第60話 君がいるから(3)
「まただ……また同じ場所だ」
浅見とともに、子供たちが行方不明になったというキャンプ場へ来た蓮は、妖怪が見えなくなり始めていたことに気づかずにいた。
そんな中、いなくなった時の状況を浅見が被害者の両親たちから聞いている時、ふと何か白いものを見た。
それがこの事件に何か関係してるのではないかと、一人で追いかけて行ってしまったのだ。
気がつけば、浅見がいたキャンプ場からかなり離れてしまい、さらに山奥まで来てしまっているようで、帰り道もわからない。
ずっと同じ場所をぐるぐると回っていた。
もちろん、山奥のためスマホはずっと圏外で繋がらないし、食料も何もない。
今が夏なのがせめてもの救いで、これが冬だったら確実に凍死している。
「絶対おかしい……!!」
試しに近くの木に傷をつけて、歩いてみたのだが、数分後には同じ場所に戻ってきてしまう。
どっちへ行っても、必ず同じ場所。
それもそのはずなのだ。
この山に住んでいる妖怪が、人間を捕まえるために張った罠の中にいるのだから、また妖怪が見えなくなった蓮が、それに気づけるはずがない。
それに、蓮には全然見えていないが、蓮がここへ迷い込んでからずーっとフキの葉を傘にしている小人のような妖怪が数体、出口を案内してくれているのだが、全然見えていないのだ。
「いやーこれは珍しい……こんなに近くにいるのに、オラたちが見えないだなんて」
「なぁ、出口はあっちだって、教えてやってんのに、全然見えてねーんだもんな。どうしたらいいんだ?」
「こんなに見えねー人間は初めてだぁ。どうする? このままだと、アラサラウス様に見つかるんでないかい?」
アラサラウスは、山に迷い込んだ人間を餌にしている熊に似た妖怪である。
今は留守にしているので、この山から離れているが、姿を自在に変身できるため、最近では美人でセクシーなグラビアアイドルのような姿でいることにはまっている。
なんでも、キャンプ場に捨てられていた大人向けの雑誌を偶然見つけ、その姿が気に入ったようだ。
「冥雲会ってのが、復活したって言って出かけてったけど、そろそろ戻ってくるべ」
「見つかったら食われるぞ」
「でもその前に、餓死するんでねーか? もう2日は経ってるべ?」
心優しい小人たちは、アラサラウスが留守の間に迷い込んだ子供たちを幾度となく救ってきた。
今回も、助けてあげたいのだが、こちらの姿が見えないならどうしようもない。
力が弱い彼らには、ここまで見えない人間に自分の姿を見せる能力が備わっていないのだ。
仕方がないので、小人たちは蓮が眠っている間に、せっせと木の実や魚などを捕まえて、近くに置いて行った。
しかし、都会育ちの蓮は、どう食べたらいいかわからない。
川が流れているため、水はあるが……本当にこのままでは餓死してしまう。
お腹をすかせながら、山に迷い込んで3日目の夕方、歩き疲れた蓮は木にもたれかかりながら、ついに気を失った。
* * *
「レンレンが消えたって、どこで!!? なんで!?」
「落ち着いてください、雪乃様!! 気持ちはわかりますが、その前に家に戻ってください!! おじょ……お母上が心配するでしょう!?」
せめて一言、出かけることを伝えてから行った方がいいと、雪兎は雪乃をなだめるが、全然聞く耳をもたない。
それどころか、近づくなと言われているのに、祓い屋道場に向かっているのだ。
「落ち着いていられるわけがないでしょ!? レンレンが……レンレンが行方不明なのよ!!?」
(もしかしたら、冥雲会がレンレンに何かしたのかもしれない……!)
確かに、蓮は若い頃の鏡明によく似ている。
鏡明と間違えられ、連れ去られる可能性もなくはない。
別の危険が迫っているとは思いもせず、雪乃は氷川家の祓い屋道場に乗り込んだ。
「ゆ……雪女!?」
道場にいた祓い屋たちは、突然現れた雪女の姿に戸惑い、それが敵か味方かわからずに身構える。
中には、そのあまりの美しさにうっとりと見とれてしまう者もいたが、雪乃はそんな視線を全部無視して、やけにガタイのいい祓い屋目指して一直線に突進した。
「どういうことよ!! アサミン!!!」
浅見の胸ぐらを掴み、ものすごい形相で怒鳴りつける。
「レンレンはどこに行ったの!!!!?」
「ちょ……まって、落ち着いて…………!」
「落ち着いてられるわけないでしょ!!? 今すぐ凍らせるわよ!?」
道場の温度が一気に5度下がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます