第2話-2
5月の気候に、空は澄みきっている。
俺は部室の窓から薄い青色の空を見ていた。
部室には景がいる。
「だから言ったでしょう。そのうち私に頼ることになると」
景はニヤニヤと笑っていた。
「それで、その夏恋計画とやらに海野先輩と親しくなる作戦はあるのか」
俺が尋ねても、景は自信のありそうな様子を崩さず、かえって不安を覚えた。
「ここは《最後の一葉》でいきましょう。木から葉の散るさまを見て、弱気になったところを夏川先輩が慰めるんです」
「そんなベタな。そもそも、今は5月だぞ。どこに枯れかかった木があるんだ」
景は得意げにした。
「それなんですが、なぜか、校庭の木の枝が切られていたんですよ。あれを振って、葉を落としましょう。私が枝を振りますから、その下で夏川先輩が待ちかまえていてください」
俺は唖然とした。
つまり、景が枝を両手でバサバサと振りまわす横で、俺に落ちてくる葉っぱを受けながら、海野先輩に愛を語れということか。
何を言うかと思えば…
天才じゃないか。
俺は景の両肩を掴んだ。
「なるほど。たしかにその状況なら、海野先輩も感傷的になり、俺に心を許してしまうかもしれないな。正直、半信半疑だったが、お前を頼ることに決めた俺の目に狂いはなかったようだ」
景は力強く頷いた。
「感謝するのはまだ早いです。お礼は作戦が成功してからにしてください」
海野先輩が下校の支度をするのを確認したあと、俺たちは校庭に向かった。たしかに、なぜか植木の大枝の1本が、切られて地面に置かれている。
景は自分の身長ほどある大枝を、両手で持ちあげた。角度をつけているため、先端は十分に高い。
海野先輩が来たことを確認して、俺はその樹下に入った。
「え。何…?」
海野先輩は俺たちを見て、なぜか不審そうにした。
景が枝を振り、俺の肩に葉が落ちてくる。
「海野先輩。寒くなってきましたね」
「そう? むしろ汗ばむようになってきたけど」
「これから冬が来ます。ですが、それで悲観的になってはいけません。冬のあとには春が来るんですから」
「うん… 冬は来るだろうね。けど、その前に夏が来るけどね」
その後も俺は寂寥感を誘う文句を述べていたが、海野先輩は何か言いたげにしていた。言葉をとめて尋ねる。
「どうかしましたか? 海野先輩」
海野先輩は困惑した様子で言った。
「さっき、植木に毒のある毛虫が大量発生したから、発生源になってる枝を切断したって、先生たちが話しているのを聞いたから。まさか、その枝じゃないよね、って思って…」
俺は絶句した。
景は呆然としたまま、枝を振りつづけていた。よく見ると、先ほどから枝を振るたびに黒い塊がポトポトと落ちていた。ハッとした景が枝をとり落とす。
「手を放すな!」
枝は俺に覆いかぶさっていた。思わず悲鳴をあげる。
「誰か! 救急車! 救急車ァーッ!」
景も絶叫する。
俺は全身にたかった毛虫を落とそうとして、地面を左右に転がった。景は枯枝を突きだして、俺に付着した毛虫を1匹ずつ弾いていった。
海野先輩は冷たい目で俺たちを見下ろしていた。
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