第17話 ギャルと悪霊とかくしごと(6)
桜の木で囲われた、小学校近くの小さな公園には、遊具はブランコと小さな山くらいしかない。
その唯一の遊具であるブランコを照らすように、外灯が一つだけ立っていた。
「ゆーきのっ!」
ブランコ周りの安全のため設置されている柵に腰掛けたエリカが、手をふりながら雪乃の名を呼んだ。
こんな時間にこの公園へ来たのは、小学生の盆踊り以来だった。
一際派手な浴衣を着て、今のように手を振る親友だと思っていた頃のエリカの姿が脳裏に浮かび、そういえば昔から派手好きだったことを思い出す雪乃。
(まさかギャルになってるとは思わなかったけど……)
「なに? 話って————」
明らかに自分の姿が見えていただろうエリカに、一体なんの話をされるのか怖かった。
自分が雪女であることをネタに、なにか脅されたりとかしないだろうかという恐怖もある。
もしも、それで半妖の自分だけではなく、母や近所に住む他の人間としていきている妖怪たちに被害が及ばないかが不安だった。
(もし、エリカが私を脅す……なんてことがあれば、私がエリカを殺さなきゃないのかな?)
「そんな暗い顔しないでよぉ……言い出しづらいじゃん。大丈夫、私以外だれもいないから……鏡明じいちゃん——さっきの祓い屋も、ここには来てないから」
「祓い屋!? それじゃぁ、あの人は————」
「エリと蓮のじいちゃんだよ。この街……うーん、下手したら北海道の祓い屋では一番強いかもね」
そんな世界とは無関係だと思っていたエリカから祓い屋の話がでて、雪乃は混乱した。
普通の人間だと思っていた、かつての親友はギャルな上に祓い屋と繋がりがある人間だったなんて、全く思わなかったからだ。
「大丈夫、雪乃が雪女だってことは、誰にも言わないよ。もちろん、あの使えない蓮にもね」
(使えない!? 確かにレンレンは祓い屋としては使えないけど……使えない!?)
雪乃はエリカに大好きな蓮の悪口を言われたと思い、怒りの感情が強くなる。
エリカに好きなものを否定されたのは、これで2度目だ。
どうしてこうも、このエリカは雪乃につっかかるのか…………
感情が一気に動いたことで、雪乃の姿は本人の意思とは関係なく、水色の髪と白い着物の雪女の姿へ変化しはじめる。
しかし————
「あんな使えない男のどこがいいの? エリの方が、雪乃のこと、ずっと好きなのに!」
「え……?」
顔を真っ赤にして、そう言い放ったエリカに驚いて、一瞬で人間の姿に戻った。
「ええええええええええええっ!?」
エリカの突然の告白に驚いた雪乃の声が、夜の公園に響き渡った。
* * *
一つは、幼い頃から幽霊や妖怪が見えるという事だ。
エリカの母は、祓い屋である鏡明の2人目の娘だった。
つまり、祖父である鏡明の血を引き継いでいて、彼女には祓い屋には必要不可欠な見える力が生まれつきあった。
本来であれば、蓮のような何も見えない孫より、エリカの方が才能がある。
だが、祓い屋を女性が継ぐことはできない。
どんなに力があろうと、子供を産むとその力は半減するか、最悪の場合何も見えなくなるのだ。
エリカの母はその最悪の実例であり、実際にエリカが生まれてからは力を失ってしまった。
だから鏡明は初めから女の子であるエリカに家業を継がせる気はないのである。
どんなにエリカが家業を継ぎたいと思っていても、鏡明はエリカを後継者にはしない。
もう一つは、エリカが好きなのは、男ではなく、女だという事だ。
綺麗なものや、可愛いものが大好きなエリカの初恋の相手は、雪乃だった。
幽霊や妖怪が見えていたエリカは、偶然にも雪乃が自分と同じものを見ることができることを知る。
雪乃は隠しているつもりだったが、雪乃が時折他の友達と話していても、変な方向を見ていることがあり、その視線の先に妖怪がいたことを、エリカは気がついていた。
可愛い上に、自分と同じものが見えるなんて運命だ、とエリカは思っていた。
ずっと、友達としてでいいから、雪乃のそばにいたかった。
しかし、中学生になってから学区の関係で違う学校へ通うようになって、雪乃とは疎遠になってしまう。
もう初恋の雪乃と会うことはなくなってしまったのかと思っていると、高校の入学式で新入生代表を務めた雪乃を見て、エリカは嬉しかった。
成長して、ますます可愛くて綺麗になった雪乃に抱いた恋心。
そして、それと同時期に祓い屋の後継者になる為、わざわざイトコである蓮が北海道まで来ていることも、エリカは知った。
エリカは蓮が雪乃と同じクラスだということにも腹が立ったし、自分が望んでもなれないものになる男の力を試すために、わざと何も見えないふりをして、蓮を家に呼んだ。
それがまさか、初恋の相手が雪女であることを知るきっかけになるとは、思いもせずに————
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