ洞窟にも来てくださった方ですよ!」


 ドラゴンの脳裏にぼんやりと記憶が蘇る。

 そう言えば昨日、村の人間の先頭にいたのがこいつな気がする。

 村の中心人物なのだろうと思っていたが、なるほど、村長。道理で。


 …それにしても。


「随分と気安く触れてくれるものだな。この世界最強たる我の身体に」


 ずずず、とドラゴンの魔力がうごめく。冷え冷えとした殺気をはらんだ声。


 金色の瞳に暗い光を宿して、ドラゴンはアレクに顔を近づけた。


「不敬にもありあまるその行い、今ここで貴様を食ろうてやってもよいのだが。どうした?恐怖で声もでないか?ふん。そのように矮小な身でよくもまあ我の玉体に触れてくれたもの」


「あれ?ドラゴンさんそのキャラ設定まだ生きてたんですか?なんだか久しぶりですねー!」


 雰囲気は一瞬で瀕死になった。三秒持たなかった。ご臨終である。


「お、おい!黙ってろよオマエ!今そういう雰囲気じゃなかっただろ!」


「ドラゴンさーん、確かにそのしゃべり方かっこいいですけど回りくどくてわかりにくいですよ~。急に叩かれてびっくりしちゃったって言った方が伝わりやすいかと!ビジネスは伝達力が命ですからね!」


「勝手に翻訳するなァ!ていうかびっくりなんかしてないし!こいつの行いがあまりにも不敬だったから腹が立って…!」


「おうおう、びっくりさせちまったか!すまねえなあドラ坊!お前さん繊細なんだな、気を付けるわ!」


「ど、ドラ坊!?!?」


 なんだその気安い呼び方は。気安いと言うか子ども扱い。あまりにも不敬だ。馬鹿にされている。舐められている!

 あからさまに怒り狂っているドラゴンを前にして、しかしアレクとやらは鷹揚に笑った。


「今日は本当に助かっちまったからなあ!こいつは俺たちからのお礼だ!おーい、持ってきてくれ!」


 ぐるりと後ろを振り向いて、アレクが何事か声をかける。一体何が、とドラゴンが思っている間にそれは訪れた。


「は?」


 どかどかどかどか。ドラゴンの前に積み上げられる食料の数々。昨日も見た肉や魚の類、かぼちゃやジャガイモと言った野菜、ナッツやフルーツのはちみつ漬けなどの甘味…。


 加工されていないものもされているものも、とにかくたくさんの美味しそうな食料がドラゴンの前に差し出された。


「いやぁードラゴンさんのお陰で助かっちゃったわ~。この年になると畑やるとどうにも腰がねえ…」


「それが俺たちの倍以上のスピードでサクサクざっくざく!水やりも畝づくりもあっという間!肥料の草木灰もこんなにたくさん作ってくれて、こんなに助かることないぜ」


「よかったらまた明日も来てくれよ。この村は食料拠点だから、食べ物だけはたんまりあるからよ!」


「てうかドラゴンって酒飲めるのか?今日の夜ちょっとした歓迎会でもやろうかって話になっててさ」


 食料を運んできた村人たちが一斉にドラゴンに詰め寄ってきた。まるで話しかけるチャンスをうかがっていたような勢いだ。


 あまりの圧にドラゴンは一歩退いた。なんだこれは。こいつら、僕のことを怖がっていたんじゃないのか?


