第37話 君がいない夏(6)
「おお!! すっげぇ!!」
「ははっ! でも、体とあってねぇよ」
「パンツ見せんな!!」
学校祭当日、蓮と他に数人のメイクが得意な女子たちは、メイド服やチャイナドレス、セーラー服などなど、様々な女装を男子たちに施した。
女子は女子で、各々燕尾服や紋付袴、中には筋肉むきむきの着ぐるみをきている強者なんかもいて、楽しそうにそれぞれの持ち場につく。
久しくコスプレイベントに参加していなかった蓮は、そんなクラスメイトの楽しそうな姿を眺めながら、やっぱり、自分は本当はこういう仕事がしたいんだよなぁ……と、思っていた。
「あれ? 氷川はコスプレしないの?」
「え? 俺もやるの?」
「あったり前だろ!! どっかに衣装余ってないか?」
振袖を着た男子生徒が、蓮に残っている衣装を手渡した。
「ほら、着替えてみろよ!」
「い……いいの?」
そして、数分後、ピンクのセーラー服姿になった蓮は、このクラスの誰よりも……というか、他の女子よりも超絶可愛い美少女へと変貌していた。
眼鏡を外し、ちょっと髪型を変えて、メイクをしただけで、ここまで変わるとは、誰も思わない。
この場にガチファンの雪乃がいたら、興奮しすぎて、すぐに雪女の姿に変化してしまうだろう。
「か、かわいい!!!!!」
「え、何それ、反則じゃない!?」
どこからどう見ても、女子にしか見えない。
これはもはや、詐欺だとクラス全員が思った。
* * *
エリカに無理やり連れられて、学校祭に来た雪乃。
しかし、雪乃は2ヶ月しか通っていなかったとはいえ、この学校の高嶺の花だった。
そのままの姿で校内を歩けば、みんなから注目の的になるのは明らかだった。
(とりあえず、レンレンの様子だけでも見に来て欲しいって言われて、仕方なく来たけど…………)
「ねぇ、エリカ。本当にこんな事する必要あった?」
「あたりまえじゃん! 可愛いよぉ、雪乃! めっちゃ似合ってる!!」
真っ白だった雪乃の肌に、日に焼けた小麦色のファンデーションを塗り、ナチュラルだったアイメイクは、アイラインもマスカラもがっつり使って、ギャルメイクに変わっていた。
このまま、そういう雑誌に載っていても全然おかしくない。
もともと大きい二重の目が、さらに大きくなっていて、鏡に映った自分の姿に驚いて目を見開いたら、さらに目が大きくなった。
「密かに見に来てるんだから、雪女の姿になっちゃえば、誰にも見つからないと思うんだけど……」
「えー……だって、こんなに人がいるんだよ? 中にはエリカみたいに、雪乃の姿見える人だっているかもしれないよ? 危ないでしょ?」
(それも……そうか)
「アサミンも鏡明じぃちゃんと見に来るかもしれないって言ってたし、退治されちゃうかもよ?」
確かに、力の強い祓い屋が来たら、危険だ。
雪乃は鏡明につけられた頬の傷を思い出して、背筋がゾッとした。
(レンレンのおじいちゃん、本当に怖かったな……)
それに、祓い屋ではなくても、こんなに人が集まっていれば、見える人もいるかもしれない。
雪乃の父である智もそうだし、雪乃のように人間として、人間の中で生きている妖怪もいるはずだ。
誰にもみられていない……とは限らないかもしれない。
(でも、なんでこんなに短いスカートなのよ……!! パンツ見えたらどうするの!!)
そう思いながら、人混みの間を縫って、雪乃はエリカに連れられ、1年1組の教室を目指して進んだ。
その中に、じっと、雪乃の姿を見つめる視線があったが、雪乃は気づいていなかった。
「だ……男女逆転コスプレ喫茶!?」
入り口にデカデカとそう書かれた看板を見て、雪乃は動揺を隠せない。
(男女逆転!? ってことは、レンレンも!? レンレンも!?)
ドキドキしながら、雪乃がそっと中を覗くと、喫茶店のはずが、なぜか和室になっている。
(ん? 畳? 襖? なんで?)
そして、中には誰もいないのだ。
教室を装飾して、喫茶店にしているはずなのに、黒板も、机もない。
窓もない。
さらに、今は夏の昼間だというのに、仄暗い。
ぼんやり光る行灯が襖の柄を半分照らしている程度だ。
「雪乃? どうしたの?」
後ろにいたエリカに声をかけられ、一度エリカの方を向く雪乃。
「男女逆転コスプレ喫茶……なんだよね? 誰もいないけど……」
「はぁ? そんなわけ……」
そして、もう一度、教室の中を見ると、今度は普通に学祭の喫茶店らしく飾り付けられた教室になっている。
黒板にも、男女逆転コスプレ喫茶の文字がチョークで書かれている。
(あ、あれ?)
「普通じゃん?」
そう言いながら、エリカは中に入っていった。
(さっきの、なんだったの?)
首を傾げながら、雪乃も教室の中に入る。
教室内は、特に不審な点は見当たらない。
しかし、事件が起きたのは、客集めのため、外で宣伝に回っていた蓮が戻って来てすぐのことだった。
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