『第一章 創作イベント「短編ハッカソン」にて』
【1】
短編ハッカソン。
著者と編集者がチームを組んで、短編を書き上げて電子書籍で
小説版のハッカソンなんだそうだ。ハッカソンが何かは知らない。
イベントの目的は、「創作活動してるみんな、もっと気軽に電子書籍だそうよ」らしい。
今回は、八王子の山の中で二泊三日の開催だ。
……参加のハードル高すぎて目的とズレてませんかねえ。
ボヤいてみるも、会場は熱気にあふれている。
そこかしこで名刺交換や、自作の紹介やアピールや趣味トークがはじまっていた。
決して安くない参加費を払って自らカンヅメされにくる創作者はアクティブなようだ。熱い。俺の場違い感がすごい。
この空気にいたたまれなくなってタバコを吸いに出たらあんな出会いがあったわけだけど。
短編ハッカソン最初のプログラム「90秒の自己紹介」は強烈だった。
この自己紹介で組みたい人をリクエストしあうせいか、アピール合戦だ。
ラップがはじまる。
「HA、HA、Hah」
ラップがはじまる?
「HeyYo,ここは短編ハッカソン好きにかますJam、自己紹介?より自己表現、俺のナリをFlowで表現」
……え? これ短編を創る創作合宿だよね?
フリップ芸がはじまる。
「編集者を選ぶ3つのポイント! まず一つ目はこちら! 実績!」
……創作合宿だよね? 芸人募集じゃないよね? あと二つ気になるんですけど。
ギターの演奏がはじまった。
うまい。
あ、この曲知ってる、なるほど「必要としてくれ」ってことね。なるほどなるほど。
…………そうさくぅ。
混沌に襲われて混乱する中、さっきライターをあげた女の子が登壇した。
赤いコートは脱いで、グレイのパーカーが気楽な感じだ。
緊張してるのかさっきより表情が硬い。
「森田玲花と申します。普段は小説ではなく詩や短歌を書いています。大学では現代詩を専攻してずっと書いてました」
創作ぅ。
え、気軽に話しちゃったけどガチ勢じゃん。大学で詩を専攻って藝大系の創作ガチ勢じゃん。
「酒とタバコが欠かせないもので、同じチームになる人はその辺理解してもらえると嬉しいです」
なんだろちょっと安心した。けど酒とタバコをやる創作者ってそれはそれでガチ感ある。
無手で来た俺の場違い感がすごい。
それでも出番はまわってくる。
俺は床を踏みしめて壇上に向かった。
観客はジャガイモ。ゆっくり、はっきり、自分で思ってるより大きな声で。
「初めての方は初めまして、そうでない方はおひさしぶりです。坂東太郎でございます」
声が震える。
いちおう、短編ハッカソンは二回目の参加なんだけども。
「
笑いはおきない。ツラい。
「編集さんとタッグを組んで、新しいジャンルに挑戦したいと思ってます。よろしくお願いします」
終わりの合図に頭を下げると、おざなりの拍手で迎えられた。
場違い感? もうなるようにしかならないです。
チーム組んじゃったらあとは書くだけだから! 三日で電子書籍の販売開始するってことはまわりを気にしてる余裕ないから! がんばれ俺!
言い訳じみた心の声は、誰にも聞こえない。
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