「な、なんだいきなり!あんだけ遠巻きにしていたくせに突然へらへら偉そうに!食料を差し出して媚売って取り入ろうって、いかにも人間の考えそうなこと…」


「ん?食料はいらなかったか?そうか、じゃあ、今かみさんが焼いてるアップルパイも無駄になっちまうな…」


「何言ってんだふざけんなアップルパイは食う」


「わあドラゴンさん急に早口!」


「ううううううるっさい!お前はほんと黙ってろー!」


 じゃあ私はアップルパイを受け取りに行ってきますね~なんて呑気な声をあげて、例の人間はその場から離れた。


 あとに残されたドラゴンと対峙しても、やはり村人たちに怖がる様子はなかった。


「おとぎ話の中だけの存在だと思ってたドラゴンが実在するばかりか、こんなにいいやつだなんて思わなかったよ!」


「本当に助かったわ~ありがとうね!」


「もし食料が要らないなら藁とか布とかやろうか?あの洞窟寒そうだしなあ。これから冬になってくし、備えはいくらあってもいいだろ」


「お、お前ら僕が怖くないのか…?」


 ドラゴンは茫然と声をあげた。目の前の村人たちはきょとんと眼を瞬く。

 お互いに顔を見合わせたあと、誰からともなく破顔した。


「いやあ?まあ体が大きいのが怖いと言えば怖いが、でもなんていうか、こう」


「おとぎ話のなかのドラゴンがちまちま農作業してる絵面が正直ちょっと笑えたと言うか」


「は?」


「あっ馬鹿!ごめんな~こいつ正直な質で」


「悪気はないんだ。正直者なんだよ。思ったことをそのまま言っちゃうだけでな~」


「おいちょっと待てていうことは今の感想は本音」


「それにお前さんがあの嬢ちゃんの尻に敷かれて大変そうにしてるの見たら親近感しか沸いてこなくてなあ!!」


「ああああん!?!?!?!誰が誰の尻に敷かれてるって!?!?!?!?」


 ドラゴンは一瞬で爆発した。烈火もかくやという勢いで怒り狂っているドラゴンを前にして、何故か周囲は笑顔のまま。

 普通なら明らかに怖がって一瞬で逃げ出すはずの光景なのに、どうしてか村人たちは生暖かい目でこちらを見ている。


 どころか、である。村人の中の一団、具体的に言うと中年男性の連中が、にじり寄ってくるではないか。


「照れんなって!わかるよ〜俺たちも嫁さんにはいっつもしてやられてばっかりだからよ〜」


「あの嬢ちゃんすげぇよなあ。いい子なんだが、ほんっとうにいい子なんだが。圧がやべぇ。押しが尋常じゃない。ぐいぐい来るすっごい来る。ほんとに来る。めり込む」


「まあでもお前も楽しそうだし、つまりは割れ鍋に綴じ蓋ってやつか!それとも蓼食う虫も好き好きの方か?」


「おうお前はちょっとお口に鍵魔法な」


「ハーキンスのせがれの魔導士受験よりよく滑る口だよ」


「おいちょっと待てふざけんななんだこれは勝手におぞましい誤解をして親しみを感じるんじゃない!僕とあいつはそんな仲じゃねえよ!目ん玉どころか脳みそまで腐ってるのか!?!?」


「ん?そうなのか?でも傍目からだと似たようなモンにしか見えないけどな」


「許さない許さない絶対に許さないからなお前らーっ!!!」


 しかし、どれだけドラゴンが怒り狂って否定しても、村人たちは全然本気にしなかった。照れちゃってまあ、みたいな態度である。


 本気で違う。やめてほしい。あれと勘違いされるならトカゲが恋愛対象と言われたほうがまだマシだ。しかし伝わらない。村人たちには効果がない。


 つまり、あれだ。ドラゴンは例の人間よりも脅威の度合いが低いとみなされたのである。


 脅威というより印象か。あの人間があまりにもアレだったせいで、ドラゴンの印象は全部そっちに負けた。


 おまけにドラゴンは例の人間とアホなやり取りばかりしていた。流石に自分でも自覚があった。


 村人たちはそんな自分と例の人間を見ていたから、余計に印象がそっちで固定されてしまったのだろう。

 村でひそひそ話をしていたのも絶対恐怖じゃなくて単なるうわさ話だ。ゴシップ的なほうの。


 結果として自分は、あの人間があまりにもあまりにもだったせいで威厳もへったくれもなくなってしまったというわけで…。


「あっドラゴンさーん!!ドロテアさんのアップルパイ貰ってきましたよ~!洞窟帰りましょう~」


「やっぱお前嫌いだー!!!!!」


 ドラゴンはついに泣き叫んだ。村人たちがまた訳知り顔で頷いてくるの、ほんとにほんとに嫌過ぎた。



おまけ 村人たちの噂話


「本当にドラゴンが農作業してる…」

「耕すのすげー上手くて正直笑いそうになった」

「おとぎ話の中だけの存在だと思ってた恐ろしいドラゴンがちまちま農作業してるうえに丁寧な仕事ぶりなのがこう…シュールだな…」

「笑っちゃダメだぞ。悟られちゃ駄目だぞ。手伝ってもらっといてなんて失礼だろ」

「わかるんだけど吹き出すのを堪えるのが本当に辛い」

「だよねー」


「ていうかドラゴン、なんか†悲劇の貴公子†みたいな雰囲気背負ってない?」

「まああの嬢ちゃんと一緒だとそうもなるんじゃねえか?」

「嬢ちゃんすごいよな。ドラゴン以上にインパクトがある」

「良い子なんだけどな。よく働くし気がつくし明るいし人が良いし頭も良いし文句なしで良い子なんだけどな。圧がすごい」

「勢いもすごい。あの子と会話してるドラゴン見てるとあいつのまともさがよくわかる」

「ドラゴン、苦労してるんだな…。わかるぜ。俺のかみさんはあの子と意気投合してるんだ。お陰で余計手に負えなくなった」

「おーいアイリス、エルトンの奴がお前のこと猪突猛進爆走100馬力次世代型魔導力機関搭載暴走鬼嫁だってよ」

「おいこらそこまで言ってないだろ!!!」

「聞き捨てならないねェあんたァ…」

「ああああ-!覚えとけよジェフーッ!!!」

「とりあえずドラゴンには今度甘い物でも差し入れてやろうぜ」

「んだなー」

「せめて聞いて!!!」

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