【7】
「お待たせしましたー。はあ、スッキリです」
「え、森田さん早くないですか?」
「私わりとお風呂早いんですよ。あ、ひょっとしてAV見てました? 焦っちゃいました?」
「見てませんけども! じゃあ次は俺がシャワー使わせてもらいますね」
「あれ? お風呂はつからないんですか?」
「時間かかるしやめておきます」
森田さんとすれ違う。
ガウンの前は合わせてるけどずいぶん薄着になった。
タオルを当てて水気を拭き取る姿は見ない。いい匂いもしない。しない。
なんだろ、俺べつに経験ないわけじゃないのに、動揺がすごい。
ざかざか服を脱いで風呂場に入る。
ぬるめのシャワーにしたのはお酒が入ってるからだ。
ざっと浴びて頭を冷やす。
髪も体も洗うと、少し落ち着いてきた。
「よし。あとは寝るだけ。寝るだけだ。寝るのかあ。同じベッドで。寝れるかなあ」
体が冷えないうちに拭いて、ガウンを羽織る。ちゃんとパンツは履いてる。あとお腹冷やさないようにインナーも着た。
「お待たせしました、って待ってないですね」
「うあー、ベッド気持ちいいですー。広い!」
部屋に戻ると、森田さんはベッドに転がっていた。
掛布団の中にいてくれてホッとする。ガウンははだけやすいので。
「はいどうぞ坂東さん」
「それもなんだか逆な気がしますね?」
「気のせいです!」
ベッドの前でためらってると、森田さんがぺろっと掛布団をめくった。横をポンポン叩く。
「では、失礼します」
「かたい! かたいぞばんどうー!」
「突然の下ネタびっくりです」
「そこじゃないぞー! 下ネタに驚いたのこっちです!」
ベッドに潜り込む。
仰向けで、もぞもぞ落ち着くポジションを探す。
と、左腕にしがみつかれた。
手もつながれる。
「え、ええ? これで寝られます?」
「えっ? ほんとに寝るんですか?」
「えっ? 『何もしないから』って言ったの誰でしたっけ?」
「言いましたけど! マジかー! 坂東さんマジかー!」
「マジです。気をつけてください、いま必死で心を落ち着けてるんで」
「ラブホで『何もしない』ってなって、ほんとに何もしないのひさしぶりです」
「俺はラブホがひさしぶりです」
「『あなボロ』はけっこう実体験を書いてるんですよ。正直、ワンナイトでラブホってこともあって。幻滅しますか?」
「さっきも言ったの覚えてます? 俺は森田さんの表現が好きなんです。そういう経験があの表現を生んだなら、過去がどうでも幻滅しませんって」
「ううー!」
「いたっ。え、力つよっ」
「ほんとに何もしないんですか? 私そんなに魅力ないですか?」
「そうやって煽らないでください、いまなんとか獣を寝かしつけてるんです。森田さんはめっちゃ魅力的ですよ」
「しれっと言いやがってこれだからラノベ作家はー! ばんどうー!」
「それに、いま森田さんを抱いたら、セフレか、それで終わっちゃいそうで嫌なんです。信じられないぐらい今日が楽しかったんです。この気持ちわかります?」
「えーあんまりわからないですー」
「わからないかー。楽しくて、一緒に観劇とかいろんなところに行けそうで。抱いて終わりになりたくないんですよ。大事にしたいんですよ」
「えっ真顔で言う!? 直球でくる!?」
「すみません語彙が貧弱なものでうまく言えなくて」
「おい職業作家ー!」
ラブホの広いベットで腕にしがみつかれて、手を繋いで。
くだらないことを言って笑い合ってるうちに、いつの間にか俺たちは寝たらしい。
けっきょく、本当に、何もしないで。
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