象まで辿りついたぞう
ドシンドシン、と低く鳴り響く白象の足音。
あんなでかい象に自分たちの場所など伝わるわけがないと思っていたが、確実に自分たちの方角へ近づいているのがわかった。
「さて、そろそろ私たちのお城へ戻りましょう。」
「「はい、姫様。」」
ニースのおかげで病も治り元気な姿に戻った老夫婦たちは、姫・バンビに続き歩き始める。
「色々知らないでしょうから、ニースには説明してあげるわね。これからあなたが乗ることになるあの象は『白象』という魔物よ。」
「魔物…?魔物が人間に従うなんて聞いたことがない。」
「いいえ、従えてはいないわ。コントロールしているのよ。あんなに綺麗な見た目をしているけれど、白象は1000年前に大きな災害をこの地にもたらした邪悪な魔物。」
「そしたらわざわざ歩かせる理由はないだろ?…一つの場所に閉じ込めておくとか方法はある。」
「動きたくってうずうずしている子供をずっとおとなしくさせる事はできないわ。私たちが無理やり力を抑え込めたら白象はたまったストレスを一気にぶちまける。そうさせないためにも私たちは白象を歩かせる事で力を発散させているの。」
「なるほど。歩き回るとなると象の上に乗って生活した方が封印もしやすい、と。」
「一番効率的な方法よ。そして、私一族たちは白象の上に国…王国を作ったわ。この象の上には住人が2000人ほど住んでいて、私の父はその国の王。そして私はその娘。」
ベンゼンの街から20分ほど西に歩くと横幅が広い街道にぶつかる。こんなに広い街道なのに歩いている人間や馬車は見当たらなかった。
バンビは街道の側に佇む自然にできた湖畔に近づく。山々に囲まれた湖畔にはどこまでも青く広がっていた。緑と青のコントラストが美しかった。青空は水辺を反射し、風に流され静かに波を作る。ここだけは別空間のようにゆっくりと時間が流れているような感じもした。
「おい、バンビ…。街の方に戻らなくていいのか?白象は街に近いところにいたよな?」
「大丈夫よ。ここが通り道だから。」
すると、ズンと大きな地響きが鳴り、地面がグラッと揺れる。周りの木々たちもざわざわと葉を揺らし異常を伝えていた。
明るく自分たちを照らす太陽が雲に隠れたと思うと、広い街道に沿って白象が歩いてくるのだ。
「この道は白象の通り道。通行人が万が一でも白象に潰されないように、わかりやすく通り道を作ったの。」
白象はゆっくりとバンビたちの前で足を止める。そして膝を地面につけ、鼻をバンビたちの前に差し出す。
「少しの間だったら止めていても問題ないわ。っと…その前に…。」
バンビはニースの右手を両手で優しく包み、そのまま彼の手に唇を当てる。
『汝、アース王の娘、バンビの名の下に入国を許可する』
ニースの右手が七色の光を放つ。
輝く光の中でバンビと一瞬目が合い心臓がどきりと動く。光が収まると、彼女の柔らかい唇はニースの手を離れる。名残惜しい感触だった。
「さ、早く乗りましょう。」
老夫婦はバンビに手を引かれながら象の長い鼻の上を歩き始める。
50年以上生きているが、こんな大きな魔物を見たのは初めてだった。あまりの大きさにニースは言葉を失った。前回戦った黒龍の5倍以上はある大きさだ。
「早く!きなさい!」
バンビに促され、ニースは象の鼻の上に乗る。ふんっと大きな呼吸の振動が全体に広がった。長く続く象の鼻はゴツゴツとして歩きづかった。
山登りをするように長い鼻を登り終えると、その先には村で滅多にお目にかかる事はないレンガで作られた建物が立ち並んでいた。象の背中に沿って並ぶ高さの異なる建物たち…その一番高い場所には大きな白い城がそびえ立つ。
「ようこそ、ここが白象の上よ。私はあなたのことを歓迎するわ。」
「私たちもあなたのことを歓迎するわよ、ニースさん」
ニースの歓迎をするのは王国の姫、バンビとニースが治した老夫婦のみ。小さな歓迎だが十分だ。
白象の上に建つ王国にニースは一歩踏み入れた。
「さあ、ニース。これからあなたの腕を存分に奮ってもらうわよ。休む暇なんかないと思って覚悟してしなさい?」
「………は?」
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