そんな話は聞いていない part 2
バンビが住む城の目の前には王が国民に演説を行う際に利用する広い集いの場がある。何もなければその広場では子供たちが遊んだり、たまに祭り事を行ったり、市場が開かれたりすることもある。
「姫さん…この方はどなたでしょうか…?」
そんな広場にバンビは病人、怪我人のいる家の家族や同居人を集めた。その数およそ700人ほど。
ぞろぞろと集った住人たちはバンビの隣に立つ見知らぬ青年、ニースに目が離せないようだ。
「彼はニース。この国の治療師になる予定よ!彼は今日から私と共に行動し、皆さんの家に訪れ治療をいたします。皆さんの怪我・病気をしたご家族を治しに行きます!」
バンビは子供が新しいおもちゃを自慢するように、皆の前で誇らしげにニースのことを紹介した。そのバンビの自信満々な表情に広場に集まった住民たちは、目を大きくして期待の眼差しをニースに送る。
「重傷・重病な方を優先に治療は開始されるわ。私が把握している中で治療に必要とされている国民は500人ほど。治療期間は今日から2週間とするわ。日数の前後はあるかもしれないけど、もし2週間経ってもニースと私が家を訪れなかった場合、すぐに知らせて欲しいの!」
「お、おい…2週間で500人って…1日70人強…」
そんなスケジュールは聞いていないとバンビの発言を止めようとしたニースだったが、バンビが鋭い目でニースに喧嘩を売る。
「できないの?言ったわよね…私の命令は」
「…絶対…」
「そう、よくできました。じゃあ、はい、これ。」
バンビは大事そうに持っていた書類の束をニースにどさっと渡す。かなりの枚数があり、全て手書きだった。筆跡から見るに同人物によって書かれたのだろう。
「これがリストよ。上から順番に全ての住人の症状が記載されているの。あなたの方がそう言ったものは詳しいでしょうから、順番は自由に変えていいわ。今から1時間以内にこの書類に全部目を通して頂戴。そしたら、治療を始めるわよ。」
「1時間!?500人分のリストを!?そんなの…」
「できる、わよね?」
「〜〜〜〜やってやるよ!」
ニースはその場にどすんと座り込んだ。
バンビの命令は絶対だ。納得できないが、断る権利はニースにはない。最初から彼女に口答えなどできないのだ。
ニースはバンビがひらひらとさせる紙の束を掴むと、1枚1枚に目を通し始める。
集中し始めたニースを確認したバンビは、ふふんと嬉しそうに笑い、広場に集まる住人に告げる。
「皆さん、不安なことがあったらすぐに私に相談してね。…あと、ニースがこの国治療師になれるかどうかは皆さん次第よ。だから、もし彼の移住を許してくれるのなら、ご署名のほど、お願いしまーす!」
ニースは優秀だ。それはバンビがこの目で確認した。彼の腕なら住民の賛同を得ることは容易いだろう。
そして、その優秀な治療師を見つけ出し、連れてきたのは紛れもないバンビ。バンビへの評価もニースの働きに比例してうなぎ上りに上がっていくだろう。
「これで…父様を超えてやる。」
バンビは譲れないプライドをかけて、ニースに全てを託す。
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