第43話 君がいない夏(12)
蓮が投げた浄化の砂がなんなのかわかっていない雪乃。
(え、ちょっと待って!! 私アレかかったらヤバイんじゃ……!?)
案の定、檻の前にいた金花が避けたため、檻の中にいた雪乃にも砂が若干かかってしまう。
(あぁ、私死んだ————)
そう思ったが、意外にも檻だけが変色して、銀色に輝いていたものが錆びて朽ち果てて行く。
銀花が作ったこの檻は、砂のかかったところから消えていった。
雪乃には何の被害もなかった。
(よくわからないけど、レンレン!! ナイス!!!)
雪乃は手を伸ばし、猫にもの取ってしまった銀花を大事そうに両手で抱えている金花の足に向かって冷気を出して、凍らせる。
両手も叩けず、足も雪乃によって凍らされて、金花は動けない。
「くそ……雪女め!! 大人しく捕まっていればいいものを————また抵抗するのか!! この金花から逃げられるとでも!?」
金花は銀花の腹を肩に乗せ、両手を叩こうとした。
しかし、いつの間にか蓮が金花の目の前まで来ていて、金花の手を掴む。
「ニャァああああああっ!!」
蓮の手のひらに残っていた浄化の砂が、金花の手をじわじわと溶かしていく。
「なぜ人間のお前に……こんなことがっ」
「……————祓い屋よ……姐さま」
金花の肩にいた銀花が、震える声でそう言った。
「祓い屋……————まさか、そんな!!」
銀花は金花の肩から畳の上に頭から落ちたところを、雪乃に捕まる。
震える猫の首根っこを掴み、両手を叩けないように雪乃は猫の手を氷で固めた。
「私たちをここから出して。それに、エリカを————エリカを返して」
* * *
一方その頃、浅見は1年1組の教室から人払いをして、状況を把握するために、目を閉じて、蓮の居場所を探っていた。
妖力も霊力もない蓮を探すより、蓮が身につけているあの紫の巾着袋の気配を追っている状態だ。
集中力を要するので、はたから見たら、謎のクマのキャラクターのTシャツを着た、やけにガタイのいい男が数珠を持って目を閉じているだけだが、ちゃんと探しているので安心してほしい。
気配をたどって行くと、暗闇の中に何かが動いているのが見えてきた。
少しだけぼんやりと光が見えて、そこに襖があることがわかる。
さらに奥へ進もうと意識を集中する浅見。
「ちょっと!! アサミン何してんの!!」
「うわあああああああっ!!!」
目を開けたらいつの間にかギャルがいて、浅見は驚いて声を上げながら尻餅をついた。
「え、エリちゃん!! 何でここに……!? 後少しで蓮の居場所が————って、その手、一体どうしたんだ!?」
よく見ると、エリカだった。
そして、いつもノリが軽いというか、適当に日常をすごしていたエリカが息を切らし、真剣な顔をしている。
さらに、左手の小指の先から血が出ていた。
「もうマジ最悪!! 蓮の居場所ならわかってるから、ついて来てよ!!」
エリカは血が出ている左手の小指を自分の下唇に当てる。
「
黒板のある方に向かって、そう叫ぶと、何もなかった空間に、縦に大きな切れ目が入り、暗闇が現れた。
その暗闇の向こうに、ぼんやりと光りが見えて、そこに襖が見える。
「これは……さっきの!!」
驚く浅見の手を引いて、エリカは暗闇の中へ入っていった。
二人が闇の中へ入ると、教室にできた切れ目が元に戻っていく。
「蓮なら、この襖の向こう。あと、雪乃もいるの……!! 早く助けなきゃ!!」
「いったいどうなっているんだ?」
「多分、これはまだ予測でしかないけど…………」
エリカは下唇についた血を右手の親指で拭って、その名を口にした。
「
冥雲会……それは、かつて鏡明をはじめとする祓い屋協会の追っていた、あの組織の名前。
人間を妖怪に、妖怪を人間に売っていた組織の名前だ。
「アレが冥雲会の奴らなら、エリの雪乃が危ないの!」
「エリちゃん、その雪乃っていうのは?」
「雪女だよ。半妖だけど……エリの大事な親友なの」
「————それは危険だ。急ごう」
暗闇の中を、エリカと浅見は走った。
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