第16話 ギャルと悪霊とかくしごと(5)
雪子は、最近娘の様子がおかしいことに気がついていた。
いつにも増してニヤニヤしている。
学校で何かいいことがあったのか聞いても、以前は今日のレンレンがこうだったとか、ああだったとか、蓮に関する話ばかりしていたのに、ゴールデンウィークが終わってから、彼の話をすることはパタリとなくなっていた。
それだけでも十分様子がおかしいのだが、さらに今日は玄関のドアも開けずに、雪女の姿のまま壁を通り抜けて家に帰ってきた。
しかも、頬に傷をつけて、何かに怯えた表情で。
「雪乃ちゃん!? どうしたの、その頬の傷は!!?」
「……え? あぁ、なんでもないよ」
「なんでもないわけないでしょう!? 一体何が————」
可愛い娘の……親だからではなく、世間から見ても可愛い娘が頬から血を流しているなんて、なんでもないわけがない。
雪子は雪乃を問い詰めたが、それでも雪乃は頑なに何が起きたのか話さなかった。
「本当に、大丈夫だから……」
そう言って人間の姿に戻ると、自分の部屋へ逃げるように入って行った。
雪乃は一体、何を隠しているのか……
雪子は心配でたまらなくなる。
「
雪子がその名を呼ぶと、白いウサギが姿を現す。
「ずいぶん久しぶりですね、お嬢様。お呼びですか?」
ウサギはその可愛らしい姿には似つかわしくない、低い声で返事をすると、主人である雪子を赤い瞳でジッと見上げる。
「娘の……雪乃の様子がおかしいの。あの子何か隠し事をしているわ……」
「隠し事? そんなに気にしなくても、あのお年頃ですよ? 隠し事の一つや二つ、可愛らしいものではないですか。あまり干渉するのも、よろしくないかと……」
「うるさいわね! 黙って主人の命令に従いなさい。あんた明日から、雪乃が何を隠しているか探ってきて」
「……かしこまりました」
ウサギは主人に一礼すると、姿を消した。
「相変わらず生意気ね。たかがウサギの分際で……」
いつも優しい雪子のこんな一面を、雪乃は知らない。
もちろん、雪兎という妖怪を使役していることも————
* * *
(何があったかなんて、私が知りたいくらいよ……)
突然現れた、雪女の姿でいた自分が見える老人……
あの老人につけられた頬の傷は、かすり傷だったが、もしも直撃していたらと思うと怖くてゾッとする。
それに、見えないと思っていたエリカと目があったのだ。
(エリカ……私を見て笑ってた)
エリカの家にいた悪霊は、あの部屋にたくさんあった骨董品のせいであることは間違いない。
しかし、いったい何故エリカは見えていないフリまでして、見えない蓮をあの家に呼んだのか……
もしも蓮があの時、棚が倒れる前にエリカを押し出していなければ、エリカ自身も棚の下敷きになっていたはずだ。
「レンレン……大丈夫かな?」
意識を失った蓮の様子が心配で、雪乃はスマホで蓮とのトーク画面を開く。
まだ友達登録を初めてした時に送ったスタンプが2つしか並んでいない、殺風景な画面に、『大丈夫?』と入力したところで手を止めた。
送信ボタンは押せない。
雪乃の姿が見えていない蓮には、雪乃が心配する理由がわからない。
不審に思われてしまう。
エリカの家に戻ることも、祓い屋である蓮の家に行くこともできず、連絡も取れない。
ベッドの上にスマホを叩きつけるように置くと、雪乃は大きなため息をついた。
「どうしよう……」
困っている間に、スマホ画面の電気は消えて黒い画面に切り替わったが、すぐにまた光り、通知音がなる。
レンレンのコスプレ写真が背景のロック画面に、登録していない相手から届いたメッセージが表示されていた。
「エリカ……!?」
雪乃はエリカに、昔よく一緒に遊んだ近所の公園に呼び出された。
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