第18話 ギャルと悪霊とかくしごと(7)
「ちょっと待って! ストップ!!」
まさかの告白。
更によほど恥ずかしかったのか、エリカは赤くなった顔を隠すように、腰掛けていた柵からパッと立ち上がって、雪乃に抱きついてきた。
「言っちゃった……まじハズいいいい」
「ハズいじゃないわよ! 放してよ!!」
「そんなひどい! こんなに好きなのに!!」
しかも告白したことでタカが外れたのか、雪乃の匂いを嗅いではぁはぁしてる。
「そういう問題じゃない!! 匂いを嗅ぐなっ!! 私にそっちの趣味はないから!! 聞いてよ、エリカ!! 私は……ずっと、あんたが私のこと嫌いなんだと思ってたのよ!?」
「え……? なんで?」
ショックを受けてエリカは固まる。
「だって……漫画好きとかキモいって、言ってたじゃない」
「は? いつ?」
「覚えてないの!?」
「覚えてないも何も……エリがこんなに可愛い雪乃のことキモいとか思うわけないじゃん。漫画好きなことのどこがキモいの?」
「え……? ええっ?」
エリカはなにも覚えていない。
そもそも、雪乃が漫画好きなことを知らなかった。
エリカがあの時キモいと言ったのは、あの男子が雪乃のことをいやらしい目で見ていた!と、小学生ながら牽制してのことだった。
些細なきっかけで、親友ではなくなった雪乃とエリカ。
再会した二人の関係は、お互いの隠し事を知ったことで、少し違う関係へと姿を変えていく————
* * *
「冷たい……」
意識がはっきりしないまま、蓮が周りを見渡すと、どうやら自分はうつ伏せのまま倒れてたのだと気がついた。
「あ、そうだ……棚が————」
棚が倒れてきたことを思い出して、体を起こしたが、どこも痛いところはなかった。
それどころか、倒れている孫を放置したま祖父が何かと戦っているのが見えるこの状況に頭がついていかない。
何と戦っているのか見えないのは、いつものことだが、自分の周りが妙に濡れている。
制服も濡れているし、水でもかけられたのかとも思ったが、あたりにバケツなんてない。
「雪——?」
よく見ると、解けきっていない雪の塊が、ところどころに残っている。
いくら北海道とはいえ、こんな季節に、しかも家の中に雪があるなんてありえない。
ぼーっとしながら見えない何かと戦っている鏡明の動きをただ見ていると、
「まったく……エリカにも困ったものだ————後片付けもしないで、どこへ行ったんだ!! 蓮!! お前起きたなら、その……あれだ! ケータイとやらで
不意にそう叫ばれて、蓮はハッと我に帰る。
「浅見さんを? なんで?」
「こんなに大勢の悪霊をわし一人で祓えというのか!? 老体を労れ!」
浅見というのは、祓い屋道場の門下生だ。
いくら鏡明が力の強い祓い屋であっても、この家の悪霊の数は多すぎた。
エリカの父には曰く付きの骨董品を集める趣味があり、また変なものを家に持って来たみたいだからどうにかして欲しいと頼まれ、鏡明は一人でここへ来た。
それがまさか、こんな数の悪霊がいるなんて、聞いていない。
頼んで来たエリカも、いつの間にかどこかへ行ってしまったし、この後さらに浄化の儀式もする必要がある。
鏡明一人では大変だった。
「じいちゃん……あれだけ言ったのに、また携帯持たずに来たんだね」
「うるさい! あんなもの、なくても生きていけるわ! それに、使い方がよくわからん!!」
こういう時に使えばいいのに、鏡明は機械が苦手すぎて一応携帯は持っているが、いつも不携帯だ。
蓮は呆れながら、ポケットに手を入れて、スマホを取り出そうとした。
しかし、いつもスマホを入れているズボンの右のポケットにも、反対のポケットにも、後ろのポケットにも、スマホが入っていない。
「え……俺のスマホ————」
もう一度あたりをよく見回すと、蓮のスマホは開いた覚えのないトークアプリの画面のまま、床に放置されていた。
「何してる!! はやくせんか!!」
「う、うん!!」
不思議に思う暇もなく急かされて、蓮は浅見に電話をかける。
まさか、蓮が倒れている間に、エリカが雪乃の連絡先を勝手に入手していたなんて、思いもせずに。
蓮は何も知らなかった。
エリカが実は自分とは違って幽霊や妖怪が見えることも、エリカが雪乃を好きなことも、何も知らない。
そして、もう一つ。
この祓い屋の祖父が、その雪乃の雪女の姿を見て、何を思ったのかも————
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