エピローグ-2
正門に向かう桜並木が、満開の花弁をつけている。
俺は卒業式のあと、K総合病院に来た。骨髄移植手術の後も治療を続ける景が入院している。幸い、病状は快方に向かっていた。卒業式に参加することのできなかった景の顔が、瞼の裏に浮かんでいた。
病院の敷地に植樹された桜は、患者や見舞い客の目を楽しませていた。
少女… 景が俺の隣に立つ。
「死んじゃったね」
1年前に出会ったときと比べて、フランクになった口調で景が言う。
「あなたの責任じゃない。死んだのはあなたの責任じゃない。それより大事なのは、生きているあいだに何をしたかだよ。私の勝手な想像だけど… 短いあいだだったけど、あなたがいてよかったと思う」
俺はその場に屈みこんだ。
ビニール袋から黒の出目金の死骸を取りだす。去年、夏祭りで海野先輩が獲得し、《ブラック》と名づけたものだ。
景の予告した通り、本当に1年以内に死んでしまった。
俺は桜の根元に死骸を埋めた。合掌する。景も短いあいだ黙祷した。
俺たちは桜並木を歩いた。中庭の散歩は景にとって貴重な外出の機会だ。
「海野先輩、今日、卒業したぞ」
景に報告する。
「無事に手術が成功してよかったね。でも、入院していたのに現役で大学入試に合格するなんて、本当にすごいひとだったね」
俺は黙って頷いた。
海野先輩には感謝してもしきれない。
「景。お前はこれからどうするんだ?」
隣を見ると、景は前を見ながら楽しげにしていた。
「さあ。どうしようかな。とりあえず、進学するにしろ、就職するにしろ、高卒認定試験は受けたいと思う」
「そうか」
「秀平はどうするの? 今年、受験で浪人したら私と並んじゃうかも」
「俺は…」
言葉を途切れさせ、俺は空を見上げた。
俺たちには無限の可能性が開かれている。
空は晴れわたっている。大気は輝き、白い桜の花弁が舞っていた。
陽光の温かさを感じ、俺は体を震わせた。その圧倒的な生命の息吹に。
(了)
夏恋計画 海老名五十一 @ebina51
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