【9】
テレビでクリスマス特集が流れても、スーパーでクリスマス商品が推されまくってても、今年のクリスマスは心穏やかに過ごせた。
原稿抱えてないから年末進行がないせいもあるけども。自由業世知辛い。
近所の洋菓子屋で買ってきたケーキを撮る。
画像をイジるのもほどほどに森田さんに送る。
”自分用に買っちゃいました”
”待って自分用多くないですか? カットケーキ4個?”
”どれも美味しそうで選べなかったからね、仕方ないね!”
”うわあダメな大人の発想きたー。ずるい!”
”ここのケーキめちゃ美味しいんですよー。最寄りの洋菓子屋なのに有名な店みたいで”
”ずるいずるい、私も食べたいです!”
”なお木苺とピスタチオのバタークリームケーキはもうないです。宇治抹茶のケーキも残り半分で”
”早っ! 進行形で減ってる!?”
”あと二つ取っておきましょうか? 一緒に食べます?”
”そんなこと言ってるとほんとに行きますよ? フットワーク軽いことで有名な森田ですよ?”
”距離ー! そして仕事ー!”
”うう……”
クリスマス直前の忘年会? 飲み会? デート? 以来、森田さんとはメッセージをやり取りする仲になっている。
だいたいくだらない会話ばかりだ。
けど、楽しい。37歳のおっさんの語彙が消滅するほど。
”そういえば坂東さん、SNS見ました?”
”ちょいちょい開いてますけど、どれですか?”
”短編ハッカソンに参加した私の知り合いで、短歌を勧めたらハマっちゃったみたいで”
”あー、あのデザイナーさんの! 短歌、流れてきましたね”
”そうなんですよー。飲み仲間なんですけど、酔ってたわりに覚えてたみたいで”
”ん? じゃああの短歌は森田さんのことで?”
”どれのことかわかりませんけどね? かもしれません”
”そしてあの短歌は俺のことで?”
”どれのことかわかりませんけどね? かもしれません”
”リフレインきた! そっかーなるほどー”
”イヤじゃなかったですか?”
”ぜんぜん? 悪意あるイジり方じゃなければ、ネタになるのはぜんぜんOKですよ”
”えっ? じゃあ私も坂東さんをネタにしても!?”
”OKです。森田さんこそ、短歌の題材? にされてイヤじゃなかったですか?”
”私もネタにすることありますし、OK派です!”
”おー。じゃあいつかネタにしますね”
”ええっ!? 私異世界行きますか!?”
”異世界系じゃなくて! 現代モノ書く時に! あー、でも異世界系でもキャラのモデルにさせてもらうことがあるかもしれません”
”うわ、坂東さんから見た私どうなるんだろ。書いて! 早く書いてください!”
”まあ、気が向いたら”
”やったー! 楽しみです!”
”言質とられた。抜け目ない、この子抜け目ない”
今日はやり取りしてるだけだけど、あれ以来、たまに通話もするようになった。
ボケて突っ込んで、趣味の話をして。
電話は苦手だったはずなのに、不思議と長電話になる。
アプリで通話できる現代でよかった。
固定電話か携帯電話だったら、電話代がえらいことになっただろう。
ポケベルでもこれだけ往復してたら大変だったと思う。24040341041233250412。暗号じゃない。たぶん森田さんには通じない。11歳差……。
”初詣どこ行きましょうかねー。坂東さん、いつも行くところありますか?”
”いやあ、初詣自体、行くのがひさしぶりで”
”そうなんですか!? どこがいいかなあ”
”せっかく書き手二人なんだから、それ系のご利益あるところがいいですよね”
”たしかにー!……どの神様なんでしょう”
”アテネ、アポロン、あ、ムーサが文芸の神様だったかな”
”ギリシャ神話きた! 神社ねえ!”
”日本の神様で文芸メイン担当はいなかったような……”
”言い方が軽いですぅ。担当って”
”けどほんとによかったんですか? 箱根駅伝は二日目も朝スタートですよね?”
”いいんです! 正月休みは友達といろいろ予定入れちゃったし、仕事はじまったら1月は忙しくて次会えるのいつになるか”
”貴重なお休みをありがとうございます”
メッセージをやり取りしてるうちに、次に会う日は決まった。
仕事や展示の準備で忙しくなりそうだし、次は2月の『あなボロ』展か三月の観劇かって話だったのに、おたがいスキマ時間を見つけて1月2日になった。
年明けすぐだ。
この前のデートから10日ぐらいしか経ってない。
まあ、森田さんは駅伝好きらしくて、箱根駅伝の初日が終わった後に合流して、翌日に備えて早め解散の予定だけど。
”じゃあ、いろいろ探しておきますね。編集さんなら心当たりあるかもしれませんし、聞いてみるかな”
”よろしくお願いします!”
森田さんとのやり取りを終える。
続けて俺は、外村さんとのトークを開いた。
報告もしてないし。いや報告したら面倒なことになりそうとか思ったわけじゃなくて。
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