第63話 君がいるから(6)
声が聞こえた方へ行くと、パンツが見えそう……というか、見えてる短いスカートと、肩丸出しのオフショルダーの服の女が、蓮の上に跨り、匂いを嗅いでいた。
「うん、匂いも美味そうだ。ここまで上等なのは、何年振りだ? 冥雲会が霊界に封じられてから、ここまで上物の人間は久しく食っていないなぁ…………」
女はそう言いながら、動けない蓮の体を這うように触る。
(れ、レンレンが痴女に襲われてる!?)
雪乃は目の前の光景に一気に取り戻した冷静さを失い、雪女の姿へまた変化した。
「おい……ババァ………の………何してる」
「ん?」
突然の寒気と、声が聞こえてアラサラウスは声がした方を向いた。
水色の髪に白い着物の雪女が、鬼の形相で立っている。
「雪女!? どうしてアタイの縄張りに……!?」
真夏の山に、雪が降る。
アラサラウスは本来熊の姿をしている妖怪だ。
寒さにはめっぽう弱い。
美人でセクシーなグラビアアイドルのような姿を保っていられず、大きな熊の姿へもどっていった。
「私のレンレンに、何してるのよ!!」
生ぬるかった風が一気に冷たい風に変わり、雪乃の周りの空気に含まれる水分が全て
大量の氷柱が、一斉にアラサラウスに向かって飛んで行った。
氷柱に体を押され、大きな熊は吹き飛び、勢いよく大木の幹へ打ちつけられる。
「あっ…………あっ……アア」
苦しそうな声を上げた後、ずるりと地面に落ちて、アラサラウスは気を失った。
「レンレン!!!」
雪乃は木にもたれかかっていた蓮の元へ駆け寄った。
「レンレン!! 大丈夫!? どこも怪我してない!?」
雪乃は蓮をぎゅっと抱きしめる。
しかし、蓮はなんの反応もしない。
ただパチパチと瞬きをしているだけで、状況がわかっていないようだった。
「レンレン? どうしたの……?」
「今の……なんだったんだ? 雪も……降ってるし……今、夏なのに————」
雪乃は蓮の反応で、気がついた。
(まさか、レンレン私の姿が見えてない!?)
「もしかして……ゆきのん、どこかにいるの?」
見えなくても、蓮はわかったようだ。
前にもこうして、雪乃に助けられた時は雪があった。
「俺……また、見えなくなった? それとも、これは、また夢?」
(見えるようになって、これで立派な祓い屋としてやっていけるって、喜んでいたのに……そんな————)
雪乃は人間の姿に戻る。
蓮は雪乃の姿が見えて、そこでやっと、雪乃に抱きしめられていることに気がついた。
「ゆきのん……」
「レンレン、大丈夫。もう、大丈夫だよ」
蓮は雪乃の存在を確かめるように、震える手でぎゅっと抱きしめ返す。
そして……
「会いたかった……ゆきのんに、会いたかった」
「うん……私も、会いたかった」
どちらからともなく、ほとんど同時に、唇を重ねた。
* * *
「師匠、雪が!!」
「あぁ、きっと、あの辺りに雪乃がいるんだろう……」
視界から消えた雪乃を探して歩いていると、鏡明と浅見はコロポックルがたくさんいる場所を見つけた。
その内、雪が降っている場所を見つけて、急いで駆け寄ると、ちょうど雪乃がアラサラウスを大木に打ちつけたあとだった。
雪女の姿のまま、蓮に駆け寄る雪乃。
二人の会話から、蓮がまた妖怪を見ることができなくなったのだと気がついた。
そして、駆けよろうとした時————
「ちょっと……! 師匠!! あの二人!!」
浅見は泣きながらキスしてる二人を見て、思わず両手で顔を手で隠すが指の間から見てる。
雪乃の周りにいた雪兎も浅見と同じ反応をしている。
鏡明はもう、呆れてしまって、いつもの癖で首の後ろを掻いた。
「これはもう、わしにはどうしようもないな……」
二人の恋路の邪魔をするのは、もう無駄だと鏡明は判断した。
それよりも、また蓮が見えなくなってしまったことが問題だ。
これから冥雲会と戦うというのに……
それに、祓い屋協会の連中にも跡取りとして蓮を紹介してしまっている。
「どうしたものか……」
明日からどうしようか困っていると、若い二人がせっかくいい雰囲気だったのに、気を失っていたアラサラウスが目を覚ました。
「よくも……このアタイを!!!」
雪乃の背後から、アラサラウスは襲いかかろうとしている。
鏡明たちが気がついて、助けようとする前に、蓮は手を伸ばして————
「
最近覚えた炎を出す術で、アラサラウスを焼き払った。
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