エピローグ

エピローグ-1

《拝啓 夏川秀平様


 日頃より妹がお世話になっていることに深く御礼申上げます。

 この度、筆を執りましたのは、私と妹との関係につき、あなたにお詫びしなければならないためです。妹に謝罪すべき事柄もあり、事情が込入っておりますので手紙をもって陳謝致します。直接、お伺いして謝罪しないことの非礼をお許しください。

 私と妹は、小学生の時分、両親の離婚により離別しました。それ以来、昨年、再会するまで音信不通でおりました。私は父に、妹は母に引きとられましたが、妹は名前が苗字と併せてからかわれることが多かったため、苗字が変わることを喜んでいたように記憶しております。

 その母が蒸発し、私と父は妹と再会しました。そして、私は妹が白血病に罹患していることを知りました。お恥ずかしいことに、それは私に同情心より敵愾心を齎しました。

 父は裕福ではなく、それでも私の大学進学のための教育資金を貯蓄しておりました。しかし、それが妹の治療費のために使われることとなったのです。私は大学進学を断念せざるを得ませんでした。今となっては恥入るばかりですが、私は妹に殺意さえ覚えました。

 家庭内の事情をくどくどしく書きましたのは、私が妹への骨髄移植を拒んだ経緯をご理解いただきたかったためです。正確には、骨髄移植に必要となる、ヒト白血球抗原の一致の検査です。無論、ヒト白血球抗原が一致しておれば、私は妹に骨髄移植せねばならなかったでしょう。そのため、一致する確率は低かったものの、その可能性を留保しておきたかったのです。

 しかし、この夏、あなたや海野さんと交流する妹を見て、私はそうした自分を恥ずかしく思うに至りました。とくにあなたたちのために妹が自分を犠牲にしたとき、強い慙愧の念にかられました。

 そして、私は妹の主治医にヒト白血球抗原の一致の検査を依頼しました。このことは妹には話しませんでした。一致は低い確率ですし、妹に一時の希望を見せ、さらに深い絶望に落とすことは避けたかったからです。

 結果はあなたもご存じの通りです。

 妹を死の危険に晒し、あなたにも迷惑をおかけしたことを、深くお詫びします。どうか御寛恕ください。

 勝手ながら、今後とも妹の支えになっていただければ幸いに存じます。


 敬具 八島光一》

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