第62話 君がいるから(5)
「今すぐ案内しなさいよ!! レンレンがいなくなった場所に!!」
雪乃は浅見の胸ぐらを掴み、大きな体を揺らした。
蓮が行方不明……それも、3日も経っていると聞いて、雪乃はもう相手が祓い屋だろうが、元ラグビー部のガタイのいい男だろうが関係ない。
なぜこんなにも雪女が怒っているのか、まわりにいた他の祓い屋たちはわからずにいたが、祓い屋が妖怪に襲われているようなものだ。
そのうちの一人が、浅見を助けようとした手を、騒ぎに気がついた鏡明が止める。
「おい、どうしてお前がここにいる? 雪女の娘」
浅見の胸ぐらを掴んだまま、雪乃は顔だけ鏡明の方を向いた。
「どうしたも、こうしたもないわよ!! レンレンがいなくなったのよ!?」
鏡明は全てを悟ったようで、ため息をついた。
「あれだけ……惚れるなといったのに、遅かったか」
大事な孫がいなくなって鏡明も参っていた。
ただ山の中で迷っているだけなら、すぐに見つけられるのだが、あの山には何かいる。
他の祓い屋たちと交代で蓮を探していたが、全く見つからない。
蓮が身につけているあの紫の巾着の気配を辿っても、何かに拒まれて居場所が把握できないでいるのだ。
「浅見、お前、知っておったのにわしに隠していたのか……?」
「す、すみません……師匠。その、あの…………」
雪乃には胸ぐらを掴まれ、師匠である鏡明からは睨みつけられる。
浅見はもうこれは本当に殺されると思った。
「もういい。ついてこい、いなくなった場所へ案内しよう。浅見、お前も来い」
雪乃はパッと、浅見の胸ぐらを掴んでいた手を放した。
パリパリと音がする。
掴まれていた服が凍っていた。
* * *
「いいか、雪女の娘……」
「雪乃です!!」
浅見が運転する車の後部座席に乗って、少し冷静になり落ち着いた雪乃は人間の姿に戻った。
逃げないように雪兎をギュっと抱いている。
雪子に自分が今何をしてるのか、報告させないためだ。
(レンレンのおじいさんと一緒にいるなんて、ママに知られたら大変よ!!)
初めは逃げようとした雪兎だったが、もうすっかり諦めて大人しくしている。
「……雪乃、雪女は冥雲会に狙われる可能性が高い。蓮を探しにいくのは構わないが、決して、我々から離れるな。それに、人の姿でいられるなら、人の姿のままでいた方がいい。奴らがどこに潜んでいるかわからないからな————」
「わかってます!! それより、レンレンはどうしていなくなったのか、わかっていないんですか?」
「あぁ、妖怪が見えるようになってからは、こんなヘマは少なくなったのだが……」
「祓い屋、お前と間違われて、冥雲会にさらわれた可能性は?」
大人しくしているのが耐えられなくなった雪兎が口を挟んだ。
「は? 何を言っておる。どうして蓮とわしを間違える?」
「妖怪と人は生きている時間が違う。蓮殿は若い頃のお前にそっくりだ。冥雲会のやつらがお前に恨みを持っていることは明らかじゃないか」
雪兎が敬語を使っていないのを見て、雪乃は違和感を覚えるが、それより気になったのは、鏡明の若い頃が蓮にそっくりだということだった。
(レンレン、将来こうなるの……?)
「着きました……」
蓮がいなくなったキャンプ場に浅見は車を停める。
すっかり暗くなっていたが、この日はスーパームーン……特別明るい満月が空に浮かんでいた。
雪乃は車から降りると、もう完全に野生の勘で山の中へどんどん進んで行った。
浅見と鏡明は雪乃の後ろについて歩く。
「いいんですか? 師匠、適当に歩いているような気がするんですが……」
「人間と妖怪では見えるものが違うことがある。とりあえずついて行ってみよう」
整備されているキャンプ場から離れてしばらくすると、雪乃の視界に、何か動くものが見えた。
生ぬるい風が、木々を揺らす。
「雪兎、あの辺り、なんだか少し明るくない?」
雪乃が指差した方向を見て、雪兎は頷く。
「確かに……なんでしょう?」
雪乃はぼんやりと明るいその場所を目指して歩き出した。
「え……!?」
そして、落ちた。
鏡明と浅見の視界から完全に消えた。
「きゃあああっ!!?」
雪兎がとっさに雪を出してクッションにしたため、落下の衝撃は軽減されたがここから上に戻るのは難しそうだった。
しかし、ぼんやりと明るい場所の中に落ちたようで……
「うわぁああ!! 空から人間が降ってきたぁあああ!!」
「踏み潰されるぞー!!」
「おっかねーなぁ……!!」
フキの葉を持った小人たちと目があう。
「小人……?」
「おや、珍しい……コロポックルですね」
「コロポックル……て、たしか、アイヌの妖精か何かじゃなかった?」
コロポックルたちはフキの葉の影に隠れようとしているが、雪乃には丸見えである。
(ちょうどいい……この子たちに聞いてみよう!)
蓮の姿を見なかったか、聞こうとコロポックルたちに声をかけようとした、その時————
「大変だぁ……!! アラサラウス様が帰ってきたぁ……!!」
少し離れたところから、そんな声が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます