第4話-5

 学校の屋上で景と会う。海野先輩に景の転校を伝えたことと、屋上の鍵を返されたことを話す。景は鉄柵を掴み、眼下の風景を眺めていた。無言だった。

 背後から景に言う。

「景。好きだ。付きあってくれ」

「え…」

 景はなかばふり返ったまま停止した。絶句している。

「もしかして、海野先輩にフられましたか」

「いや…!」

 俺は慌てた。

 こいつ、いきなり核心を突きやがった。

「すみません。正直、引きます」

「たしかに海野先輩には告白したが、それはケジメをつけるためというか、あらかじめフられることが分かっていてしたことなんだ。二股をかけたわけじゃない」

 俺は弁解した。

「まあ、女性は他にもいますよ」

 景は苦笑しつつ言った。

「最近はオナニー用のアダルトグッズも発達していますし」

「そのフォローは余計だ」

 俺はため息をついた。

「仕方ない。今度は海野先輩に告白するか」

「永久運動はやめてください」

 景は片手を顔に当てた。

「夏川先輩は本当にバカですね」

 足が萎えたように、床に座りこむ。

「どうして今更言うんですか。あと夏休みは1週間も残ってないんですよ。もー…」

 しゃがみこんだまま、両手で顔を覆う。文句を言う語尾は震えているように聞こえた。

「悪い…」

 景はしばらくその姿勢でじっとしていたが、パッと立ちあがった。俺を正面から見つめる。

「夏川先輩。海に行きましょう。海」

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