【2】
予約した店の店内も、そんな感じだった。
「うわお洒落。やたらお洒落」
「ですよねえ。前は男一人で入ってコレだったから落ち着かなくて」
「気持ちわかります。これは私も一人じゃ無理かな」
薄暗い照明に謎の小物。
店内にいるのは女の子グループかカップルか、合コンっぽい男女だけだ。
男だけのむさ苦しいグループはない。
田舎住みのラノベ作家が一人でタバコ吸ってることもない。今日はね!
店員さんに案内されて窓際の席に向かう。
「森田さん、俺、左側でいいですか? なんか寝違えちゃって首が」
「ええっ!? 左右はどっちでもいいですけど、大丈夫ですかそれ?」
「昼はキツかったですけどね、だいぶほぐれてきました。お酒の飲んだらきっとよくなると思います」
「坂東さん弱いのに?」
「いやあ、緊張しちゃってシラフは無理ですって」
「緊張してる感ぜんぜんありませんよ? むしろこんなお洒落な店で『コイツ手慣れてるな』って思ってますけど」
「いやいやいやいや。吐きそうです。飲んでないのに」
「見えない……ポーカーフェイスなんですね」
「ほら、普段あんまり人と話さないもので。表情の作り方を忘れてるのかもしれません」
「またまたぁ。『読書会』は先週だし、短編ハッカソンもこの前でしたよね?」
「そうなんですよ、こんなに人と話してるのはひさしぶりです。大丈夫ですか? 声量でてます?」
「それ冗談ですか? 真面目に聞いてますか?」
「冗談です。普通の顔でシレッと冗談言うもので……」
「わかりにくっ! がんばって慣れますね!」
「前向きー! けど、一対一で人と話すのひさしぶりなんで、二時間ぐらいが限界かもしれません」
「みじかっ!……ちなみにいまのは?」
「本音です」
「了解ですー。じゃあしんどくなってきたら言ってくださいね」
「優しい……森田さん優しい……天使ですか?」
「酒とタバコが手放せない26歳女子です!」
「えっ女子の概念おかしくない? いやおかしくはないか、酒とタバコ好きな女子がいたって」
「真面目かー! ちなみにいまの『天使かよ』はボケだって気づきました!」
「あっはい」
「でもせっかくのデートなのに、2時間で終わりっていうのは寂しいですね。無理してほしくないですけど」
「案外平気かもしれません。いま、自然に話せてますから」
「やった! ふふ、なんだかうれしいです」
「……あ、お酒注文しましょうか。なに飲みます?」
「まずはビールで!」
「洒落た店らしい洒落た飲み物もありますよ?」
「まずはビールで!」
「ベリーベリージンジャエールってなんだ、ストロベリーとラズベリーとジンジャエール?」
「えー? 『とても』のベリーなんじゃないですか?」
「なるほどあり得る! じゃあそれで!」
「えっ」
「37歳男性ですけどお酒弱いんで……」
「何も言ってませんよ? 坂東さん可愛いの頼むなあとか思ってませんよ?」
「お酒弱いんで……あと甘いもの好きなんで……すみませーん」
ようやく店員さんを呼ぶ。
二人の飲み物を頼んで、その間に食べ物を選ぶ。
どれも、見た目も名前も洒落てて可愛い感じになってる。お値段はあんまり可愛くない。まあバカ高いわけじゃないし、場所代と考えたらしょうがない。TOKYOこわい。
店員さんが運んできたお酒は、俺と森田さんで逆になっていた。
二人して、そりゃそうですよね、と笑いながら交換する。
「じゃあ、忘年会ということで。今年一年、お疲れさまでした! 乾杯!」
「デートということで。これからもよろしくお願いします、坂東さん。乾杯!」
いたずらっぽい顔で笑う森田さんがジョッキを向けてくる。グラスを当てる。
ベリーベリーラズベリーはなんだか甘酸っぱい味が——しない。
「ジンジャエールつよっ。え、予想外な味です」
「ビールうっま」
「森田さん、一口飲んでみます? 味見してみます?」
「あ、じゃあいただきます。うわっ」
ベリーベリージンジャエールを口に含んだ森田さんが顔をしかめる。
口を開け閉めする。
「そんな変な味でした? ジンジャー強いけどマズくはないと思うんですけど……」
「私、炭酸ダメなんです」
「ビール飲んでるのに?」
「ビールは別です!」
「『読書会』の時はハイボール飲んでたのに?」
「ハイボールも別です!」
「ホッピーも好きって言ってましたよね?」
「ホッピーも別です!」
「ぜんぶ炭酸入ってるじゃあん……わかった、ソフトドリンクの炭酸がダメなんですかね?」
「そうそれ! そういうことです!」
「これお酒ですけど?」
「たはー! お酒だったかー!」
ぺしっと額に手を当てる古臭いリアクションをして、森田さんはごくごくビールを飲み干す。炭酸……。
おかわりを頼むついでに、つまみも頼んだ。
つまみだと俗世な感じがする。
見た目にこだわった逸品料理をいくつか頼んだ。
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