第2話-7
俺と景は担任と生徒指導担当の教師に説教されたあと、校長に処分を通告された。
さらにその後、生徒会室に呼びだされた。
生徒会室は、会議用に折畳み式の長机が並べられていた。可動式の黒板が端に寄せられている。壁際にはスチール製の戸棚があり、書類の束が収まっている。
部屋にいるのは生徒会長の八島の1人だけだった。
八島は俺たちを睨みすえた。
「それで、処罰は何なんだ?」
「2リットルの浣腸をしたあと、三角木馬に跨って鞭打ち10回だそうだ」
「なんでSMクラブ風なんだ! 2日間の謹慎処分だろうが!」
八島が椅子から立ちあがって怒鳴る。
「知っているなら聞かなければいいのに…」
思わずボヤくと、八島は殺気立った目で俺を見た。
俺は八島に言った。
「だいたい、食逃げをしたのは景なんだ。処分するのは景だけでいいだろ。俺の処分を撤回するように、生徒会から校長に意見してくれ」
「都合のいいことを言うな。経緯は聞いているぞ。しっかり反省しろ」
「だ、そうですよ」
景が言葉の尻馬に乗る。
「お前が言うな!」
八島はため息をついた。
「夏川、景。お前たちはどうしてそう悪ふざけばかりするんだ。とくに景。お前はどうして高校に入学したんだ。学校でバカ騒ぎするためか?」
八島の景に対する態度は遠慮がなかった。すでに景は問題児として目を付けられているらしい。景も八島の説教を聞きなれた様子で無視していた。
「俺はお前を心配してるんだよ」
「分かってますよ。お兄ちゃん」
「俺を《お兄ちゃん》と呼ぶな!」
八島は顔を赤くして怒鳴った。
「たしかに、下級生の女子に《お兄ちゃん》と呼ばせて悦に入っていると知られたら幻滅されるだろうからな。お兄ちゃん」
「《カインとアベル》の神話で、なんでカインが弟のアベルを殺したのか分かったよ」
八島は上目で俺を睨んだ。
「まったく。誰かに聞かれてないだろうな」
扉のところまで行き、廊下に誰もいないことを確認する。そこまで嫌か。
俺に向きなおり、真顔で言う。
「夏川。お前は来月には数学オリンピックに出場するんだぞ。頼むから、出場を辞退するようなことはしてくれるなよ。まったく、お前みたいなのが代表だなんて、我が校の恥だ。もっと志を大きく持ってくれ」
「分かった。日本の恥になれるように努力する」
「志を大きくするのはそこじゃない! 露出プレイで世界を目指すつもりか!」
八島は細く息を吐くと、パイプ椅子に座った。金属質な音が鳴った。
「真面目な話、処分は真剣に受けとめてくれよ。謹慎を休日に合わせてくれたから実感はないかもしれないが、処分は公式の記録に残るんだ。これでワンアウトだからな。あとツーアウトで試合終了だ。野球と違って、次の試合はないぞ」
座ったまま、八島は上目で俺たちを見た。
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